第135話 ノーブレス攻撃再び

翌朝、朝食を取った後、スタッフ達に見送られ城を出発した。

尚、今回のメンバーだが、俺とアケミさん、ピョン吉、コロ、サリスのみである。

ジジが何故来ないか?というと、現在卵を温めている最中なのだ。


初めて知ったんだけど、魔物って魔素溜りから自然に発生するのもあるけど、通常番いの魔物の場合は、雌が卵を産み、その卵から生まれるんだって。

いやぁ~、ビックリでした。


という事で、ジジは黒助と一緒に卵を温めている最中なのでお留守番となった。


あと、今回の馬車だけど、冬の間にやっと完成した2型になっている。

当初に作りたいと思っていた、室内を空間拡張させたキャンピングカー仕様となっている。

だから、内部は20畳よりも広いぐらいかな。

トイレも風呂もキッチンもリビングも付いてるし、勿論ベッドルームもある。

もう最高っす! 何か子供の頃に憧れた秘密基地っぽくて、凄く嬉しいんだよねぇ。



外門を出た後、暫く走って拠点の城壁が見えなくなった所で、ゲートを発動し、アケミさんのご両親のお墓の近所にショートカットしたのだった。


「あれ? ここって、え?」

と内緒にしてたので、驚くアケミさん。


「フフフ、せっかく一瞬で来られる手段が出来たから、やっぱりここに来なきゃだよね。

ささ、早くお参りしようよ。」

とお花とお供え物を持ってお墓へとやってきた。


一冬を超えた事で、去年綺麗にしたお墓もかなり汚れていたので、周囲の雑草を綺麗に取って、墓石にクリーンをかけた。

ハンカチを敷いて、お供え物と花を置き、2人でお参りした。


俺は……なかなか先に進む事が出来ない精神的な現状のお詫びを墓前にして、もう少しご猶予をお願いするのであった。

それに、仮に今の状態で先に進もうと思ったとしても、現実問題アケミさんを不幸にするだけだからなぁ……。

しかし、何だろうね、この若さで…… 最初から枯れてるってのはなぁ。

だからと言って、オーク等が持ってる『絶倫』スキルとか、羨ましくなんかないんだからね?




その後は、アケミさんの出身地であるランドフィッシュ村に立ち寄って、お買い物である。

去年の経験から、俺は市場に入る前から隙を作らない様に気合いを入れて戦いに挑んだ。



――が、市場に入り7mも進まない内に、早くもおばちゃん軍団にインターセプトされ、ノーブレス攻撃に晒されてしまったのだった。

しかも、敵は去年よりも更にパワーアップしていた。


「あーら、アケミちゃん、どう?新婚生活は慣れたの? まだラブラブなの? 子供はまだなの? ウフフ、若いって良いわねぇ~。本当に良い男捕まえたわねぇ~。おばちゃんも、あと5年若ければねぇ~。ウフフ。」

「あら、アケミちゃん、少しふっくらした? 良いわねぇ~幸せそうで。ガハハ。そうなの? あっちの方は? 若いからねぇ~。私も新婚時代は毎日凄かったわよぉ~。アケミちゃん、あんた肌がまた一団とツヤツヤになってるわねぇ~。髪の毛もサラサラだし。」

「あ、聞いた? サツキちゃん所は、今4人目がお腹に出来たのよぉ~。毎年1人のペースだから凄いわよねぇ~。 やっぱり生牡蠣が凄いって言ってたわよぉ~。グフフ。家も今夜は生牡蠣にしようかしらぁ~。」

「アケミちゃんのところの旦那さんはどうなのよ? やっぱり外国人だけにあっちの方は凄いの? 良いわねぇ~。そう言えば、今は何処に住んでるの? え?旦那さんの故郷なの? 家は広いの?」


