彼女ができたはずなのに、負けヒロインと同棲してます

桐山 なると

序章 

 伝説の告白スポットなんてフィクションだけだと思っていた。


 あの日吹きぬけた夜の風を、僕は一生忘れないだろう。

 肌をくすぐる感触を、乾いた草の匂いを、すぐそこにまで迫った冬の気配を、僕は忘れない。そして、あの時こぼれ落ちたいくつもの涙を、僕はーーー。


「本当にわたしでいいの……?」

 涙の一つは僕に選ばれた喜びから流れ落ちた。


「あなたに会えて良かった。今までありがとう」

 また一つの涙は選ばれなかった悲しみから。


「わたしをふるなんていい度胸ね。絶対に後悔させてやるんだから」

 また一つの涙は気丈に笑う胸の内で、人知れずこぼれ落ち、


「これで日本に未練はなくなったよ。次に会うのは十年後かな?」

 また別の一人はそう嘯いて歩き出した。


「あーあ。バカですよねー。私は二番でも良かったのに。そーゆーの上手くやれないところがホントに………バカですよ」

 また別の一人はそう言って僕の胸を小突き、


「やっぱり? そうだよね? わかってたわかってた。元からダメだと思ってたし。てか、冗談だし。真に受けないでよ、やだなー。あ、ヤバ、目痒っ。花粉かなー」

 また別の一人は懸命に空を見上げて瞬きを堪えた。


 そして、また一人は、


「こらー! 朝やでー、はよ起きー! 起きて起きて起きて! いつまで寝てんの、遅刻すんで、ほんま。おーきーろー!」


 ………まだ家にいたりする。


 これがゲームやアニメなら今頃はエンディングテーマがかかり、スタッフロールが流れ始めていることだろう。もちろん現実にはそんなものは出現しない。


 この物語は「fin」の後のお話です。


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