第二種接近遭遇
第15話 時価三千六百円
「マジで取れねーな」
「だなぁ」
「アームが弱えっていうか、なんで戻るんだよ? わけわかんねぇ」
「だなぁ」
「いやいや、
「脇の下にアームを通したら引っかからねぇかな?」
「……お前、天才だわ」
「……」
「マジかよこれ、高さ制限あんのか」
「……そうなると素直にアームで押すしかなくね?」
「やってみるか」
「……動いたか?」
「ミリ? 動いた……ような。もっかいやってみるか?」
「あー動いてる動いてる」
「でもよ、これ続けるのか? いくらかかるんだよこれ? ヤバすぎね?」
「……それに、このままだと最後のシールド超えられなさそうだな。やっぱ頭を回転させて持ち上げねぇとダメなのか?」
土曜日の十一時頃だった。
和泉は
某有名動画サイトで予習した時は取れそうな気がしていたが、現実は非情だった。二人で三十分もひとつのクレーンゲームの前で首を捻り続け、その後も貝塚の財布は確実に質量を減らしていった。
「お困りですか?」
「あ、はい」
そして、結論から言うと、貝塚はぬいぐるみを自力で取ることは出来なかった。
悩み続ける二人に気づいた店員さんがアシストしてくれたのである。
つまるところ、店員さんが取りやすい場所に移動してくれたのだ。
店員さんの笑顔と心意気の甲斐もあり、その後は一発でぬいぐるみを手に入れた貝塚だったが、その顔は苦渋に歪んでいた。それもそのはずで、貝塚が欲しかったのはぬいぐるみ本体ではなく、ぬいぐるみを取るための技術である。そういう意味も含めて言えば、この戦いは完全敗北と言っても過言ではないだろう。……勉強代としては安いのかも知れない。
「やるよ」
和泉は貝塚に時価三千六百円のぬいぐるみを差し出された。
「いいのか?」
「だって、和泉が選んだぬいぐるみだろ?」
「……さんきゅ」
和泉はそのぬいぐるみを手に取って見つめた。
ぬいぐるみは全体的にピンク色で、両手で抱えられるぐらいのまるまるとした形状をしていて、昔から人気のゲームに登場するモンスターのひとつだった。和泉がこのぬいぐるみを選んだのには意味がある。このモンスターをパワーアップするために必要な月の石というアイテムがあるのだが、月の石は宇宙の鉱物であるため、そのモンスターは〝実は宇宙からやってきた宇宙生物である〟という裏設定があるのだった。
正直に言えば、凄く欲しかったわけではないし、消去法で選んだに過ぎない。
でも、思ったよりも抱き心地が良かった。
和泉は周囲に隠しているが、こういう可愛いモノが好きだったりした。
……。
ぬいぐるみ
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます