第78話 健二、浮かれる

 ドワースでの用事も、挨拶回りも終わり、リサさんの件も決着が付いたし、万事目出度しだ。


 勿論、孤児院にも顔出して、ちゃんと子供達の笑顔も補給し、ナスターシャさんの魔法の進み具合も確認した。

 レベルが上がってないので、MP量は殆ど横ばいなのだが、それでもなかなかに進歩が見られた。

 色々と細かいアドバイスをして、質問にも答えてやると、

「また次回までに進歩させておきます!」

 と拳を握っていた。


「うーん、本当はもう少し積極的にレベル上げをした方が、上達も早いんだけどなぁ。」

 と俺が言うと、少し顔色を曇らせ、

「判っては居るのですが、なかなかレベル上げをする環境が無くて。」

 と言っていた。


「そうか! じゃあ、ドリス君とサラさん、それにナンシーさんが行く時に便乗出来る様に言っておくよ。

 俺の別荘……ほら、あの屋敷ね、あそこに今住んでるから、時間のある時に、約束して連れて行って貰いなよ。」

 というと、


「色々ありがとうございます。今度お願いしてみますね。

 まあ、本当は、ケンジさんに連れて行って貰いたかったんですけど……」

 と言っていた。


 ごめんね、俺も早く旅を再開したいからさぁ。時間が無いんだよね。



 という事で、もう少しこっちで、活動してから帰ると言う、ドリス君とサラさんらにナタリーさんとナスターシャさんを託し、村人達と2台の馬車でドワースを後にしたのだった。



 ◇◇◇◇



 拠点に戻って来てから、時間は穏やかに過ぎて行く。

 かと言ってマッタリしていると、アッと言う間に冬になっちゃうからな。

 ドワースから戻って数日経った頃、俺は決心したのだった。


「という事で、また旅の続きをやってくる。

 じゃないと、冬になっちゃうからねぇ。」

 と俺が言うと、少しみんなが寂しそうにしてくれた。


「マスター、せめて私だけでもお連れして頂く訳には?

 何かとご不便があるといけませんし。」

 とリサさんが言って来るのだが、いや逆に落ち着かなくなるし、気を遣うから……とは言いにくい雰囲気だ。

 そもそも、男性恐怖症だった筈なんだがなぁ……。

 どうやら、ギルドでの一件以来、色々と吹っ切れたのか、それとも恩返しをしたいのか、色々と気を回して来る様になったんだよね。

 俺としては、前のままが良い感じの距離感だったんだけどなぁ。


「うん、君にはほら課題も出してるし、旅をするとその課題をやる暇がなくなるからね。

 是非ともここに残って精進して欲しいと俺は思うんだ。

 そうする事で、もし不慮の事態が起こっても、ある程度は残った俺の従魔とリサさんとで対処出来るだろ?

