第5話『リュウタロウ、人助けをする』
リュウタロウは貴族の屋敷で見つけた隠し階段を降り、その途中で異臭を感じた。
「な、なんだこの匂いは……」
リュウタロウは階段の燭台に明かりを点けつつ、その先へと降りる。
普通であれば、こんな怪しく、薄暗くて、しかも異臭が漂う地下通路など先に進む気になどなれない。
だが、リュウタロウと言うクズ……いや、人間はRPGをやり込むタイプの人間であった。
例えば、ダンジョンを隅々まで進み、アイテムは全て回収、モンスターも全ての種類と遭遇、その上、ドロップアイテムまで、全種取らないと気が済まないのだった。
その為、ゲームクリアに至るのには、かなりの時間を費やす。ストーリー展開等は無視し、街のアイテムをコンプリートしないと先に進まない。時間のたっぷりあるニートならではのゲームの楽しみ方だ。
故に現在の状況はリュウタロウにとっては確認しないと気が済まないのであるが……
「嫌な予感しかしないな……宝箱の1つでもあれば、良いけど……」
進んだ先には牢屋だった。4つの牢獄があり、手前右の牢獄には、誰かいるみたいだが、死んでいるのか、寝ているのかは分からない。
とりあえず無視して、空いている牢獄の物色をする。
「……あの、どなたかいらっしゃるのですか?」
リュウタロウが何か無いかなと牢獄を物色中に、先程無視した牢獄から、か細い声で話しかけられる。
チッ!生きていたのか。面倒臭いな。女の声だ。
「……あぁ、ちょっと通りかかっただけだが?」
「そう……ですか。あの、外で何かあったのでしょうか?」
「それくらい自分で……ってお前、目が……」
リュウタロウが女の方へ振り向くと、ボロ切れの様な服を着た、目に布の様な物を巻いたブロンドヘアの若い女であった。大きく空いた胸元には奴隷の紋章が見える。
「はい。わたくしの瞳はもう何も映してはくれません」
「……そうか。邪魔したな。達者でな」
うん。面倒臭いから見捨てる事にしよう。
「え?」
「え?」
なんだ?こいつ助けて貰えるとか期待してたのか?
「ち、ちょっと待って下さい。この状況でわたくしの事を見捨てると?」
「見捨てるとは人聞きの悪い言い方だな。ここには欲しい物が無かった。それだけさ」
「何ちょっといい事言ったみたいな風なんでしょうか?普通閉じ込められていて、目も見えない少女が居たら連れ出してあげませんか?白馬に乗った王子様的な行動ですよ」
「ふん。夢見過ぎだな。ボクは王子じゃないし、馬なんて乗らない。それに勇者だ。王子ごときと一緒にするなよ。じゃあな、一応鍵は壊しておくから、自分の足で出るんだな」
「え……勇者なら尚更、助けませんでしょうか?少女1人救えなくて世界が救えるのでしょうか?」
「世界を救うつもりも無い。それにお前を助けてメリットがあるの?デメリットしかないだろう」
「メリットは……あります」
「なんだ?言ってみろ。因みに体を好きにして良いとかなら、要らない。間に合ってるからな」
「…………」
「まさか図星か?」
「ち、違います!えーと、ある貴族の隠し財産の在り処です」
「よし!助ける!掴まれ!」
「え?え?え?」
「そうか。見えないんだったな。仕方ない、抱っこするぞ」
「は、はひっ!」
リュウタロウは奴隷の少女をお姫様抱っこすると、転移魔法で屋敷から去った。
◇帝国郊外の屋敷
リュウタロウの転移先は、リュウタロウの屋敷であった。既にリズ達は帝国を離れ、マリーの所有する古城へと避難した。
「着いたぞ。ボクの家だ」
「え?もう着いたのですか?」
目の見えないアメリアには転移した事など分かるはずもないので、状況を理解するには説明が必要であった。
「とりあえず、その汚い服装と身体をどうにかしようか。大分臭うぞ。風呂の用意をしてやるから、その辺の椅子にでも座ってろ……って、見えないのだったな」
リュウタロウはアメリアを抱き抱えると、ソファに寝かした。
「少し、待っていろ」
「……はい。すみません」
浴室に入ったリュウタロウは、ある事に気付く。
風呂の沸かし方が分からなかった。
異世界に来てから2年近いが、自分で風呂を沸かした事が無い。
常に誰かが仕えていた生活であり、自分で何かをするのは初めてであった。
いつもはリズやスピカがしてくれていた。
「さて、どうするかな……」
とりあえず水を蛇口から出し、水を浴槽に溜めた。
問題は沸かし方だが、恐らく、外に出て、薪を燃やすのだろうが、面倒臭いので、魔法を使う事にした。
「ファイアストーン」
魔法で精製した焼き石である。
その焼き石を浴槽に入れ、水を温めた。
「まあ、こんなもんかな」
程よく暖かい湯になったので、アメリアを迎えにリビングへと向かう。
「風呂の用意は出来たが……自分で洗えるか?」
「あっ、はい。浴場まで、連れて行って下されば大丈夫かと」
ちょっぴりがっかりしたリュウタロウだった。
リュウタロウは再び、アメリアを抱えて浴室の脱衣場まで運ぶ。
アメリアは抵抗なく、その着てい粗末な衣服を脱ぎ捨て、浴室へと入って行った。
アメリアの身体には無数の傷跡が、痛々しい。
余程、酷い扱いを受けていたのだろう。
アメリアの尻をガン見しつつ、そんな事を考えたリュウタロウだった。
◇
入浴を済ませ、リュウタロウに渡されたバスローブを羽織り、リビングのソファへと腰を落とし寛ぐ。
こんなにゆったりとしたのは、いつくらいぶりだろうか?
