第136話 『女神様の神罰』の効能

4日掛けて毎日買い出しを行った事で、それなりの量の海産物を入手出来た。

初日に苦労したおばちゃん軍団のノーブレス攻撃だが、流石に連日という訳ではなく、翌日からは60%ぐらいに収まっていたが、それでも十分な殺傷能力を有していた。

連日大量に購入して行く俺達を不思議そうに見ていたが、そこは商売人。あまり突っ込みを入れる事無く、察してくれているっぽかったのは幸いだった。


そして俺達は、5日目朝の買い出しを終え、ランドフィッシュ村での買い出しを取りあえず終了し、マーラックへの移動を開始したのだった。


「やっぱり、誰かに毎日買い出しして欲しいよねぇ。良いなぁ~ 海沿いの市場って。」


「フフフ、ケンジさん、本当に海の幸がお好きですねぇ。というか、食べ物全般ですかね?

あまり衣服等にはご興味ないみたいでだけど、食べ物に関しては強欲ですよね?」

と走る馬車の中、アケミさんが笑いながら語って居る。


「うーん、確かにそうだね。

大体の行動の起因って言うのかな? それは食に繋がってる気はするね。」


やっぱり前世の死因が餓死っぽかったからかなぁ?等と頭の中で考える健二。

よくよく考えても前世ではそれ程食べ物に執着していた記憶は無かった。

バブル期の独身時代、贅沢をする訳でも無く、コツコツ働き、貯金し、食べたい物を自炊して食べ、たまに外食や旅行というライフスタイルだった。

しかし結婚後は、殆どまともな食事の記憶は無かった。

幼い聡の為に食事を作ったり、デザートを作る事はあったが、自分の為に、自分の食べたい物をという発想すら無かった気がする。

離婚後はもっと酷くて、人様に迷惑が掛からぬ様にた……だ生きる事に必死過ぎて食欲の欲の種類が違った。



あぁ~、何か考えると空しくなっちゃうから、もうこんな過去は忘れよう。


「まあ、そんな事より、マーラックに行ったら、勿論ライゾウさんの所にお寿司食べに行くからね?

ちゃんとお寿司の分はお腹空けて置いてね。

ライゾウさん、元気かなぁ?」


「フフフ、ライゾウおじさんのお寿司楽しみです!

あのお寿司食べちゃうと、他のお寿司が物足りなく感じちゃうんですよねぇ。」

とアケミさんが嬉しそうに微笑んでいる。


そしてハッとした表情になり、


「ねえ、ケンジさん、あのぉ~ 正直に答えて頂きたいんですが、私ケンジさんと逢ってから太りましたか?

レベルアップした所為か、身体は軽く感じるんですが――」


どうやら、ランドフィッシュ村の市場でおばちゃん軍団に言われた一言が気になっているらしい。


うーん、太った? そうかな?


「俺は毎日一緒に居るからか、全然判らないけど、えーー? 全然判らないし――

あー、もしかして表情じゃないのかな? 丸くなったよりという、より自然な柔らかい表情をする様になったからじゃない?

なんかね、出会った頃の堅さが無くなって、自然な良い笑顔が表情に柔らかさを持たせてるんだと思うよ?

