♪♪昼ドラ風中国ミステリ「女怪(にょかい)~賈家の女たち~」

第3話 出会い➕

あの隣県の宴会からすぐのことです。

わたしは

劉先生に呼ばれました。

先生は

とても興奮した様子で、わたしを別室に招き、

ニコニコと話し出しました。

「王珠、とても素晴らしい話があるよ。

おまえに

箏の個人教授を頼みたいというお話だ。

早速今日、

伺う事になっているが、一体どこの家だと思う？

驚くよ、賈家だよ、あの名門の。しかも奥様だそうだよ。

一体なんだって

おまえをご指名なのかわからないけれど、素晴らしいことだ。

名誉なことだよ。さあ、失礼のないように支度をととのえて。

私も付き添うからね。

全くこんなこと初めてだよ、私は誇らしいね、おまえを

育ててくださった、

孫先生も鼻が高いだろうよ」

わたしはただもうひたすらに、口をぽかんと開けて、

先生の話を聞くばかりでした。

わたしが、個人教授を？

しかも賈家の奥様に？

まだ楽士になって

たった1年かそこらというのに、わたしを指名してくださったと？

今振り返れば、天にも登るような気持ちを思い出すけれど、

あの瞬間はとてもとても…

それに

劉先生は

いつもこんな調子で一方的によく喋るので、わたしはなにがなにやら

質問もそこそこに支度をさせられて、賈家へと向かいました。

そうそう、ちょっとしたことですが、

わたしの師である孫先生。

わたしが楽士になったのを区切りとして、引退されたのです。

いまは趣味で箏を奏で、

身内や知人を喜ばせるにとどまっていましたので、わたしは孫先生づてに

劉先生の楽団へお世話してもらったのです。

だから

先生同士が知り合いでした。

その孫先生の名前まで…出て。

結局、劉先生の言う通り、

孫先生は

わたしが、賈家で働くと知った時

まさに鼻が高いよ、と言ってくれたんですけどね。

全く、私たちおばあさんの話は、あっちこっちへ

飛んでしまうのでよく

気をつけないといけないわね。

そう、本当にあの時の劉先生が、

今のわたしみたい。

わたしも

劉先生もどれほど興奮していたか…

そしてこのとき、わたしの一生が決まりました。

賈家の大奥様に尽くさせていただく人生が始まる、きっかけが訪れたのです。

わたしも劉先生も浮き足立って、気がついたときはくるまを下り

賈家の前に立っていました。

大きな立派な門構えに

すっかり気をのまれていると、門番の男の人が「もしかして楽士の先生かい」と声をかけてきました。

わたしたちが頷くと、

「いま、召使い頭の祥容さんを呼んでくるので待っててください」

と丁重に中へと案内してくださって…

まもなく立派な着物を着たきれいな女人、召使い頭の祥容が、

「劉先生と王珠先生ですね」とこちらに

近づいてきました。

わたしが、先生と呼ばれたのですよ、

わたしがね。

どきどきして、もごもごと口の中で挨拶を返すと、

祥容はわたしをチラリとみて

「こちらで大奥様がお待ちです。

初めてとはいえ、

失礼のないように気をつけてください」

と注意をされてしまいました。

全く、賈家ときたら、

召使いまで立派な着物を着て

美しい者を雇うのだと、わたしも劉先生も感心しきりでした。

祥容は

大奥様からの信用も、召使いたちからの信頼も厚いしっかり者で、

召使い頭になるべくしてなった人物でした。

さて、屋敷の長い通路を通って、沢山の部屋の入口の前を通って…

奥の間の立派な椅子にその方は座っていました。

髪に見事な金の細工の飾りを差し、赤いお召し物を着て

すっと背を伸ばしたその姿。

なんて綺麗なひとなんだろう。

わたしはその姿に一目で心を奪われました。

これが賈家の正妻、大奥様の袁玲楓様との出会いでした。