第75話 本当の目的
朝日が昇る前にドワースに到着し、そのままギルドに寄ると、リサさんが待ち構えて居た。
サンダーさんに屑4名を引き渡し、事の次第を報告すると、そのまま流れでナンシーさんと俺、そしてリサさんの供述書作る事になり、最後になった俺の供述書作成が終わり、やっと解放されたのは、朝の9時過ぎであった。
俺がガッツリ疲れた顔で1階のロビーに戻って来ると、ナンシーさんとリサさんが何か話し込んでいた。
取りあえず、邪魔をするのもなんなので、先に仕留めたオーガの件を受付嬢に報告して、素材を渡して置いた。
そして一応ギルドでの用事が終わったので、2人の所へ行くと、リサさんが、真剣な表情で、
「マスター、ちょっとお願いがあるのですが。」
と言って来た。
「ん? どうした?」
「実は、このナンシーさんなんですが、かなり懐具合が厳しいらしく、今回の討伐依頼で何とか食いつなぐ予定だったらしいんですよ。
それで、宿代も、今朝の朝食代すら無い状態らしくてね。 何とかなりませんかね?」と。
「ああ、そう言う事か。宿舎の方に部屋余ってるし、疲れただろうから、取りあえず、朝風呂にでも入って、飯食って一眠りすると良いんじゃないかな?
疲れが取れたところで、今後の事を相談するか。 どう?」
と俺が提案すると、
「ほ、本当に宜しいでしょうか? 助けて頂いた上、更に甘える事になるなんて……心苦しいです。」
と下を向いて呟く。
「うん、別に問題は無いし、ついでだから気にしなくて良いよ。
それにさ、お腹減って、お金に余裕無くて、切羽詰まっていると、良い考えも浮かばないし、悪い事ばかり考えるからさ。
まずは、腹一杯食って寝て、英気を養って気分に余裕を持たせよう。
俺も、経験者だから、切羽詰まった時の気持ちは理解出来るからね。気にするな。」
「あ、ありがとうございます。 こんなに沢山の優しさを貰ったのは……初めてです。」
と少し泣いていた。
あーー、アカン。 俺の前世のあの時とダブル。
思わず、涙でそう。
「さ、行こうか。」
と言って、先に冒険者ギルドを出た。
ジジとマダラを連れて、朝の街を歩いていると、途中ジジに強請られて、屋台の肉串等の貢ぎ物を何本も買わされたのだった。
まあ、今回は本当に助かったので、俺も文句は無いよ?
気になる後日談だが、この屑4名と旧ラスティン支部のギルドマスターは犯罪奴隷となり、多額の賠償金が発生する事となったらしい。
また、被害者の女性で生存し、奴隷墜ちしていた人には、ギルドからの保証で解放され、更にギルド自身が不正に拘わっていた事の賠償金が支払われたらしい。
当然リサさんにも払われたようだ。
これで、リサさんの名誉も回復した訳だし、俺的にはかなりスッキリした。
別荘に着くと、リサさんに言って、宿舎の方に案内させ、取りあえず、朝食と風呂に入らせて、部屋で寝かせた。
俺も、屋敷で朝食を取ってから、風呂に入り、サッパリとした。
さて、今回ドワースに来た最大の目的の一つを先にやってしまおう。
ジョンさん一家を部屋に呼んで、ソファーに座って貰った。
「悪いね、身重のところを呼んでしまって。実は話があってね。
ジョンさん一家にはとても良く働いて貰っていて、本当に感謝している。
でだよ。奥さんももう少ししたら、出産でしょ?
どうせ、赤ちゃん、新しい命を抱くのなら、やっぱり奴隷のままじゃなくて、普通の状態で生みたいだろうし、赤ちゃんも奴隷の両親の子は可哀想だと思うんだ。
どうだろうか? 俺は君達全員を解放したいと思っている。
しかし、解放後もここで働いて欲しいんだ。お願い出来るだろうか?」
と聞いてみた。
最初は、話の流れで身構えていて、顔が強張っていたジョンさんとヤリスさん(ユマちゃんは意味が判らず、ただニコニコしてた)だったが、最後の言葉で泣き始めてしまった。
「け、ケンジ様!! ほ、本当に良いのでしょうか? 私共はズッとお側でお仕えしたいと思っております。要らないと言われてもズッと、ズッと。」
と男泣きするジョンさん。
「ヤリスさんもじゃあ、それで良いかな?」
と聞くと、嗚咽を漏らしながら、「……ハイ、宜しく……お願い…致します。」と小さい声で途切れ途切れに言っていた。
「あ、ユマちゃん、別に俺が虐めた訳じゃないからね?」
とキョトンとしているユマちゃんには、弁解しておいた。
そして、3人の首の下を出して貰い、俺が『リリース』を掛け、3人が一瞬光に包まれ、奴隷紋が消えたのだった。
「おーー、上手く行ったな。」
そう、事の発端は拠点の風呂場での事だ。
何の気なく、ジョンさんの赤ちゃんの出産時期の事を考えてたんだよね。
そうすると、やっぱり、奴隷の子ではなく、普通の子として生まれたいじゃないか。
ジョンさんやヤリスさんだって、どうせ生まれた子を抱くのであれば、普通の身分でスッキリして迎えたいと思うだろ?
