第76話 予想以上の屑でした
ドリス君とサラさんを呼んで、ついでに、ナンシーさんも来て貰った。
「来て貰ったのは、ちょっと依頼を出したいと思ってね。
護衛任務なんだけど。」
と俺が言うと、
「ん? 俺達護衛任務なんてまだやった事が無いぞ?」
とドリス君とサラさん。
「あ、あの、私もまだ無いです。」
とナンシーさん。
「ああ、大丈夫だよ。護衛対象が俺とアズさんだし。」
と俺が言うと、
「へ? いやいやいや、ケンジさんに護衛要らないでしょう? つうか、何処の国と戦争始めるんすか?」
と物騒な事を言い出すドリス君。
「失礼な、誰が人間兵器やねん! そんな余所の国を相手どって喧嘩なんか、俺らの仲間や身内、それに村人達に何かされない限り、殲滅したりしないからな?」
と俺が言うと、
「ああ、やっぱり、手を出されると、国相手でもやっちゃう感じっすか。流石っすねぇ~。」
と返された。
「誤解ある様だから言っておくけど、俺は元々ビビリィだからな?
最近は多少力が付いたから、そうそう驚かなくなっただけで、本質は小心者なままだから、そこは勘違いしない様にね。ここ重要だから。」
と俺が言うと、
「ハハハハ!! うけるぅ~~」
と3人が笑ってた。 いや、マジなんですがね。
で、護衛の意味と今回の作戦の意図を説明すると、
「ああ、なんだ、護衛を演じれば良い感じですね?」
と理解してくれた。
「そうだね。まあ表現は悪いけど、金の詰まった袋で横っ面を殴り飛ばして、弟妹を合法的に奪取して、こちらで面倒を見るって事だね。」
「あー、凄く判り易いっす。」
と納得していた。
時間が惜しいので、このままマダラとB0に馬車を引いて貰い、出発する事にした。
「という事でバタバタして悪いが、リサさんはお留守番で、アズさんの代わりにご飯の準備とかやっておいてね。」
「お任せ下さい、マスター!」
「マダラ、B0悪いけど、城門の外に出たら、無理の無い範囲で飛ばしてくれると助かる。」
<おっけー! 主ー、任せてよー>
とマダラ達も気合いが入ってる。
ただ1人、アズさんだけは、冬のソリの絶叫を思い出して、ブルブル震えていた。
午後2時前、南門から出て、エンゲル村へと加速するマダラとB0。
「おーーー! 凄いな。マダラまた早くなったな。」
<フフフ、でしょぉ~? 最近出番多いから良い感じなのーー>
<おいらも負けないっす!>
しかしスゲーな、本当に凄い勢いでそこらの馬車を抜いて行くな。
これ、ネズミ取りとかやってたら、一発免停コースだな。
しかも、不思議な事に、全く馬車が揺れないのだ。
俺はジッーーっと観察していたのだが、
「判った! これ『足場強化』スキルの範囲が広がったのか!」
とマダラに聞くと、
<へっへーー、どう? 褒めて良いよ? 凄いでしょ!>
とマダラが自慢気に言っていた。
いやはや、凄いなんてもんじゃないね。
実際には、マダラ達の曳くこの馬車はホバークラフトの様に……いや、どっちかというと、デロロリアン型のタイムマシンが活躍するSF映画に出て来る、未来のスケボー的な感じか。
完全に地面から浮いているのだ。
幾ら俺が重量軽減の付与をしているからって言っても重さ0じゃないからなぁ。
実際に速度は時速100kmは軽く超えてそうだな。
「よし、この分なら、ギリギリ今日の夕暮れまでに間に合いそうな気がするね。」
という事で、全員で作戦会議を開くのであった。
◇◇◇◇
マダラ達は、まだ大丈夫と言っていたが、4時頃に一度水分補給や栄養補給をさせて、20分程の休憩を入れた。
泉の水をマダラ達も俺達も飲んで、桃を食べて全員で蕩ける。
「いやぁ、何時食っても最高の果物だよねぇ。
あ、そうだ、今度これで、シャーベットじゃなくて、なんだっけ? スムージーか! あれを作ってみようかな。」
「何ですか? そのスムージーって。」
とサラさんが目を光らせる。
「ウーン、多分だけど、果物の実を凍らせて、シャリシャリに削ってシェイクした感じ?
