見えないけど、アタシめっちゃ可愛いからね!
桐山 なると
序章 よくある感じの自分語り
オープニング よくある感じの自分語り
ここ一週間ほどだろうか、明らかにウチの家がおかしい。
本棚にしまってあったはずの漫画やゲームがなくなったり、定位置に置いていたはずのティッシュや爪切りが消えていたり。かと思えば一度探したはずの場所から出てきたり。症例を挙げれば枚挙に暇がない。まったくやっかいな幻覚にとりつかれてしまったもんだ。
…………何言ってんだ、おめーって思ってますか?
家の中のものがいつの間にかなくなって些細な拍子にひょっこりと見つかるなんてこと日常茶飯事じゃねーかって思ってますか?
確かにね、僕だってそう思ってましたよ。
それらの出来事が『いつの間にか』起きていたうちは。
でも。
ス――――――――――ッ。
今、目の前で、テレビのリモコンがひとりでにテーブルの上を滑っていくのを目撃したとしたら、僕はそれを幻覚以外にどのように解釈したらいいのだろう。
ピッ、ピッ、ピッ、ピッ、ピッ………ピッ。
あまつさえ、目の前で退屈そうにチャンネルがザッピングされ、この中ならまあこれでいいか的な感じで番組が固定されたとしたら、
バリバリムシャムシャバリボリガツガツ、ザー。グシャグシャ、ヒュ―――、ストン。
あ、あまつさえ、引き出しにしまってあったはずのポテトチップス関西だし醤油味が、目の前でカスひとつ残らず食い尽くされ、空袋でゴミ箱シュートまで決められたとしたら。
プシュ! トクトクトクトクトクトク…………シュワ~~~~~~~。
あ、あ、あまつさえ、風呂上りにとっておいた缶コーラの栓が目の前でひとりでに開き、魅惑的な泡を立てながらグラスに注がれ、そのままグビリと一口うまそうにって……
「いい加減にしろ、おら―――――――! 幻覚の分際でグラスに注いでまでコーラ飲んでんじゃねえええええ!」
「きゃあ!」
……あまつさえ、何もない空間に伸ばした足裏に確かな感触があり、誰もいない空間から悲鳴が上がり、
「いったーい! ちょっと、もういきなり何すんのよ、リョーアン!」
やけに砕けた日本語で自分の名前を呼ばれたりしたら、僕はそれを幻覚以外のなんだとして処理したらいいのだろう。
「ちがう、幻覚じゃないって!」
ああ、そうか。この場合は幻覚じゃなくて幻聴か。
「そーゆーことじゃなくて! アタシ、アタシだよ。
…………彩々?
反射的に、勉強机に立てかけた絵葉書に視線を走らせた。
「リョーアン! アタシ、とーめー人間になっちゃった!」
高校三年の春。これは、桜の開花より早く訪れた色鮮やかな恋の物語。
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