うん、良いね。出会った頃も美少女?美女って感じだったけど、今の方が断然可愛いと思うよ?」


何気に感想を述べたつもりだったんだが、アケミさんからボッっと音がする様な感じで顔から全身真っ赤にして、

「そんな……断然可愛いだなんて、エヘヘ」と斜め下に目を逸らして呟き、クネクネしていた。


「あ……」

と俺も自分の言った事を実感してしまい、思わず赤面。


<主ー、ナイス!!>

とピョン吉の声が頭に響いていた。




正規に城門を通って久々のマーラックの街並みを楽しむ。

時々ピョン吉の指定する屋台に寄って購入させられるのだが、大抵の屋台はピョン吉達と俺を覚えていて、

「あれ? 今日は黒い猫ちゃんがいねぇーな?」

とジジの事を聞いて来たりしていた。

ジジは何気に人気だった様だ。


一旦別荘の方に馬車を置き、ピョン吉達とマダラ達の世話を頼んでから、ライゾウさんの雷寿司へと向かう。

俺もアケミさんも、心というか胃袋が急かすので、知らず知らずの内に早足になっていた。


そして、やっと辿り着いた雷寿司の扉を開けると、


「へぃらっしゃーい。」

と聞き慣れない威勢の良い声が聞こえた。


「あれ?」と思っていると、新しくスタッフが増えていて、若い少年がカウンターの上を台拭きで拭いていた。


「おう!ケンジ君じゃねーか!それにお嬢も! 久々だなぁ!」


「お元気そうで何よりです。新しい人増えたんですね?」


「こんにちは、ライゾウおじさん! また来ちゃいました!」


「おぅ、仲良くやってるな!? フフフ。」

とライゾウさんが満面の笑みを見せてくれた。


やっぱり、目の前に握ってくれるお寿司は格別で、心に染み渡る物があった。


「ハッハッハ、ケンジ君はいつ見ても美味そうに食べてくれるな。

職人冥利に尽きるぞ。」


「いや、本当に美味しいですからね。

ほら、前回お持ち帰り分を作って頂いたじゃないですか。

あれも勿論美味しいんですが、何でですかね? ここで目の前で握って頂いて食べる方が格段に美味しい気がするんですよね。

やっぱり雰囲気なのかな? フフフ。でも今日もお持ち帰りしたいんですが、良いですか?」

と打診すると、苦笑しながら了承してくれたのだった。



夕方、別荘に戻ると既に全員が戻って来ていたので、久々の再会に花を咲かせた。


「ケンジ様! 屋台凄いですよ! たこ焼きも鯛焼きも飛ぶ様に売れてます!」

「オイラもかなり上手く焼ける様になったんだよ!」

「私はお金の計算が早くなりました? 多分」


等と色々と近況を嬉しそうに報告してくる。


出会った当時はガリガリだった身体も、シッカリと成長していた。

そして何よりも幸せそうな笑顔が全員に満ちていた。


「あの、ケンジ様、ちょっと相談がおましてな。今よろしおまっか?」


トビゾウさんが真顔で言って来た。

内容としては、海産物の仕入れと屋台に加え砂糖の卸しが入った事で、人員が足り無いという事であった。


「そっか、じゃあ明日にでも増やしに行こうか。丁度定休日だし、申し訳ないけど、サンジさんとトビゾウさん、一緒に行ってくれる?」

とお願いすると、「「勿論です(でっせ)!」」と快諾されたのだった。

どうやら、かなり我慢して頑張ってくれていたらしい。



翌日朝食を済ませると、ウェンディー商会へと3人でやって来た。

久々にランコさんと逢ったのだが、美人のお姉さんっぷりは健在で、

「お久しぶりですケンジ様」

とニッコリ笑顔で出迎えてくれた。

どうやら俺の事を覚えてくれていたらしい。


必要な人員の中に魚等の目利きが出来る人も加え、3名程と伝えると、


「前回と同じ様な感じでも宜しいんですよね?」

と確認して来たので、頷くとやはり部位欠損のある人や訳ありの人選をして男女5名程連れて来たのだった。

中に魚の行商をしていた人物も居て、なかなか粒揃いである。


即決で5人全員と契約し、その日の内に全員治療して新しいメンバーにしたのであった。

新しいメンバーは、

ヤイコ(18歳)女性、エイジ(27歳)男性、リンゾー(16歳)男性、サナエ(16歳)女性、タスケ(22歳)男性

の5名である。

中でもタスケさんは元魚の行商をしていたのだが、行商の途中で事故に遭い、片手を馬車に挟まれ切断し、更に頭まで打って生死の境から生還したらしいが、いつもの様に治療費が払えずに借金奴隷となったらしい。

で、このタスケさんがどうやら、滅茶苦茶魚関係で顔が広いらしく、ドンピシャの大当たりであった。


俺は即座にタスケさんに海鮮関係の仕入れを全部任せる事にして、鰹節からランドフィッシュ村の屋台の海鮮汁の件まで全てを任せる事にしたのだった。


また、エイジさんは、元商会の番頭をしていた人物で、性格的にも問題が無かったので、砂糖関係を任せる事にした。



 ◇◇◇◇



マーラック滞在中の5日間で、小豆を使った餡子の作り方を伝授し、鯛焼きに小豆餡バージョンを追加させた。

また、拠点からB2~B5をゲートで連れて来て、馬車二台をここでの足にして貰う事にした。


B2~B5には一応ここでやってくれるかを打診したのだが、

<やったーー! やっと俺の時代が来るぞーー!>

<主ーー、僕もがんばるーー! わーーい>

と全員大喜びしていた。

どうやら出番が少なかったのが寂しかったらしい。フフフ、なるほどね。


また海鮮類の仕入れ用と砂糖の卸し用のマジックポーチを各1個渡し、買い出しに必要なお金もこれまでよりも多めに渡しておく事にした。


「えっと……ケンジ様、こんな金額のお金を持つと、手が震えるっすが。」

とプルプル震えながらタスケさんが受け取っていた。


そしてその後、トールデンで1泊し、全員が変わりなく幸せに暮らせているのを確認した後、次なる目標に向かって出発したのであった。

ショーキチさんの所のケンタロー君も可愛く育っていた。

首も座ったとの事で、1回だけ抱っこさせて貰って、デレデレになってしまった。

ああ、堪らん!!



そうそう、トールデンでもアルデータ王国が崩壊した事が話題に上っていた。

何でも、『女神様の神罰』が相当効いているらしく、風の噂では、獣人達や所謂亜人と呼ばれる種族に対する横柄な差別が彼の国で鳴りを潜めたとの事だった。


それを聞いて、ちょっとだけホッとした健二であった。

まあ、それで自分がやった事が消える訳ではないのだけどな……と心の中で自嘲していたが。

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