多分、美味しいし、冷たくて夏にピッタリな感じかな。作った事ないので判らないけど。」
「それ美味しそう! 今度是非試しましょうよ!」
とノリノリであった。
さあ、出発である。
また空中をひた走り、何という事でしょう! 午後5時40分には、エンゲル村が見える所まで来てしまった。
夕日が滲む中、スピードを落とし、村の中に入る。
すると、ワラワラと村人達が珍しげにやって来た。
「おー、こん村に客が来るとは珍しかーー。何処からね?」
「ああ、こんにちは。
スギタ商会をやっているケンジと申します。
当方で購入したアズの実家がこちらと聞いたので、やって来たんですよ。」
と俺が説明すると、
「ああ、アズちゃんかぁ、あの子はええ子やのになぁ。あの碌でなしが……。」
と苦い顔をする村のおっちゃん。
「ええ、アズも出来るなら、弟妹も一緒に買ってくれ!とお願いされてね。」
というと、
「ああ、そん方が、あん子らも幸せかも知れんな。」
と呟いた。
馬車を停めて、『護衛』のナンシーさん(と隠れて居るアズさん)を馬車に残し、ドリス君達を連れておっちゃんに実家まで案内して貰った。
夕暮れ時という事で、他の家からは、夕食を作る煙が見えるのだが、案内された小屋からは食べ物を作っている気配すら無い。
しかも、中からは、ドカン! とか嫌な騒音が聞こえる。
「あの野郎、また子供に八つ当たりばしやがって。」
とおっちゃんが少し青い顔をしながら、慌てて走り出し、戸を叩いた。
「おーい、ゲルガー、居るとやろ? お客さんば連れて来たぞ!
ええ話みたいぞ!」
とおっちゃんが気を利かせて言ってくれた。
「ああぁ? 何ね。 まったく……。」
と痩せた目をギラギラさせた人相の悪い歳の頃は40台前半?が出て来た。
「せっかく、ええ話やけん、案内してやったんに、何ねその態度は? またお前子供に八つ当たりしとったやろ!」
とおっちゃんが怒る。
「あ? 俺の子たい、俺がどうしようと、俺の勝手やろうもん。」
と汚い口を開きながら、ほざいていた。
あーーー、もうぶっ飛ばしたい。 いや、ここは我慢だな。
「あ、君が俺の買ったアズの父親か?」
と俺が高飛車に言うと、いきなり目の色が『金』マークになった様に揉み手をし始める糞オヤジ。
「おお、そうたい。あんた何処ん人ね。 今日はええ話があるらしかけど、どん話ね?」
と猫なで声で聞いて来た。
「いやな、俺はアズを買ったスギタ商会の会長やってるケンジって者だ。
アズが、弟妹も一緒なら、もっと何でも働くからって、言うんでな。
買いに来たんだが、その様子じゃ、余り禄な扱い受けて無くて、働けなさそうだな。」
と俺が失望の色を露わにすると、焦った様に、
「いやいや、うちんガキは、文句も言わずによう働くばい。
ちょっと、まっとき、今連れてくんけん。」
と小屋に引っ込み、またガタガタしながら、小さい怒鳴り声と、子供の呻き声が聞こえた。
俺もおっちゃんも、護衛役のドリス君達も、苦虫を噛み潰したような顔になってしまう。
「おーい、まだか? もう日が暮れるから、帰るぞ?」
と俺が急かすと、中から慌てて奴が子供2人を連れて出て来た。
もうね、絶句する程の状態って、これだろう。
腕はガリガリで、目は虚ろ、小さい女の子の方は、指が1本折れて変な風に曲がってついちゃってるし、着ている物はボロボロでサイズも合って無くて、しかも裸足。
俺は思わず顔を顰めてしまった。
「何だこれは、これじゃあ、売り物にならんだろ?