奴隷として生活して一年には満たないが、これ以上無い地獄を味わったアメリアにはリュウタロウを信用している訳ではないが、あのまま地下牢で果てるよりはまだマシであると、割と前向きに考える様にしていた。
「……それで、その貴族の隠し財産とやらは本当なのかな?嘘であったら、生ゴミで捨てるぞ」
「はい。確かです。在り処はわたくしの住んでおりました、屋敷にございますから……」
すると、玄関の方から話し声がして、リビングに2人の女が入って来た。
スピカとマリーである。
「リュウタロウ様、戻ってらしたのですね。そして、その女性は…………説明してくれますかね〜?」
「やっぱり女の子連れ込んでたでやんす!噂以上のたらしだよー!」
「連れ込んだなんて人聞き悪いな。それより誰だその赤い女は!」
「あっしはマリーちゃんだよ」
「えぇと、前に話した新しいメンバーのマリーさんです。あとの2人は後ほどで……それより、その女性の説明をお願いします!」
「うはっ♡バスローブだねぇ!これからスル所だった?それともシタ後だったのかなぁ?」
「マリーさんは黙ってて下さい!」
「あいよ!修羅場は任せた!」
「えーとだな……」
リュウタロウが説明するよりもアメリア自身が事を説明する。
「はじめまして、わたくしはアメリア・ゲスマルクといいます。勇者様には地下牢で監禁されていた所を助けて頂きまして……」
アメリアは自身の生い立ちから話し始めた。
アメリアはファミリア王国でも有力な大貴族、ゲスマルク家の三女であった。
ゲスマルク家は大資産家である。また、私兵の
だが、それは約一年前までの事で、今は爵位を取り上げられ、財産は差し押さえられ、当主は処刑され、残った家族は追放されて離散。三女のアメリアは奴隷として帝国の貴族に売られた。
その原因は、ゲスマルク侯爵が違法な人身売買で巨額の富を得ていたが、たまたまエイルが奴隷商に捕まった事が原因で、『銀の翼』を敵に回してしまい、王国から追放されてしまったのであった。
アメリアとしては、自分の父が人身売買をしていた事は知らずに育って来た。そんな汚い金でぬくぬくと暮らして来た罪を償う気持ちで、どんな酷い扱いを受けようと、生き抜いて来た。辛さに耐えられなければ、自害すれぱ良いのではあったが、それでも生きる事に執着した。それが唯一の償いであると信じて。
「泣かせるじゃないかぁ……うぅ」
「それで目が……」
マリーとスピカはアメリアの話しで涙腺が崩壊していた。
一方のリュウタロウはと言うと……
「追放された貴族令嬢か……それより隠し財産は大丈夫なんだろうな?」
財産の信憑性があって良かったと思ってるだけだった。
「ちょっとリュウタロウ様は席を外して頂けますか?目の状態と外傷を診ておきたいので」
「チッ!」
何故舌打ちするんですかね?
とにかく、財産はともかく、目は何とかしてあげたいですね。
しぶしぶリュウタロウは部屋を出て行き、リビングにはスピカ、マリー、アメリアの3人となった。
「それでは、ちょっと失礼しますね〜」
スピカはアメリアの羽織っているバスローブを脱がす。
「これは酷いですね……」
アメリアの身体中には痛々しい傷跡が無数にあった。
後で、所有していた貴族は探し出して殺してやりたいとさえ思う。
「
スピカの行使出来る回復魔法では最上の魔法だ。
大抵の怪我や傷などは完全に回復できる。
外傷だけでなく、その機能を失った部分も元の状態へ回復させる。高等魔法である。
みるみるうちにアメリアの傷跡が無くなって行く。
だが、目の方は回復する事が叶わなかった。
通常の失明であればスピカの
アメリアの場合は眼球その物を失っていた為、回復魔法では目の再生までは出来なかった。
「目の方は私の回復魔法では無理みたいですね……」
「あの、無理して下さらなくても……」
「アメリアさん!絶対に何とかしてみせます!」
「は、はぁ……」
「どうにか方法は無いのかな?」
「無い訳では無いけど……」
スピカの中で考えられる方法は3つあった。
1つはアルテミスに治して貰う。
2つ目は
3つ目はティファの回復魔法だ。
アルテミス復活が叶えば大丈夫ではあるが、今すぐにとは厳しい状況である。
次に
そして、ティファだが。
ティファは全ての聖魔法が使える。故に
敵対しているし頼みづらいので却下だ。
「
「本当ですか?一体何処に?」
「我らが主アルテミス様の居城の宝物庫でやんす!」
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