第7話『北の大陸』



日も沈み、見渡す限り暗黒の世界を戦艦ミカサは北の大陸に向け航行中だ。乗組員は日勤と夜勤に別れているので、夜間の警戒も怠らない。

 水兵さん達ご苦労様です。


 そんな中、俺達はと言うと……


「がーっ!また負けたぁ!」


「本当に雑魚ねエイルは!」


「またジスの一人勝ちっス!悔しいっスー」


「絶対イカサマしてると思うんですよぅ!」


 人生ゲームで暇を潰していた。因みに4回戦目が今終わった所だ。ジスの4連勝中である。


「これが支配する者と、される者の結果よ。お前ら如きがジスに勝てると思わない事ね。ミカエル様の御加護がジスを勝利へと導くのよ!ミカエル様バンザイ!アハハハハ♡」


 妙に上機嫌なジスは恐らく酔っ払っているようだ。

 艦長代理は酔っ払いで大丈夫ですか?


「もう、遅いから寝ようか?」


「じゃあ、うちはご主人様と寝るっス!ティファとうちで山の字っス!」


 川の字じゃなくて?両サイドの2人がどんな状態なのか気になるが却下だ。


「駄竜と凡人は別の部屋で寝かせる様、ミカエル様に言われてるから、出て行きなさい!ジスが一緒に寝てやるから!」


「それだと俺が一人で寝れないみたいに聞こえるからやめて!」


「え?あなた一人で寝れるの?と言うか一人で寝た事あるのかしら?」


「あるに決まってる!あるに……あれ?」

 考えてみると、異世界に来てから、一人で寝た記憶があまり無い。ミカさんと再会してからは、ほぼ毎日一緒だ。更に、椿ちゃんの家では椿ちゃんと一緒に寝てた。布団一つしかないし。


「まだまだお子様なエイルは、ジスに添い寝されていれば良いのよ!感謝しなさい!いつかミカエル様の世継ぎを授かるかもしれない大事な身体だから大切にしてやるわ」

「いや、ちょっと待て。なんで俺が産む前提なんだ?と言うかどっちも無理でしょ!女の子同士だし!」

「ああ!きっとミカエル様のお子様は悪魔みたいに可愛いのでしょうね!」

 悪魔みたいに可愛いの表現について行けない。



 ◇



 そう言う事でジスと同じベッドで寝る事になったのだが

 ……眠れません。

 何故なら、ジスがずっと見つめて来るので怖くて眠れない。なんか観察されています。


「えっと……何?」


「別に……見てるだけよ。ミカエル様の命令だからに決まってるでしょ…」


 見つめる目がトロンとしてるのは、酒も入って眠いのだろうか?


「眠いなら先に寝ても大丈夫だよ。俺もすぐ寝るし」


「ふざけんじゃないわよ……エイルが変な事しないように見て……なきゃ……スー……」


 あっ、寝た。無理しなくていいのに。

 さて、俺も寝るかな。

 明日には北の大陸に着く。と思うから。




「……スースー」



 ◇翌朝



「パッパラパーッパッパラパー!」


 何やらラッパの音が聞こえて目が覚めた。ベッドの隣りにはジスの姿は既になかった。意外と早起き出来るみたいだな。

 と関心していたのです。


 ところが、俺の下半身にしがみついて就寝中でした。


「えっ……?おい!ジス!」


 がっしりと掴まり動きません。どうしてこうなった?


「……むにゃむにゃミカエル様ぁ……もうダメぇ……」


 どんな夢みてんだ!


 コンコン


「失礼します。朝食お持ちしました。……エイルさん、おはようございますっ!あれ?ジスさんは?」


 その時、布団の中でモゾモゾと動くジスを見て、シズカさんが、固まる。


「……しっ、失礼しましたっ!」


 顔を赤くしてバタバタと走り去って行った。


「ち、違う!これは誤解だー!」


 絶対勘違いされたと思う。

 後で誤解を解こう。それよりジスを起こす。


「ジス〜朝だよ〜」


「……う〜ん」


 股の間から顔を出したジスはまだ半分寝てるみたいだったが、状況を理解した途端、ベッドから飛び起きた。


「エイル!ジスに何した?」


「いや、なんもしてないよ。起きたらジスが、しがみついてたんだけど……なんで?」


「そ、それは……エイルの寝相が悪くてベッドから落ちない様に、捕まえてたら、そのまま寝てしまったのよ!」


 俺そんなに寝相悪いの?