お前、本当に酷いな。 これは駄目だ。」
と態と帰る姿勢を見せると、慌てる糞オヤジ。
「あああ、いや、ちょっと待ちぃって。そんな事なかけん。今日はちょっと調子の悪かだけやけん。
少し値引きするけん、どげんね?」
と必死に食い縋る。
「ああ? これが幾らって言うんだ?」
「あえ、えっと、1人10000000マルカ(金貨1枚)でどげんね?」
と巫山戯た事を言ってくる。
「アホか! 何処の奴隷商がそんな値段で売ってるかよ。 それにな、奴隷商の所だって最低限の生活と健康状態を維持して、もっと安い値段で売ってるんだよ。
バカ言ってるんじゃねーよ。お前俺が若いと思って舐めてるのか?」
と俺が軽く殺気を飛ばすと、ビビって後退りした。
「じゃ、っじゃあ、しょうがなか。2人、2人で、10000000マルカ(金貨1枚)。これ以上はまからん。」
とバカが、ほざく。
「おいおい、この子らを治療して、働ける様にするのに、幾ら掛かるか判ってるか? 中級ポーション1本で幾らすると思ってるんだよ。
これじゃあ、良い所、2人で小金貨5枚、5000000マルカでも高いぞ。 まあアズの頼みだったから来たが、とんだ無駄足だぜ。」
と俺が吐き捨てる様に言うと、
「なあ、2人で5000000マルカはひでーよ。せめてもう少し……8000000マルカな? 8000000マルカでどうだ?」
「アズの頼みという事を加味しても、赤字覚悟で7000000マルカ……いや、6000000マルカぐらいか?」
「わ、判った。じゃあ、7000000マルカだ。7000000マルカでどうか頼む。」
ふむ、まあ良いかこれぐらいで。どうせ、この先はこいつに売る物は自分以外ないし。
「しょうがねぇな。大赤字だ。その代わり、ちゃんと証文に残すから、署名と魔力印を押せよ?」
と作成してあった証文に金額を書き込んで、小金貨7枚をジャリっと袋から取り出して見せた。
「ああ、判ってる、大丈夫だ。 ここだろ? ほら、名前も書いたし、魔力印も押したぞ!」
「どれ? うむ。じゃあ、これで、お前とこの子らの縁は切れたな。これ以降何があっても、この子らの前に出て来たり、迷惑を掛ける事は許さん。
ちゃんと証文にも書いてあるからな。判ってるよな?」
というと、
「ああ、勿論だ。さ、早く金を!」
と言うので、小金貨7枚を糞オヤジの手の平に1枚ずつ落とし、7枚を支払ってやった。
俺は、ボロボロの2人にクリーンを掛けてやり、ドリス君達に合図し、抱き上げて、馬車へと戻ったのだった。
案内してくれたおっちゃんにはお礼を言って、大銀貨1枚を渡した。
「色々とありがとうございます。
お陰様で、子供らを保護する事が出来ました。
安心して下さい。この子らはちゃんと健康に伸び伸びと育てますから。」
と言って、馬車をコンコンとノックすると、アズさんが飛び出して来た。
弟妹の酷い姿を見て、抱きついて泣いていた。
案内してくれたおっちゃんは、
「アズ、やっぱり一緒に来てたのか。お前さん、随分良くして貰っているみたいだな。
幸せか? 辛くは無いか?」
とおっちゃんが、優しい顔をして聞いて居た。
「ええ、とっても素晴らしい主様です。 信じられない様な、幸せな暮らしをさせて頂いてます。」
と涙ながらに報告していた。
まあ、感動のシーンではあるのだが、あまり状態が宜しく無い。
この2人は、どうやら、頭も内臓にも色々と障害が残っている様子。
本当にあの屑は許せんな。
俺は、地面に毛布を敷いて、その上に子供を寝かせ、曲がった指から殴られて、ダメージを受けた脳、傷付いた内臓、全てを治療するイメージを練り上げて、
「パーフェクト・ヒール」
と唱えると、一番重傷だった妹の身体が眩しく輝き、まるで逆再生するかの様に、傷や痣、曲がった指、悪かった顔色も少し戻った。
ふぅ。出来るとは思ってたけど、結構MPを持って行くなぁ。まあ、MPの消費量は熟練度の問題もあるのかな?
