オッサン、人生に絶望死したら異世界生活で救われた件(仮

気怠い月曜

第1話 俺の半生 (改)

「人生50年とは、よく言った物だな……。」


思い起こせば、良い思い出は数える程しかない。

四畳半の風呂無しアパート(築54年物)の暗く寒い一室で、膝を抱え込み、せんべい布団の中で震えている。

今日、12月31日は、俺、杉田健二の50回目の誕生日であった。

人生の節目とも言うべき50回目の誕生日……実家を出て以来、誰かに祝って貰う事は無かったな。




俺が28歳の時、人生で始めて彼女が出来て、

「ああ、人生って素晴らしい! 生きるって何て素晴らしいんだ!」

と絶叫していた――

思えば、あの瞬間が、俺の人生の中で5本の指に入る絶頂ポイントの1つだったな。

その直後に彼女に押し切られ、人生初のラブホに入り、長かったDTを卒業したんだったな。


そして、その後何度もデートの誘いをしても「忙しいから」と言われつつ、1ヵ月ちょっと逢えなかったんだけど、急に電話が掛かって来て、大喜びで出たら、

「ねえ、健二君、私、妊娠しちゃったみたいなの。」

と言われて、


「じゃあ、早く籍を入れよう! 俺が幸せにします!」

って電話でプロポーズして、


「ありがとう。よろしくね!」

って承諾して貰ったんだよな。


時代はバブルの後半で、景気も良かったから、それなりに大掛かりな式を挙げて、それから半年で可愛い赤ちゃんが生まれた。

長男、聡の誕生である。


もう、可愛くって可愛くってさ、

「ああ、俺はこの子の為にも頑張るぞ!」って思わず叫んで、看護婦さんから叱られたんだったな。

思えば、これが人生絶頂ポイントその2だったな。


うーん、つまり人生で2回だけか……。

指5本必要ない程度か。


結婚生活?

俺が夢見ていた温かい家庭とは真逆だったな……。


結局俺が妻とHしたのは、結婚前の1回だけで、その後はズーッと拒否されたんだったな。

聡が2歳の時に、バブルが弾けて、リストラされて、やっと半年掛けて入った会社は、給料も待遇も悪く、今で言うブラックだったし、給料が足り無いから、バイトしろ!って言われて、土日はコンビニや工場のバイトをして、1年中休み無く働いた。

その後も、会社が倒産したり、詐欺で閉鎖になったりとか色々で、職を転々とした。いやせざるを得なかった。

可愛かった息子の聡だが、何故か赤ちゃんの頃から、俺が抱くと、ギャン泣きして、全く懐かなかった。

それでも可愛い我が子の為、愛する妻の為と、頑張って働いていたんだけど、やっと、まともな会社で長続きしてると思ったら、今度は911テロの影響で業績が悪化して、倒産。

次に入った会社は若干給料は下がったものの、やっと落ち着いたと思ったら、今度はリーマンショックで倒産だ。

しかし、聡も18歳になって、大学生になっていたので、頑張って職探しをしていたが、歳の制限で、働き口が見つからない。

更に悪い事に、妻が俺名義で莫大な借金をしていた事が、督促状で判明した。


妻に金の使い道を聞いても逆ギレか、シカトされ、話にもならない。


そんな折、悪い事は重なる物で、実家で独り暮らしをしていた母が急死した。

父は、俺が25の時に事故で亡くなっている。

更に追い打ちを掛ける様に、妻が離婚を切り出した。

「私、ズッと付き合っている人が居るの。

だから、離婚してその人と一緒になるわ。」

と。


後で知ったが、聡は俺の子じゃなかったらしい。

俺との結婚前から不倫していて、所謂『托卵』されていたらしい。

話し合いを!と思っていたら、既に離婚届を勝手に出されていて、俺に残ったのは、妻が残した借金だけという……。


しかし、お袋が残した僅かばかりの遺産を相続したお陰で、その借金だけは、何とかギリギリ返す事が出来た。

人様に迷惑が掛からなかった事だけは、幸いであった。


俺は、借金返済で、一切合切を無くし、このアパートに有り金を集めて引っ越して、それから1年、何とか日雇いの職にありついて、ギリギリの生活をして来たのだが、長年の無理が祟り、2週間程寝込んでしまった。

自転車操業だった俺の生活の歯車が、1つ狂った事で、次々と連鎖的に崩壊して行った。

どんなにリカバーしようと、頑張っても、所詮は悲しい日雇いだ。

しかも歳のせいもあって、ボロボロの身体が昔の様には動かない。

とうとう、現場でミスをして、怪我をした。


そして、とうとう俺の歯車は、完全に外れてしまったのだ。

電気とガスは1ヵ月前に止められていて、水道は2日前に止められてしまった。

お金も無ければ、食う物も残って居ない。

あるのは、何組かの着替えとこのせんべい布団だけ。


今年の冬は特に寒い。


最後に食べ物を口にしたのは、3日前だった。


「ああ……お袋のおにぎりが、もう1度食べたかったなぁ………

もう、こんな人生は……女に騙される人生なんか……」

そして、意識が薄れて行き、周りの音も聞こえなくなった。


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 メンテナンスを行い、一部文章の改善等を行っております。基本的な内容には変更ありません。(2020/05/21)

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