第2話 死後の世界 (改)

ん? 暖かい。

心まで温まる様な心地良さだ。

しかも、良い匂い 花の香りが漂っている。

耳には、鳥のさえずる鳴き声も聞こえている???


俺はハッとして目を覚ますと、そこは、木々に囲まれた野原であった。


「え?どういう事?」


思い返してみるが、最後に記憶にあるのは、あのアパートの一室のせんべい布団の中だ。


「つまり、夢か死後の世界か?」

と独り言を呟く。


あれ?言葉が日本語じゃないぞ?

どう言う事だ?


自分の口から出て居る言葉だが、何故か日本語ではない。

英語ともドイツ語ともフランス語とも違う。

響きはフランス語に近い気もするが、別の言語である。


あの世の言語なのかも知れない。


身体を起こし、辺りを確認するが、人も居なければ、家も無い。

あるのは、野原に咲いた花と、その周囲の木々だけだ。


「取りあえず、誰かを探してみるか。

何処かに神様とか閻魔様とか居るかも知れないし。

ちゃんと、受付しとかないと、迷惑が掛かってしまうからな。」


そう、俺は両親の躾で、人様に迷惑を掛けないって事を徹底的に教え込まれたのだ。


スクッと立ち上がって、どっちの方角へ行くかを考えているが、無性に喉が渇いている事に気付く。

更に腹も減っている。


周囲を見渡していると、キラリと光る物を発見した。

泉である。


「おー!飲み水発見だ!

まあ、死んだ身だから、今更生水がどうのってのは気にしないでも大丈夫だろうな。」


俺は、発見した泉へと歩き始める。


妙な事に、身体が軽いが、まあ死後の世界だから、そうなるのだろう。


綺麗に咲いている花を踏み荒らさない様にしていたら、思った以上に時間が掛かってしまって、思わず苦笑いしてしまったが、妻と違い、泉は逃げないので、大丈夫だ。


「わぁ。綺麗な泉だな。こんなに澄んだ泉は始めて見るなぁ。流石は死後の世界だ。」

と一頻り感動しつつ、屈んで両手で水を掬い飲んだ。


「あー……染み渡る。」



<ピロン♪ 条件を満たしました。これより制限を解放します。>


不意に、頭の中に声が聞こえた気がして、辺りをキョロキョロと見回したが、誰も居ない。



「気のせいか? しかし、美味い水だ。もうちょっと、腹も減ってるし、飲んで置こう。」



顔を水面に近づけてみると、水面には、全く見覚えの無い少年の顔があった。

色々あって、全く気にしていなかったが、良く見ると、50歳の手でも無い。

肌の張りも艶も、少年のそれである。


再度少年の顔を見てみると、見た事も無い様な美少年っぷりである。


「わぁー、こんな美少年見た事ないな。

俺もこんな顔に生まれて来ていたら、もっとマシな人生だったかな。」

と思わず、苦笑いしてしまう。


そして、顔を見るのに満足し、5回程、水を掬って飲んだのだった。


不思議な事に、水を飲めば飲む程、誤魔化しではなく、空腹だったお腹も食事を取った様に満足して行く。


本人は気付いて無かったのだが、水を飲む度に、健二の身体はボワンと薄く光っていた。


「ふぅ~、何かちょっと満腹になったな。

気のせいか、身体に力が漲る感じもする。フフフ。」


さてと、これからどうしようか?

どっちの方角へ進むかと、考えていると、風に乗って漂う甘い香りに気付いた。


「あっちの方から、甘い香りがするな。」

という事で、進む方向が決まった。


花を踏み荒らさない様に、泉を迂回していると、泉の底に何か袋の様な物があるのを発見した。


どうやら、水を入れる袋の様である。


「泉の底に落ちてるみたいだが、これって拾っても良いかな?

使えるなら、少し泉の水を汲んで、持って行った方が良いよな?」

と傍に落ちていた木の棒を使って、その袋を拾い上げた。


皮製の水袋で、見たところ、特に破けもしてないし、そのまま使えそうである。

栓を開けて、水を満タンに入れて、腰のベルトに括り付けた。


そう言えば、服装も日本にあったそれとは違い、中世時代の映画で出て来る様な服装に替わっている。

デザインは兎も角、動き易いし、肌触りも良い。

ベルトには、ナイフが1本と、小さい皮の巾着袋が装着されていた。


「ナイフ? 死後の世界にもナイフが必要なのか?」

とちょっと首を傾げて考えたが、まあ、そう言う物なんだろうと、納得した。


持った感じが良かったので、水袋を拾い上げた木の棒もそのまま杖代わりに持って行く事にして、甘い香りのする方向へと進んで行く。

どうやら、木々の向こう側から漂っている香りらしい。


鼻で匂いをスンスンと嗅ぎながら、木々の間を抜けて行くと、匂いの素を発見した。

果物である。

黄色い桃の様な形の果物が1本の木にビッシリと生っている。


手の届く範囲の実を1つ捥いで、齧り着いてみた。

すると、口の中に芳醇な香りと、蕩けそうな甘みが広がる。


「こ、これは、今までの人生で一番最高の果物だな。堪らないなぁ。」


余りの美味さに、手が止まらず、連続で3個も食べてしまった。


「ああ、幸せな気分になるな。 そうか、食事は4日ぶりか。美味しい水を飲んで、美味しい果物を食べて、身体も軽いし、ハハハ。それに美少年だし、死後の世界も悪くないな。」


結局、更に2つ食べてしまった。



<ピロン♪ 条件を満たしました。これより制限を解放します。>



「あ、また何か声がした?」

不思議だ。 辺りを見ても、やはり人影は見当たらない。



「さてと、せっかくだから、もう少しここで、至福の時を過ごしても良いかな?」


余りにも美味しい果物と離れるのが、少し惜しくなって、1日ぐらいは良いかと桃の木の根元に座り、身を預けた。


満腹と幸福感で睡魔がやって来て、少しだけ……と、目を瞑ったのだった。


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 メンテナンスを行い、一部文章の改善等を行っております。基本的な内容には変更ありません。(2020/05/21)

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