第28話 10歳 商会オープン
名前がないと話にならない。考えたすえ
『カルム』にした、癒しという意味だ。
『サナ、3日後にプレオープンさせるから準備をしてもらえる。名前はカルム商会でお願いね。
』
『はい、わかりました。商品の陳列します。
値段はどうしますか。』
『これからは、サナが店長なんだから任せる
よ、あとお金の管理もお願いね、リナと相談
してもいいからね。それとこれ制服だからみんなに渡して、それとお金を渡しとくね。』
『はい、預かります。任せてください。』
『サナ、警備は騎士型ゴーレム、鳥型ゴーレム
に任せて、室内はお願いね。何か困ったら知らせてくれる対処するから!』
『はい、わかりました。』
『じゃあ、めかくしの幕を外そうか、収納を唱え幕を外した。』
目の前に、商会が現れて通りを歩く職員と思われる人々、それから依頼のためにやってきた町人たちが、ガラスバリの店を除き、わいわいとおしゃべりしていた。
喫茶店のガラス陳列棚には、いろいろなケーキやパイ、バンが並んでいた。
商店の方は棚はなく、メニュー表示で確認
し、注文する方が楽と思える。
商会のいよいよ明日プレオープンだ。みんなにねぎらいの言葉をかけた。
ジルとルルはあっちこっちのテーブルを練り歩いて、愛想を振りまいている。
本日は、プレオープンの日。
わたしたちは朝から一生懸命開店にむけて準備し、メニュー等に不備がないかをチェックしてから、ようやく看板を『Open』にした。
いつでも接客できる。
ちなみに、この喫茶店に制服がある。と、そんなことを思いつつ、開店。
「ま、喫茶店なんてのんびりしたい人が来るんだから、お客さんもそんなにいないでしょ」
とジルやルルが呟いたのもつかの間。
看板をcloseからopenにした途端、狙いすましたかのように、たくさんの人がやってきたのだった。
『いやぁ、ずっと気になってたんだよなぁ。大きな建物でオーナーが魔法士ギルド
SSランクだって聞いたぞ。』
『ばーか、お前が気になってたのは、従業員がみんなきれいでかわいいからって手を出してあとで後悔しても知らないぞ。』
『ばっ……、ここのオーナーはスタンピート
で活躍したあの子供だ。』
王都中の女性たちが口をそろえて言う!
──美味しい。
『ジル、時間的にひまになったら、休憩を
入れないといけないよ!、交代でやらないと
それなりの人数はいるんだから。』
『はい、分かりました。マスター』
そう言ってもらえるのって、なんていうのかな……。
ちゃんと役に立って、ここにいてもいいよって、言われているような、そんな感じがする。
緊張したし忙しかったけれど、わたしはなんだか、すごくこの仕事が楽しいと思えた。
それでも、人に感謝されることは、すごく気持ちのいいことだ。
「ルルちゃんっ! 野苺のケーキと紅茶2つおねがい!」
「はい!」
ルルから注文を聞いて、ケーキやパン類を
出している。
さらに初日からお客さんはどんどん増えていくのだった。
「ルルちゃん♪」
お昼を過ぎた頃。
お客さんのピークが少し過ぎて、業務に慣れた。
なんだかんだ、女性の冒険者さんたちと会話した。
やはり皆、ルルとティタの髪に興味があったようで、どうしたらきれいになるの?、とか質問された。
ドリンクを作ったり、髪についての質問等が多かった。
あちらのカウンターで、売っている商品ですと質問に答えると、みんながこぞって買った。
薬草シャプーは、評判が良くうわさを呼んですごく売れた。
本当は、かなり緊張していた。
奴隷がお店で働くなんて、ダメなんじゃないかって、汚くてしんどい裏の仕事ばかりを押し付ける。
アーガスビア王国では、亜人や奴隷が働ける場所は限られていた。
とくに強い魔力を持つ亜人だけが、差別され嫌う汚くてしんどい仕事しかない。だがこの店は、違う。
たまに、冒険者のパーティが商品を買ったついでに寄る人たちがいる。
そんな時、冒険者から
『みんな、怖い人ばっかだったろ?』
『あ……』
見た目のことを言ってるのだと分かって、笑ってしまった。
朝から接客していて気づいたけど、冒険者は基本的にパーティを組んでいる人たちが多いというか、ほとんどがそうだ。それはお互いに足りない部分を補い合い、ダンジョンの深い場所に入るための、一つの手段なのだそうだ。
「ジルさん! 来ましたよ!」
「来ましたにゃ〜」
「あっ!」
思わず笑顔になった。
「ノアさん! ミレイさん!」
魔法士ギルド受付のノアさんとミレイさんだった。
二人とも、業務の休憩時間を縫ってやってきてくれたらしい。
『朝からすごかったですねぇ。今ちょっとマシになりましたけど。やっぱみんな、新しいものには目がないんですよね!』
『前から気になっていた人も多いと思いますにゃ。ジルさん、調子はどうですかにゃ?』
『忙しいけど、楽しいです』
そう答えると、二人ともホッとしたような顔になった。
『よかった! 冒険者たち怖い顔した人ばっかでしょ?』
『みんな歴戦の冒険者たちですから、そうなりますにゃ』
前の主人の奴隷だった時、わたしが淹れたお茶、まずいってよく床にぶちまけられていたっけ……。
それを拭いていたら、残りのお茶をかけられたこともあった。
すごく熱くて、辛かったのを覚えている……。
『ジルさん、この紅茶、とっても美味しいですね!』
ぽやっとしていると、先程淹れた紅茶を、ノアさんが褒めてくれた。
『香りもいいし……ん、なんだろ。これ、なんか他にいれてます?』
『いいえ……でもオーナーが雇っている執事長のセバスさんに、美味しい紅茶の淹れ方を習って、練習したんです。』
茶葉にはそれぞれ、美味しさを引き出すための温度があり、カップへお湯をつぐ間にわずかに温度が下がって、適温状態でなくなるため、わざと少し高めの温度で淹れることなど。
小さなことの積み重ねで美味しいお茶はできるのだと、セバスに教えてもらったのだ。
『なんか体もほっとします。あー、これはいいお店ができましたね。私もこれからいっぱい利用させていただきます!』
ノアさんがそういって、微笑んだ。
けれどミレイさんはカップを持ったまま、黙り込んでいる。
その様子に、少し不安になった。
『……ジルさん』
『は、はい!』
『これ……美味しいですにゃ。美味しいけど……』
けど?
『……いえ、なんでもないですにゃ。何か他に隠し味でも入っているのでは無いかと思って』
そういって、にこっとミレイさんは笑った。
よかった。まずかったわけではないみたい。
ほのぼのとおしゃべりしていると、今度は
コルトが様子見に現れた。
「あ、マスター!」
ノアさんが振り返って笑顔になった。
「こんにちは。初日から大繁盛ですね、ですがこれは、プレオープンですしオープンする
かどうかは、ここの環境次第だと思います。
悪ければ残念ながらオープンはしません。
その点はあしからず。』
コルトは、みんなに居きった。
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