宇宙人を好きな女子高生が存在する確率は、宇宙人が地球に飛来する確率とどちらが上か?
星浦 翼
プロローグ
第1話 プロローグ 1
コレはバイト先から貰った缶ジュースで、商品名を〝宇宙人の生き血〟という。缶の正面に見えるイラストは〝グレイタイプの宇宙人が光線銃で牛を焼き殺している〟という、今時の商品にしてはどぎついパッケージであり、肝心の味も一般受けするとは言い難い。
分類するのならメロンソーダで間違いないのだが、味が甘ったるく舌触りも悪い。恐らく商品名通りに〝宇宙人の生き血〟を目指して商品開発されたのであろうこれは、どこか鉄の味が含まれていて、どろりと粘着質で爽快感とは正反対の飲み物だった。
まったく、ふざけやがって。
こんなもん飲むぐらいなら、水でも飲んだほうがマシだと和泉は思う。
一缶当たり十三円という挑戦的な値下げでも売れ残り、あのドケチな熊店長がタダでくれたことも頷ける。むしろ、こんなクソ不味いもんを押し付けられて損した気分だ。
こんなことだから、宇宙人なんて嫌いなんだ。
和泉の嫌いなものランキング一位は今のところ猪だが、それを更新するかも知れない。
そんなことを考えながら、和泉は夜の山道を歩いていた。
ここは和泉の通う私立勝宮学園高等学校――通称、勝高の裏手の山にある舗装された道路で、和泉のバイト先から家に帰るにはこの道を使うのが近い。街灯がなく、雑木林に囲まれて曲がり角の多い小道は、対向車がすれ違うことも難しいほどの車道であり、迷い込んだよそ者による自損事故が多いと有名だったりする。
和泉はスマホを取り出してライトを点けた。
危険防止のためではない。
こんなふざけた飲料をどこの誰が作ったのか気になったからだ。
中身をこぼさないよう慎重に〝宇宙人の生き血〟を掲げ、ライトで照らす。
あれ?
どこにメーカーのロゴがあるんだ?
首を曲げて缶を見つめながら片手で回し、内容量などの記載された細かな文章に目を通し、それでも見つけられずに眉を寄せ――それが、間違いだった。
そんな油断だらけの恰好で、和泉は体のバランスを崩した。
和泉の不注意と不運は、それで終わらなかった。
和泉が倒れこんだ先にはガードレールが無く、そのまま和泉は山の斜面へとすっころんだ。
反射的に足と手を丸めて顔や体を守るが、それが精一杯の抵抗だった。そのまま斜面を転がり続け、木の根や幹に転がり続ける体をぶつけて思わず声が漏れる。何度も枝を折り木々の間を抜け、体中に擦り傷が生まれていく。斜面がきつく、むしろ加速している様な気さえして、このまま死ぬのかも――なんて和泉が感じた頃だった。
和泉は雑木林を転がり抜けていた。
硬い地面に体が投げ出され、気づいた時には仰向けに寝転がっていた。
「……助かった、のか?」
何よりも先に出た言葉はそれだった。
安堵したのも束の間、背中に鈍い痛みが走って顔を歪める。
骨が折れていたら冗談じゃないと思いつつも、耐えられないほどの痛みはない。擦り傷は数えきれないぐらいに作ったけれど、おそらく枝が体に刺さるようなこともなく五体満足だ。
寝転がったまま深呼吸をすると、夜の星空が見えた。
真ん丸な月が出ていて、雲の足が速い。
ひと際明るい星があると思ったが、移動しているから飛行機の翼端灯なのだと気づく。
和泉は目を閉じ、そのまま大きく深呼吸した。
神は天にいまし、全て世は事もなしってか?
「へへへ」
余裕が生まれて、変な笑いが出た。
和泉は笑いながら、右手の〝宇宙人の生き血〟は無くしてしまっていたが、左手にはちゃんとスマホを握りしめていることに気づいた。画面が割れていないことに心の中でガッツポーズを取るが、スマホは〝宇宙人の生き血〟によってデロデロに汚れている。スマホのライトを点けて身体を照らしてみれば、和泉の体は緑色のジュースと土やら木の葉やらクモの巣やらでぐちゃぐちゃに汚れていた。
……こんな時間に何をしているんだろう。
和泉はようやく上半身を起こして、自分が倒れているのが建物の屋上であることに気づいた。
その建物は白い豆腐のような形のコンクリート製の一軒家で、屋根が水平だからこそ寝転がれていたのだと気づく。
そして、和泉の周りには、チョークで書かれた落書きがあった。
スマホで照らしてみると、丸や三角の図形を組み合わせた六芒星のような幾何学模様が描かれている。つまり、自分の倒れている場所を中心に、謎の魔法陣らしき何かがあるらしい。
なんだ、これ?
そう思いつつ顔を上げて、顔が引きつった。
和泉の視線の先には、不審者がいたからだ。
そいつは小柄な体型で、黒いローブを羽織っていた。月明りの下では顔どころか性別すら判別できなかったが、そいつは和泉のことをまっすぐに見つめたまま身動き一つしない。
一分間、いや、それは言いすぎか。恐らく数十秒ぐらいだったと思う。頭が真っ白になって、和泉はそいつを見つめ返していたのだが、不意にそいつが口を開いた。
「あ、あのっ!」
それは意外にも、透き通るような綺麗な声だった。
「アヌンナキ様!! とうとう来て下さったんですね!?」
アヌンナキ?
アヌンナキって、なんだ?
興奮気味なその声色に眉を寄せ、和泉はスマホのライトを不審者に向けた。
照らされた不審者は眩しそうに顔を顰めていたが、それをもって有り余るほどの美形だった。
大きい眼はくりくりとしていて当たり前のように二重で、鼻は高く、唇は潤んでいる。個々のパーツだけでもよくできていると思うが、それらが奇跡的なバランスで配置されており、十人中十人が美人だと答えること請け合いな人物がそこにいた。
嘘か真かは知らないが、そいつは雑誌モデルにスカウトされたことがあるらしいとか、校内にファンクラブがあるらしいともっぱらの噂がある。
なぜそんな噂を知っているのかと言えば、和泉はその顔に見覚えがあったからだ。
「き、
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