虹の国
その国は、虹の国と呼ばれていました。そこには七色の虹のようにさまざまな人が住んでいます。肌の色目の色髪の色、背丈に耳の形にツノの有無、心に灯る光の色も、それぞれ違っていましたが、王様のもとで平和に暮らしておりました。王様は虹の民を愛し、虹の民も王様を愛しました。
ある日王宮にやってきた商人が、王様の前に腕を差し出して言いました。
「ここにございますのは、聡明な者にしか見えない布であります。さぞ王様にお似合いになることでしょう」
しかし王様には、商人の腕にかかった布が見えませんでした。
「これは素晴らしい。王様にぴったりだ!」
傍らに仕える大臣は言いました。彼にはシルクのように滑らかで、光沢のある布が見えていました。王様は大臣に言われるままにその布で新しい衣装を作ることになりました。
完成した衣装を着て、王様は演説に臨みます。王様には、まだ自分の着ている服が見えません。王様は大臣に言いました。
「私ははだかだ」
大臣は返しました。
「いいえ王様。民には必ず、麗しい衣装が見えますよ」
王様は大臣と民を信じ、バルコニーに踏み出しました。姿を見せた王様に、色とりどりの歓声が上がりました。
「王様にお似合いの真っ赤なケープだ!」
黄色い肌に青い目の大きなツノをした民が言いました。
「グリーンのビロードシャツがぴったりだわ!」
青い肌に黒い目の爪が長い民が言いました。
「白地に青のリボンが上品で素敵!」
赤い肌に黄色い目の背が低い民が言いました。
「真っ黒な衣装は威厳があるなあ」
緑の肌に紫の目の猫みたいな耳の民言いました。
スピーチを終え、バルコニーから部屋に下がると、王様は大臣を呼びました。
「大臣や」
「なんでしょう」
傾いた冠を直しながら王様は言いました。
「私の愛する民を信じる其方は、流石は私の大臣だ」
大臣は敬意を込めて頭を下げました。
「勿体ない。王様が愛する民です。信じるほかありません」
王様は満足そうに拳を突き出しました。大臣は自分の拳をコツンとそこにぶつけました。まるでアルバムの奥に仕舞い込んだ、彼らが共にこの国を興した時代のように。
王様の透明な衣装は、民の虹色の思いを反射して、王様にはプリズムのように光ってみえましたとさ。
2020/03/26
※「虹」「アルバム」「最高の主従関係」、ジャンルは童話、という三題噺から。
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