助演男優賞って、それはないでしょう!

ちびまるフォイ

あなたがいなければちっとも進まなかったでしょう!

「おめでとうございます! 助演男優賞に輝きました!!」


「……は?」


どこからかシルクハットの男が現れて俺の首に花のわっかをかけた。


「助演男優賞……? 俺はただの学生ですよ。

 映画もドラマも舞台もなにもやってないんですけど……」


「いえいえ、あなたは友達の恋を応援したじゃないですか。

 あなたの素敵なアシストで友達は見事恋人を射止めることに成功。

 それが認められて助演男優賞に選ばれたんですよ」


男の見せる映像には友達の悩みを聞いている自分。

恋人の彼女になんとなくアドバイスしている自分が映っていた。


「これは単に相談があるから話を聞いただけで……」


「ここは表彰の場です。謙虚である必要はありません。

 あなたがそうやって二人の話を聞いた働きのおかげで結ばれたのです。

 あなたには助演男優としての優れた才能がありますよ!」


「ありがとうございます……?」


「では失礼します」


男は煙とともに消えてしまった。

これまで何をやっても1番を取れなかったこともあり、

自分の功績が認められたのは嬉しかった。


「俺には才能がある、か……。そんな風に言われたことなかったなぁ」


悪い気はしなかった。

本当に才能があるのかを確かめるのも踏まえてより多くの人と交友関係を広げるようになった。


表彰男はふたたび現れた。


「おめでとうございます! 助演男優賞に輝きました!!」


「今度はなんですか?」


「先日、あなたが主催した部活動の打ち上げがあったでしょう。

 それにより仲の悪かった友達同士が仲直りできたんです。

 そのときのあなたの絶妙な立ち振る舞いは助演男優として素晴らしかったんです!」


「まあ普通に盛り上げていただけなんですけど……」


「そこのさじ加減が絶妙なのです!!

 やりすぎれば寒いし、やらなければ物足りない。

 あなたには本当に助演男優として優れたものを持っていますよ!」


「いやぁ光栄です」

「では失礼します」


男はまた消えた。

こんなにも人に認められることが嬉しいとは思わなかった。


それからも俺は助演男優としてますますの働きをして、

恋人に友達、問題解決に大きく貢献する助演男優として活躍した。


自分の部屋には「助演男優賞」の金トロフィーが増えてくるにつれ、

俺に対して依頼してくる人も増えてきた。


「頼む! どうしても付き合いたい女の子がいるんだ! アシストしてくれ!」


「どうして俺に?」


「もう助演男優賞を何個も取っているんだろう?

 君に助演してもらえれば、きっとうまくいくと思うんだ! 頼む!」


「ふっふっふ、任せなさい」


助演男優を受賞できるきっかけが向こうから舞い込んでくるなんて最高だ。

かといって告白を急かすわけでもなく、悩みや問題を解決するわけでもない。


アシストしていたつもりはなかったものの、二人の間を取り持ったことで見事二人は結ばれた。


見慣れたシルクハットの男が現れる。


「おめでとうございます! 授賞式に参りました!」


「助演男優賞、ありがとうございます」


慣れた動作で手を前に差し出す。

が、表彰男は俺を素通りして恋人となった二人の方へと向かう。


「主演男優および主演女優賞おめでとうございます。今のお気持ちは?」


「彼女と恋人になれてよかったです」

「これからは私がメインの人生になると思うと嬉しいです」


「おめでとうございます。こちら主演トロフィーでございます」


表彰男から主演の二人にトロフィーが贈呈された。

ひとしきり終わってから俺の方に戻ってきた。


「では続いて、助演男優賞のトロフィーを」


「距離的には俺のほうが近かったし、こっちを先にトロフィー渡してもよかったんじゃないか?」


「いえいえ、まずは主演のお二人を表彰しなくては」


「……所詮、助演は脇役ってことかよ」


「なにをおっしゃいます。助演は欠かせない存在ですよ。

 あなたがいなければ彼と彼女はけして結ばれなかったでしょう」


「でも! 俺はメインじゃないんだろう!?」


「助演ですからね。卑屈になることはありません。

 あなたにはたぐいまれな助演の才能があるんです。

 それを存分に活かせばいいじゃないですか」


「それじゃ俺はこの人生でずっと脇役に徹しろってことか!」


「脇役と助演はまったく意味が違いますよ」

「うるさい!!」


恋人ができた友達に嫉妬しているわけではなかった。

自分の助演で主役となった人たちを見ていくうちに、

いつまで自分は助演のままなのかと不安にかられていった。


主演に輝いた人たちにとって、助演は欠かすことのできない存在なのに。


スポットライトはあまりに細く薄暗い。

俺の人生は誰かのために尽くすためだけのものなのか。


「俺だって……俺だって主演になれるはずだ」


俺は自分以外の助演男優を必死に探した。

見つけたのは俺よりも助演男優賞を獲得している同級生だった。


「それで、話ってなに?」


「実は俺が主演に輝くために、君に助演をしてもらいたいんだ」


「ああわかったよ」


助演歴が長いとこの手の依頼も多くなるのだろう。

相手はとくに深く聞くわけでもなく承諾してくれた。


俺は以前から気になっていた女の子に思い切って告白する。


「お願いします! 俺と……付き合ってください!!」





「……ごめんなさい。実は付き合っている人がいるの」


「え゛っ」


「同級生の〇〇くん」


「それって助演のはずじゃ……」


名前を出されて固まってしまった。

俺が助演男優を依頼したはずの人と彼女が付き合ってしまった。


「おめでとうございます! 助演男優賞に輝きました!!」


「ちょ、ちょっとまってくれよ!

 今回は俺が主演のはずだろう!?」


「あなたがそう決めていたというだけで、そうなるとは限らないじゃないですか。

 助演として働きかけを決めていた〇〇さんですが、交流を深めていくにつれ助演の垣根を超えてしまったのです」


「そんな馬鹿な……!」


「あなたは自分を誇って良いんですよ。あなたのほうが助演才能があったからこそ

 依頼した助演を主役に押し上げることができたんですから」


「ぜんぜん嬉しくないよ!!」


「では金のトロフィーを」

「いるかこんなの!!」


差し出されたトロフィーを地面に叩きつけた。


俺はいつまで脇役に徹すればいい。

いつになったら主役になることができる。


そればかり考えてしまう。


「俺を主役にさせてくれーー!!」


耐えきれずに叫んだときだった。

俺はこちらと目があった。


「こ、これは……?」


正面にはなにやら透明なガラス板がある。

リアルタイムで文字が書かれていて、今このときも文章はつづられている。


文章の冒頭を読むと自分のことが書かれていた。


「これ、俺の小説じゃないか!」


自分が助演男優として才能があり、アシストを決めていたこと。

しだいにアシストだけの立場に辛くなり主役を欲するようになっていたこと。


それらすべての経緯がここには書かれている。


「ついに……ついに見つけたぞ! 俺が主役になれるものが!

 この小説だけは俺が主役なんだ!!」


世界の裏側にあった真実にたどり着いたとき、

煙が立ち上がってシルクハットの男が現れた。




「おめでとうございます!

 この小説を盛り上げるための助演男優賞に輝きました!!」

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