第28話 意外にチョロかった (改)

「ちょっと喉が渇きましたね。

面白い物でも飲んでみますか?」

と言ってグラスにサイダーを入れて氷を浮かべてやった。


「さ、ピチピチして、美味しいですよ。サイダーって言うんです。

ああ、やっぱりサイダーはたまに飲むと美味しいなぁー。」

と炭酸を楽しむ。


茶請けに、先日試作したお手製のシュークリームも出してやり、食べて飲ませる!!

こう言う時に、出し惜しみは悪手だ! 攻勢を掛け、一気に意識を刈り取らねばダメだ。


すると、

「あら、甘い匂い! 何それ!?」

とお姉さんが先に陥落。


「うぉ! 何じゃこりゃ。 喉越しで弾けてやがる! 美味いな。

おおお! これなんだよ? 中にクリーム? いやなんだ? 黄色いな。これも美味いぞ!」

と2人は口の周りをカスタードクリームだらけにしながら、バクバク食べていた。



フフフ、ここまで来れば、もう大丈夫だろぅ。

下手に長居をして、ボロを出す前に、ドロンするしかあるまい。


「さてと、ソロソロ、夜も遅くなって来ましたね。 俺も帰らないと。 従魔達が心配してるでしょうから。

じゃあ、ガバスさん、申し訳無いですが、あの元受付嬢の件、お願いしますね。」

とお暇を口にすると、


「え?もう帰っちゃうのか? いや一泊ぐらい泊まって行けって。

それに、まだ伝えておかないといけない事もあるんだよ。」

とガバスさんが焦り出す。


「ん? なんですか? 伝えないといけない事って。」

というと、


「2つある。

1つは、冒険者ギルドの事だ。

まず、お前のカードはAランクに上がって、今でもお取り置きされている。

これは、ギルド本部とサンダーの絡みもあって、是非とも受け取って欲しい。

大ぴらになるのが嫌ってんなら、俺がギルドマスターに掛け合って、何とか穏便に行く様に済ませるから。

おそらくだが、それが無いと、あの元受付嬢の借金返済に関しては、上手く処理出来ねぇだろう。

ほら、王家まで絡んでしまっているからな。

だから、お前の気持ちは重々に判るんだが、何とか折り合いを付けて、カードの受け取りと、その口座に振り込まれた買取金額の確認をして欲しいんだ。

頼む。この通りだ!」

とガバスさんが頭を下げた。


ハァ~そうなのか。

まあ、ギルドマスターにも一応世話になった? んだよね? うーん。


「――判りました。では、取りあえず受け取る事はしますが、何かややこしい話に発展するなら、拒否して消えます。

もう、あの手の面倒事は懲り懲りなんで。」


「判った、じゃあそれは俺が責任を持って、ギルドに掛け合う。

それとあと1点。お前全然商業ギルドの方にも顔を出してないだろ? ケンジと俺とで契約しているだろ?

お前の口座、酷いぞ? ガハハハハハ。」

と爆笑するガバスさん。

釣られる様に、お姉さんも、大笑いしている。


「え?どういう事?」


「俺も商業ギルドの口座に契約通りロイヤリティーを振り込んでいるが、雷光の宿のハゲじゃないジェイド!

あいつも、お前の口座にパンの件で売り上げの一部を振り込んで居るんだよ。

ある意味、多分、冒険者のギルドカードの口座より、ヤバいぞ?」

と悪い笑みを浮かべるガバスさん。

お姉さんは、クックックと笑ってる。何この2人のチームプレー。


「ああ、そう言えば、確かに天然酵母の作り方とそれを使ったパンの発酵のさせ方を教えたなぁ。

へー、あれを物にしたんですね? ハゲなのに?」

というと2人とも爆笑している。


つまりどうやらそう言う事らしい。


「へーー、それは是非食べてみたいですね。

俺も拠点を作ってから、自分でも焼いて食べてるんですよね。

確かに、美味しいんですよね。天然酵母。優しいフルーツの持つ香りがして。

そっか、物にしたんだ。良かった良かった。」

と喜んでいると、


「それで宿屋が爆発してな! ああ、客が殺到ってこった。

で、結局別にパン屋も経営する様になってな。街のみんなも高い事は高いけど、週に1度とか月に1度とかは贅沢して買ってるんだよ。

で、そのパン屋も爆発してる。ハゲだけどな。」

とガバスさん。


「会長、そんなにハゲハゲ言うと、ハゲが可哀想ですよ。ハゲだって生きて居るですから。」

と身も蓋もない言い様のお姉さん。


「「いや、あんたが(お前が)一番容赦ないし。」」

と思わず2人で突っ込んでしまう。



「しかし、マジかぁ。それは凄いですね。で、その売り上げの一部が商業ギルドに入ってると!?

