叶うなら
「感謝の印だ。何か一つ、過去に起きた出来事を変えてやろう」
俺は会社の倉庫で、過去の宣材を探していただけだった。整理されていない棚を奥深くまで掘っていたら、気付くと目の前に何やらもちもちした謎の生命体が浮かんでいた。
「か、過去……?」
聞けばそのもちもちは遠い昔に封じられた神の類で、封印を解いた俺の望みを叶えようと言う。夢かも知れん。しかし馬鹿げているが俺は一応考えた。出生、受験からゼミ選びに就職まで、あの時こうしてればと思うことは多々あった。あるいは彼女の誕生日を忘れなければ、試験の日に寝坊しなければ、とくだらない失敗を思い出す。このくだらない失敗の積み重ねで(?)俺は今この会社で残業を繰り返している。
「いいよ。変えなくて」
「なんだと?」
「しんどいこともあるけど、有難いことに友達もいるし、まあいいや」
あの時こうしていればという悔いはある。もう少し良い学校に、良い会社に、と思わなくもない。でも俺は、親友と出会った今の人生の、何を変える気もない。何か一つ変えれば出会えなかったかもしれない。出会っても今のようにはいかなかった。今この関係を気に入っているからには、何も後悔したくない。だから俺はこの神様とやらに頼る必要はないんだ。
「ふむ。後悔するでないぞ。私はもう行く。戻って来ぬからな」
もちもちはそう言って消えた。これからもアイツと親友でいられるようにって未来なら願ってやっても良かったんだけど……ま、それはいいか。自分でやれば。
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