第17話 お友達

 急いで三人が、音のした方に向かう。


「誰か助けてぇ」


 そこには、本の下敷きになる少年がいた。真白の実際の年齢より少し年上に見える少年、服装からして術者の見習いだろうか。武黒と蘭丸は急いで本を片付けはじめる。


「ありがとうご……わぁ、武黒様、蘭丸様。申し訳ありません」


 本に埋もれながら、少年はただでさえ突っ伏しているのに、頭を床につけて謝る。無理もない。この城最強クラスの腕っぷしの強さを持つ二人に助けられているのだから。


「私もおりますよ」


 月佳姫は二人もいれば充分だろうと見守ることにし、少年に手をふった。


「月花姫!」


 少年は驚きのあまり、口をパクパクさせた。ちなみに少年は姫巫女様と三人そろってしまったことで、真っ先に巫女や侍としての実力より、この城最強の酒豪三人組が揃ったことを驚いているとは口が避けても言えなかった。実力はあるのだ。乱暴な大男が暴れてるせいで周辺諸国から恐れられるという恐怖戦法によって平和なだけである。一応、有事の際は強い同い年三人組なのだが。


「文太、お怪我はないですか?」


 助けられた少年、文太に月佳姫はしゃがみこみ声をかけた。


「月佳姫が僕の名前を覚えてくださっているなんて……」


 文太は感動のあまり、起き上がれずに月佳姫を見つめた。この城だけで何百人もの術者や巫女がいるのだ。術者見習いといえば末端の末端。姫巫女様など顔を合わせるどころか声を聞くことすらないかもしれない。


「この城に居る術者や巫女は全員わかりますよ」


 月佳姫は微笑み、手を差し出した。おそるおそる触れる文太。

──なんて綺麗な手なんだ。

 細くて長い指先、白い肌、柔らかい温もりに驚きながら文太はやっと起き上がった。 あわてて手を離すと文太は顔を真っ赤にしていた。


「特にかわいらしい子どもはおぼ……」


 武黒は思わずポロリというと、扇子が眉間めがけて飛んできた。寸前のところで両手で止める武黒。


──俺を殺す気か。月佳。


 よく見たら鉄で出来た扇子。貼ってある和紙には桜の絵が書いてあって可愛らしいが、間違いなく武器。しかし当の月佳姫は何事もなかったかのように文太に話しかける。


「それに真白と仲が良いことも知っていますよ」


 月佳姫は微笑む。だが後ろの大男、武黒からは真白という単語が出た途端に殺気が漂う。恐るべし妹愛。文太は震えた。


「年が近いので、まっ真白様とは、なか、仲良くさせて……」


 後ろが怖い。別にやましいことなど何もないのにとにかく怖い。噛み噛みなあげく、どんどん小さな声になっていく文太。


「まぁまぁ、真白ちゃんも同年代の友達と遊びたいでしょ。ありがとうね。仲良くしてくれて」 


 蘭丸はこの妹馬鹿の武黒に代わって礼をいってやる。にこりと微笑む蘭丸は男性なのに美しいという単語が似合ってしまう。


「いえ、とんでもございません」


 文太はあわてて頭を下げた。なぜか顔を赤らめる文太。


「さてと、俺は文献探しに戻るぞ」


 武黒はやれやれという顔でぶっきらぼうに言うと、机に戻ることを選んだ。


「俺も手伝うよ~。やっぱり今日も友達でいようよ~!」


 蘭丸もそれじゃあと片手を振りながら、武黒の後に続く。


「勝手にしろ」


 素直じゃない武黒。それを面白がる蘭丸と月佳姫。三人の後ろ姿を文太は頭を下げて見送った。

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