 ◇


 ブリッジにて。


 朝食を済ませ、シズカさんの誤解も解決した。多分。

 すると、どうやら大陸に近づいたらしい。


「前方に大陸らしき物を発見!距離15000!」


「そのまま前進!各員砲撃演習準備にかかれ!」


 どうやら、大陸を仮想敵に見立てた砲撃訓練を行うつもりらしい。


「ジス。大陸に誰かいたらどうするの?先住民的な人とか」


「そんなものいるわけないでしょ。平気よ」


 自信たっぷりに艦長代理ジスさんは、俺の意見など聞く気はないみたいだ。


「距離12000!」


「距離11000!」


 徐々に射程距離へと入っていく。


「距離8000!」


「主砲、副砲、砲撃開始!」


「主砲、副砲!撃て!」


 ジスの命令をブリッジから砲撃主への伝達が行われると、轟音と共に砲弾が発射される。


 キリキリと風切り音を立てながら、複数の砲弾が放物線を描き飛んで行く。やがて着弾したが、陸地ではなく、手前の海岸部の様だ。大きな水しぶきを上げている。


「続き撃て!」


「続き撃て!」


 再び主砲、副砲が撃ち込まれると、今度は陸地に落ちた。


「命中!全弾命中です!」


「よし!取り舵いっぱい!目標に接近しつつ砲撃!右舷砲撃スタンバイ!」


 その後も、砲撃訓練をしつつ、やがて大陸の上空へと到達し、訓練は終了。


「これが、北の大陸……」


 俺たちの居た大陸との広さは比べられるわけないが、広大な砂漠が広がる。現在地は北の大陸の南部としか分かってない。予定では大陸の南西部にまず到達し、そこから北上し、大陸の西側の探索をする予定だ。

 もちろん目視でのアルテミス城の探索も込みでだ。

 砂に埋もれて無ければ良いけど……


 探索は明るいうちしか出来ない。なんせ真っ暗闇の中アルテミス城を見つけるのは困難だからだ。

 そのため、夜間は着艦して夜明けを待つしかない。

 結構大変な探索だ。


 その時、魔力感知レーダーから警報が鳴った。


「複数の魔力反応が高速接近です!」


「数は?」


「3つです!距離15000!いえ、12000!速いです!」


「どうやら北の大陸のおもてなしかしら?総員、迎撃体制に入れ!Mフィールド出力全開!」


 戦艦ミカサのクルー達が慌ただしく動く。良く訓練された動きで、皆迷いなく迅速な行動をしている。


「ジス!俺たちに出来る事あるか?」


「エイル達は、邪魔にならない様にじっとしてなさい!特にマリン!」


「うちはちょっと操縦したいだけっス」


「絶対にさせないわ!」


 とにかく俺たちは、邪魔らしい。

 そんなやり取りをしてる間に謎の接近者は双眼鏡で確認出来る距離まで近付いて来ていた。


「目標を確認!ドラゴンが三体!かなり大型です!」


 ドラゴンが3匹!マジすか?なんで行く先々でドラゴンに出会うのだろう?


「相手の出方次第よ!こちらからは撃たずに待機!」


 出来れば、友好的な出会いである事を望むが、どうやら違ったみたいでした。


「高魔力反応!撃って来ました!」


 3匹の内、先頭を飛ぶドラゴンが、ブレスを吐いた。

 高熱量のブレスが戦艦ミカサに向かって来る。


「総員、衝撃に備えろ!砲撃準備!」


 高熱量のブレスが戦艦ミカサを直撃!したが、ブレスは戦艦ミカサの前で拡散し、消滅した。


「Mフィールド健在!損耗率は10%です!」


「よし!全砲門撃て!消し炭にしてやれ!」


 ドラゴンのブレスを無効化するとか、Mフィールド凄いな!防御力も高い戦艦ミカサは安心安全な乗り物の様だ。後でミカさんにMフィールドについて詳しく教えてもらおかな。


 戦艦ミカサの砲撃がドラゴン達に火を吹いた。

 とはいえ、やはり動く相手には全弾命中とは行かず、散開するドラゴン達との戦いは激しさを増す。


「弾幕で敵を近付けさせるな!」


 戦艦ミカサの対空砲が空を翔けるドラゴンに次々撃ち込まれるが、流石はドラゴン。そう簡単には落ちない。

 互いに決め手に欠ける戦いとなっていた。

 このままでは埒が明かない。むしろ、ドラゴンの増援とか来たら不利だ。弾薬も切れたら負けるかもしれない。


「ジス。俺が出ようか?」


 久しぶりにドラゴン退治してみる事にした。



 ◇リュウタロウside


「何?アメリアの目を治す為に北の大陸に行くだと?そうか……頑張ってな」

 スピカ達からの提案をさも自分は関係ないとばかりに、あっさり逃げるリュウタロウ。


「え?リュウタロウ様も行くんですよ!北の大陸へ!」


「絶対に行かない!行くわけにはいかないんだ!」


 でましたよ。いつもの行かないんだ病が!


「北の大陸に行くのにリュウタロウ様の造ったヘリコとか言う、空飛ぶ乗り物が必要なんですよ!私には使い方が分からないので、よろしくお願いします!」


「あんなもの、操縦管を適当に動かせば大丈夫だ!とにかくボクは行かない。大体、北の大陸は未知の世界じゃないか!それにアルテなんとかの城も何処にあるか分からないし、それに面倒臭い」


 結局、ただ面倒臭いだけなんですね!

 まったく役にたたない勇者です。仕方ないですね。


「分かりました。では私とアメリアさんの2人で行って来ます。マリーさん。リュウタロウ様をアルゴ達の所へと連れてって下さい」


「あいよ〜。じゃあリュウちゃん宜しく〜、あっ、いくらマリーちゃん魅力的だからって変な事はしちゃダメでやんすよー」


「誰がするか!」


 そして、スピカとアメリアは北の大陸へと向かったのだった。


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