よし、あと1人だ!
更に同様にイメージを練り上げて……「パーフェクト・ヒール」
すると、弟も妹同様に光輝き、逆再生が始まった。
俺は、2本のスタミナ・ポーションを取り出して、飲ませる様にアズさん達に指示すると、上体を抱き起こし、口を指でこじ開けてソッと流し込んで行く。
ゴクリ……ゴク…ゴク、ゴク……
子供らの顔にポッと赤みが差して来て、徐々に落ち着いた呼吸に変わり、脈も安定して来た様だ。
「多分これで大丈夫だと思う。 今日辿り着いて良かった。
明日だとヤバかったかも知れない。」
と俺がポツリと呟くと。
「ありがとうございます。ありがとうございます。」
と言って、アズさんが号泣していた。
釣られて、サラさんとナンシーさんも涙ぐんでいたが、ドリス君が大泣きしていた。
「兄貴ーー! スゲーよ!」って言いながら。
おっちゃんは、ポカンと一連の出来事を見ていたが、子供らがもう大丈夫と聞いて、涙してた。
早めにユックリ寝かせてやりたい所だが、あの糞オヤジの近くだと駄目だな。
「色々ありがとうございました。我々が責任持って、ちゃんと一人前になるまで育てますので、ご安心を。」
と言って、全員が馬車に乗り込み、エンゲル村を後にした。
真っ暗な街道を極端なスピードで飛ばすと、危険という事で、10km程村から離れた場所で、テントを張ってユックリ休む事にした。
頑張ってくれたマダラ達にも小さい厩舎を出してやり、泉の水や、いつもの餌、それにフルーツを出して、4人掛かりでブラッシングしてやった。
そして、30分ぐらいの時間差でテントに入って行くと、子供らが目を覚ましていて、泣きじゃくった跡が見受けられた。
「カーツ、レイ、この方が貴方達を助けてくれた、ケンジ様よ。」
すると、弟のカーツ君が、
「ケンジ様、この度はお姉ちゃんだけでなく、僕らまで助けて頂いて、ありがとうございました。
この御恩は一生掛けてでもお返し致します。」
と頭を下げて来た。
「あの、ありがとうごじゃいまちゅ。レイでしゅ。」
と妹も兄に倣って頭を下げていた。
「おいおい、大袈裟だな。そんな一生だなんて。お礼なら、お姉ちゃんに言いな。
お姉ちゃんがお願いして来たから、俺達が動いただけ。
間に合ったのは、女神様の采配と、横の厩舎に居る馬達がお姉ちゃんの為に頑張ったからだ。
ごめんな、もっと早くに助けてやれなくて。
さ、夜も遅いから、少しだけでも消化に良い物を食べて、小さくなった胃袋を慣らしておかないとな。」
と俺は足早にキッチンへと移動した。
さて、消化に良い物か……頭に浮かぶのは、雑炊だな。
確か前に作った茸雑炊があったな。
桃のジュースと、雑炊。まずはこれだろう。
あ、あとサンドイッチも出してやるか。
テーブルに運んで、みんなで 頂きます!
「そうだな、まずはそのジュース飲んでごらん。きっとね、身体に力が湧いてくるよ。」
と言って、ジュースを飲ませると、
「「!!!」」
2人の目が、驚きでまん丸に開かれ、ゴクゴクと飲んでいた。
「甘くて、トロンとしてて、美味しいでしゅ。」
とレイちゃんがウットリしている。
「ああ~、身体に浸みてくる気がします。」
とカーツ君も。
そして、久々に食べる食事らしい食事をガツガツと食べていた。
そんな嬉しそうな子供の姿を見ていると、いつもより、3割増しで美味しく感じた程だった。
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