 そうすると、俺も安心出来るんだよね。」

 というと、ちょっと残念そうな顔をしたが、


「そうですか、なるほど。でもそう言うご奉仕の仕方もアリですね。判りました。

 マスターがお留守の間、私が一命に換えても、ここを守り抜きますから!」

 とヤル気を漲らせていた。


「いや、一命には換えなくて良いから、大事にして。

 みんなも大事だが、同じくらい俺の腹心である、ステファン君もアニーさんも、勿論リサさんも大事なんだから。」

 というと、


「ありがとうございます、マイマスター!」

 と嬉しそうに言っていた。


 ふぅ~、何とかクリアした様だ。



 さて、そうと決まれば、多少は夏の旅に備えて、馬車を改造しておくか……。


 俺は、大型の工房で馬車の室内の空調の断熱性と温度自動調節の付与を強化した。

 あと、木張りの床も椅子も、少し柔らかいクッション材を敷いた上に柔らかいフォレスト・マーダー・シープの毛皮を敷いて、フカフカにした。




 翌早朝、マダラ、B0に馬車を曳いて貰い、前回同様にピョン吉、ジジ、コロのメンバーで拠点を出発したのだった。

 パワーアップしたマダラ君達の活躍で、飛ぶ様に景色が流れて行くが、馬車の揺れは、ほぼ無い。

 まあ、それなりの横Gはあるんだけどね。


 そんな訳で、4日目の朝には、アルデータ王国のアリスタに再度到着した。

 今日はまた銀の食卓亭に宿泊して、明日の朝には未知の領域へと出発する予定である。

 銀の食卓亭にチェックインすると、宿のスタッフは、

「あら、お早いお帰りで!」

 と笑顔で出迎えてくれた。


 一旦部屋で一息着いた後、商業ギルドの場所を聞いて、宿を出た。

 商業ギルドは結構近所で、迷う事無く到着し、受付カウンターのお姉さんにお願いし、この周辺からイメルダ王国までの地図を購入した。


 受付嬢のお姉さんは、

「ケンジさんは、イメルダ王国まで行かれるんですか?」

 と目を丸くして驚いている。


「ええ、そうなんですよ。ほら、俺の居たクーデリア王国のドワースって、海から遠いじゃないですか。

 で、海の幸が食べたいし、どうせ海に行くなら、全く情報を知らないイメルダ王国の沿岸の都市に行ってみようかとおもったんですよ。

 何かこちらのギルドで、イメルダ王国の情報とか特産物とか知って居たら、教えて欲しいなぁーと思ってまして。どうでしょうか?」

 と聞いて見ると、


「ハハハ、食べ物メインですか。そうですねぇ~、直接的な情報は無いですが、国としては、ちょっと独特の食文化がありますね。

 まあ、私は食べた事も見た事も無いのですが、調味料に関しても、面白い物があったりしますから、食い道楽の人には、良いかもです。

 ただ、その調味料の見かけが、ちょっとアレらしいんですけどねぇ。ホホホ。」

 と笑いながら教えてくれた。

 見かけがアレ? もしかして、味噌か! 味噌があるのか!?


「それ、もしかして、味噌とか醤油とかって名前じゃないのですか?」

 と俺が若干興奮気味に聞くと、


「ええ、ご存知なのですか?」

 と聞いて来た。


「おおおお!!!!! やったーー!! よっしゃーー!」

 と思わず俺が叫び、大きくガッツポーズ。


 お姉さんは、カウンターでポカンとしていた。


「ああ、じゃあ、もしかして、海側では、生の魚とか食べたりしてませんか? あと海苔という海藻を使った濃い緑っぽい紙みたいなのとか無いですかね?」

 と聞くと、


「よ、良くご存知で。生魚を食べる風習があるとは聞いてますし、名前は覚えてないですが、確かに海藻から作った、パリパリの紙の様な食べ物もあるとは聞いてますね。

 ああ、そうそう、あと驚く事にですよ、あの国では、何と家畜の餌で有名な、米とかを食べるらしいでよ? 本当にビックリしますよねぇ。」

 と最高の情報を教えてくれた。


「ヒャッハーー! そうか、白米食べてるのかぁ! いやぁ、聞くだけだと良い所だなぁ。 ワクワクしてきたな。」

 と気分最高潮。


 お姉さんはそんな俺を見て、ドン引きだった。


 俺は、お姉さんに、情報料として、大銀貨1枚を手渡し、お礼を言って商業ギルドを後にしたのだった。



 いかんな、どうしよう、顔が自然と緩んで、思わず年甲斐も無くスキップしそうになってしまうーーー!

 ハッハッハ、落ち着けーー、俺。まだまだ先は遠いんだからな。

 そうかぁ、どうやら、和食文化があるんだな、イメルダ王国。


 ああ、女神様、ありがとうございます。 俺に第二の人生を与えてくれて。


 健二はこの日、終始ご機嫌で、鼻歌交じりに色々な物を爆買いし、宿に帰って明日に備えるのであった。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る