等々、完全に下世話な話題で俺の確実にHPを抉って行く。

このままでは拙いと俺は『気配遮断』スキルを全開にして、アケミさんに合図をしてから、離脱を謀るのであった。



やっと脱出した後、

「しかし、魚介類の買い物と、あのおっちゃんに海鮮汁の注文したいだけなのに、本当にこの市場はヤバいな。」

と思わず毒を吐いてしまう。


「ごめんなさい、何か何時にも増して凄かったです。ハァ~。」

と流石のアケミさんもゲッソリとしていた。


「ハハハ、まあ欲しい物を向こうから持って行きなさいって勧めて来てくれるから、入手出来たし、それは良かったんだけどね――」


「ええ、でもちゃっかりお金は取られましたね。おばちゃん達の『持って行きなさい!』はタダじゃないんですよね。フフフ。」


「まあ相場より安くしてくれたみたいだから、良いんじゃないかな。普通に買うよりも精神攻撃で10倍くらいは疲れるけどね。ハハハ。」



そんな訳で、買い物の方は順調で、村の人口も増えた事で去年の二倍のペースで買い漁って行った。

実際は20倍ぐらい買っても需要に追いつかない位なんだけどね。

実際のところ、冬の間に人口が爆発したので、現在食糧倉庫からの持ち出しで賄っている品目が多いのである。

去年に買った魚介類なんかは、既に3月を待たずして、食べ尽くしている。


資金的な余裕は幾らでもあるのだが、やっぱり傍に海が無いので、塩と魚介類の仕入れは非常に厳しい。

現在は、マーラックの頼みになっているが、出来れば、塩と魚介類の仕入れ先を増やしたいところである。

一箇所で大量に買い過ぎると、目立つし、他の人達にも迷惑が掛かるので、だからこそ出来れば、後10箇所ぐらい海沿いの都市に別荘を置きたいと考えているのだ。


まあ、マーラックにBシリーズと馬車を置いて近隣に買い出しに行って貰うってのも手なんだがな。

そうすると、今の人員では足り無いから、本格的に増員が必要になるしなぁ。


「あ!そうか!! 村人達から募集すれば良いのか。」


俺が頭の中で考えている続きで思わず声を上げると、アケミさんがビクッとしていた。


「ど、どうしたんですか? 急に声を上げて。思わずドキッとしました。」


「あ。ごめん。いや、今全然魚介類や塩の仕入れが間に合ってないんだよね。人口に対して。

だから、買い出しに行く人員を増やすか、買い出しの拠点を増やすか?って考えてたんだけど、よくよく考えれば、人員2000人も居れば、誰かこっちに住んでも良いって人が居るんじゃないかってね?」


「ああ、そう言う事ですか。募集してみる価値はありますね。

ただ、内容が魚介類の仕入れとなると、それの目利きが出来る必要があるから、やっぱりそれなりの経験のある人じゃないと無理じゃないですかね? 変なのを大量に仕入れて来ちゃってもね。」


「あーー、そっか。それ重要だ! やっぱりダメかなぁ。良いプランだと思ったんだけどなぁ。」


まったく……人生なかなか思う様にはならないものだ。



ランドフィッシュ村で海鮮汁のおっちゃんに寸胴を渡してあるので、3日連日ここに通いつつ、買い出し品の数を充実させていく予定である。

空いた時間で、周囲の村で海苔や鰹節の引き取りも行う予定だ。



この村のおばちゃん軍団は苦手だが、食い物は絶品である。

久々の海の幸三昧に心と胃袋を踊らせつつ初日を終えた。


「どうしようか? 今夜は、テントにする?それともこの馬車にする?」

とアケミさんの意見を聞くと、


「え? せっかくだからこの馬車にされるのかと思ってましたけど?」

と何を今更?って感じで返された。


「あ、うん。実は馬車を使って泊まり心地を確かめたかったんだけど、女性には多少不便かもって思ってさ。」


「フフフ、お気遣いありがとうございます。でも私はケンジさんと一緒に居られるのであれば、何処でも不満は無いですよ?」

と言いながら、顔を真っ赤にしていた。


えっと、こう言う場合って何て返せば良いんだろう?


「あ、ありがとう?」


「もー、何で疑問形なんですかーー!」

と頬をプーっと膨らませていた。

どうやら『ありがとう』が正解だったらしい。

ハハハ、可愛いな。



という事で、初日の後半はクレントン村へ移動して、注文していた鰹節を受け取り、更に倍の量を注文すると、以前相手をしてくれたおじさんが、


「ま、マジかーー! そんなにも使うんかい!」

と驚いていた。


「ええ、実際は5倍くらい欲しいところではあるんですが、そうすると他の所が困るじゃないかと自粛してるぐらいです。ハハハ。」

というとドン引きしていた。


「そうか、それ程気に入って貰えているなら、こっちも頑張って3倍ぐらいまでなら他に迷惑は掛からないと思うけど、どうするね?」


「本当ですか! じゃあ、3倍の量でお願いします。」


早速おじさんの気が変わる前にと、手付け金も払って、ホクホクと馬車に戻ったのだった。



そしてそのまま村の駐機場で一泊する事になったのだが、俺の長年の夢だったキャンピングカーの住み心地は、非常に快適で、これを自分で作ったという満足感と快適さの相乗効果で、終始笑みが零れてしまっていた。


そんな俺を見たアケミさんは、

「ウフフ、何か欲しい玩具が手に入った子供みたい」

と笑っていた。


まあ、声には出さないけど、25歳の頃、TVの番組で見た海外のキャンピングカー? キャンピングトレーラーって言うのかな、あれのフォルムや内部の構造なんかを見て感心していたんだよね。

そして、旅行好きだった事もあって、何時の日か、自分のキャンピングカーで旅行三昧して廻りたいって夢を持ってたんだよね。

尤も、日本では道路事情や値段や維持費の問題で、儚い夢止まりだったんだけど、そんな夢が約30年振りに叶ったわけだから、はしゃがない方がどうかしてるってもんだよ。

夜になって、ベッドに横になったんだけど、(キャンピングカーに)興奮しちゃって、なかなか寝付けなかったのはご愛敬。

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