わぁ、益々商業ギルドに行きにくいなぁ。

絶対に鬱陶しい感じに絡んで来ますよね? 商業ギルドの人達が。

俺、何か露骨な媚びとか売られると、ゲンナリしちゃうんですよ。

これでも、一時期よりは大分マシにはなっていると思うんですがね。」

というと、2人が可哀想な人を見る目になる。


「まあ、何だ、それに関しても、一応先に俺が伝えるから。」


「あ、そうだ!! もう一つ聞いて良いですか?

女神エスターシャ様ですが、何処かに神殿とか教会とかってあったりするんですか?」


「ああ、あるぞ。何処の街にも神殿が。

神殿本部は、マスティア王国の霊峰、エスター山にあるが。」

と。


「なるほど。じゃあ、もう1つ。この街の孤児院とかってのはあったりするんでしょうか?

孤児が大きくなるまで面倒を見る感じのところですが。」


「ああ、孤児院で合ってる。孤児院は神殿とセットになってる。これは何処の都市でも同じだな。」


「なるほど!!了解です。」

と言ってニンマリ笑う俺。


「で、どうする? 今夜は泊まるか? それとも出直すか?」

とガバスさんが聞いて来た。


「うーん、実は俺、ここに来るのは直接来ちゃってて、城門通ってないんですよ。

正確には、城壁の遙か上を通って来たと言いますか……。

つまり、今騒ぎになると、非常に拙い気がしてるんですよね。

だから、もしギルドに行くなら、一旦日を改めて、仕切り直して、城門から入りたいと思ってるんですよ。」

と俺が言うと、2人とも「「ゲゲッ!」」って声を揃えて苦い顔をしている。


「判った。じゃあ、明後日の朝で良いか? 俺がセッティングしておくから。」

とガバスさん。


「ええ、それでお願いして良いですか?」

というと 任せろ!と胸を叩いていた。


「帰る前に、もう1つだけ。

計算に関してなんですが、200マルカのパンを8個買った時の金額の計算って皆さんどうしてます?」

とさっきの屋台のおっちゃんを思い出して聞いてみた。


「ん? そんなのは200を8回足すんだろ? それ以外に方法があるのか?」

と聞いて来た。


なので、俺は、九九表をサラッと書いて、2人の前に出して、説明を始めた。


「じゃあ、もっと判り易くする為に5本の薬草を7束納品したら、全部で何本か?

良いですか? この表を見て下さい。横を最初の5本だから、5の所を見ます。

そして、それが7束だから、縦の7の所を見ます。

すると、その交差した所がその答えで、35本となります。

式として書くと、5×7 と書きます。これを掛け算と言います。

この掛け算を現した9列9行の表を九九表と言いまして、ちゃんと覚える方法があるんですよ。」

と言って、覚え方を紙に素早くして書いて行く。


「この九九表とこの覚え方をセットにして、やったり、問題用に1~9までの札を2組入れた木箱から2枚取り出して、クイズ化すると、子供の遊びになります。

そうすると、もっと計算が速くなり、特に商売をする人は仕事が捗ると思うんですよ。」

というと、2人が目をクワッと見開き、実際に足し算で計算したりして、

「「うぉーーー!」」

と大騒ぎ。


「ヤバいです会長! これマジでヤバいっすよ? どうしましょう? これ!」

とお姉さんが大騒ぎ。


「マジでヤバいな! ヤッベー」

と極端にヤバいを繰り返す始末。


「じゃあ、まあそんな訳で、明後日までに宜しくお願いしますね。」

と言って、歓喜する2人を置いて、店の裏口から出て、マスクをしてフードを被り、真っ暗な空に飛び上がった。

後は寝るだけなので、魔力燃費を考えずに一気に拠点へ矢の様に飛んで帰ったのだった。


取り残された2人が正気に戻ったのは、丁度健二が拠点に辿り着いた頃だったそうな。


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 メンテナンスを行い、一部文章の改善等を行っております。基本的な内容には変更ありません。(2020/05/21)


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