湯船の中で、そんな事を連想しながら、考えててさ、そもそも奴隷商に行かなくても、奴隷紋の解放出来るんじゃね?と思った訳ですよ。
なので、ステファン君の奴隷紋をお願いして、湯船の中で、ジックリと詳細解析した訳ですよ。
そうすると、なんと優秀な事に、その中に奴隷紋を刻む奴隷魔法と解放する為の解放魔法の情報があってね、まあどっちも闇魔法の派生魔法だったんだけど、それをマスターしちゃったんですよ。
で、試しにステファン君に解放(リリース)と奴隷とを交互に試させて貰ったら、両方成功して、最後にステファン君、アニーさん、リサさんを勢いで、解放しちゃったんだよね。
で、こちらの別荘で、彼らを解放するのが今回の目的だったという訳。
「ところで、アズさんだけど、余り俺と絡む接点が無いので、あれなんだが、どう?
働きぶりとか、人柄とかは?」
とジョンさんに聞いてみた。
アズさんのストーリーは、碌でなしの父親の借金を精算する為に売られたって事だった。
弟や妹が売られるくらいなら、私が! と手を上げたと書いてあったんだよね。
だからこそ、幼い弟妹の面倒を見て、母親代わりもしていたからこそ、育児にも、家事にも、料理にも精通しているという事だった。
情に厚く、面倒見の良い人柄と書いてあった。
「ええ、彼女は本当に良くやってくれています。
ユマも凄く懐いてまして。今や家族の一員の様な気持ちで居ますよ。」
とジョンさん。
ふむ。やはり問題は無いか。
「じゃあ、悪いけど、アズさんもここに呼んで貰って良いですかね?」
というと、
「あ、じゃあ、ユマが呼んでくるーー!」
と掛けて行った。
ハハハ、転ぶなよーー。
暫くすると、アズさんがやって来た。
「何かご用でしょうか?」
「ちょっと、ここに座って。
少し話をしたいと思ってさ。」
というと、緊張した面持ちで、ジョンさん達に並んで座るアズさん。
「ああ、緊張しなくても大丈夫だからね。
ジョンさんからも聞いたけど、大変良く働いてくれているらしいね。
いつもありがとうね。
で、暫く働いて貰っている訳だけど、どう? ここでの生活は?
何か不満とか、足り無い事とか、要望とかは無い?」
と聞いて見ると、
「いえいえ、そんなお礼なんて。本当に凄く良くして頂いてます。
仕事もきつく無く、ちゃんとご飯も3食も食べさせて頂いて、その上お給料まで頂けるなんて、本当に夢の様な毎日を過ごさせて頂いてます。
感謝しかありません。」
とアズさん。
「そ、そうか。
では、今後も俺の所で働いてくれるかな?
実はね、今回こっちに来た本当の目的は、君らを解放する為だったんだよ。
君らが要らないという意味の解放では無く、奴隷から解放して、通常の雇用主と使用人という立場にしたいと思ってるんだよね。
で、まあ君らを縛る訳でも無く、本当に望むなら、出て行く事も可能だけど、出来ればこのまま働いて欲しいと思っているんだ。
どうだろうか?」
と聞くと、やはり泣き出した。
「そ、そんな私は借金の形に売られ、その……買って頂いたお金の分すら、お返し出来てないのに、良いんでしょうか?」
とアズさん。
「ああ、じゃあ、その感じだとこのまま働いてくれそうだね。良かった。」
という事で、アズさんもリリースした。
「あと1点、アズさんには心残りというか、心配事あるんじゃない? 弟さんと妹さんの事。
俺もちょっと気に掛かってたんだけど、出身って何処だっけ?」
と聞くと、馬車でここから1日ぐらい南に向かったエンゲル村って所らしい。
母親は末の妹を産んだ際に亡くなって、代わりにアズさんが面倒を見てきたと。
「そうか。それは心配だな。こっちに弟妹だけ呼べないかな?
碌でなしの父親なんて、要らないっしょ?」
と聞くと、「ハイ!」と目に力を込めて断言していた。
そして、あの父なら、必ず、弟妹も売りに出すと……。
「よし、じゃあ、買いに行こう! 言い方は悪いけど、先に金払って、手を切ってしまえば、後は関係ないよね?
居なくなったら、売り様が無いし。 金は手切れ金代わりとでも思えば良いじゃん。俺が出すし。」
「あ、ありがとうございます! 私で良ければ一生お側で働いてお返し致します。」
と本格的に号泣していた。
「うん、号泣は止めようね。それは弟妹揃った時まで取っておいて。」
と言って、ドリス君達と算段に入るのであった。
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