第42話:ぼくのそうぞうしたさいこうの……?
「むむむ……」
与えられている清涼亭の部屋にて、僕は先日入手したレイファニー王女様たちのプロマイドのようなカードを眺めながら唸っていた。このカードを入手して以来、その価値とは別に何かを見い出すかのように頭をかまけていたのだが……。
(うーん、やっぱり現実的じゃないかな?でも、折角魔法という元の世界でもなかったものが存在する訳だし、組み入れられそうなものだけど……)
今日は『
そんな僕の様子を伺っていたのか、同じく部屋でシウスやぴーちゃんと戯れるようにしていたシェリルが紅茶のような飲み物を入れて運んできてくれる。ちょうど飲み物を口にしたかったところだと、感謝しながらそれを受け取ったところ、
「……余程気に入られたようですわね。カードなのか、そこに描かれた王女様や歌姫様になのかはわかりませんけれども……」
「いや、そういう意味じゃないよ。前から考えていた事があったんだけど……」
彼女なりに何か思うところもあったのだろう、少し拗ねた様子で苦言を呈するように話し掛けてきたシェリルに僕はそう答える。因みに一緒に引いたユイリのカードは、彼女の強い意向もあり、シェリルに預かって貰っている。何やらユイリのカードはさらに加工されているらしく、シールのように捲ると別の姿をした彼女が描かれているようで、それを見られるのを拒んだユイリに配慮した形でそうなったのだが……、そういった面も含めて僕は考えていた事があった。
「……そうだね、折角だから今の時点で僕がこのカードを使って考えていた展望を聞いてくれるかい?」
僕はそのように前置きして、シェリルに自分が思い浮かべていた構想を伝えていくのだった……。
「そう……、
「彼には色々驚かされますが……、これはまた随分と突飛な構想を思いつかれたものです……!」
ユイリからの説明に、普段あまり感情を顔に出さない宰相のフローリアが若干興奮した様子でそう答えている。最も、それは私も同じで、もし彼の提案が実現したとしたら、多岐にわたって画期的な革新が得られる事となる。それもこのストレンベルクだけには留まらない……、そんな予感を感じさせる何かがコウの持ち込んだものにはある。
……ストレンベルクの広報用に発行されていたカードダス。そのカードに魔力付与に加え、それを媒体にした
コウの話では、カードダスに込められた魔力からその付与した人物の力を反映した簡易の召喚魔法として、戦術ゲームに反映させる事を目的としており、自衛の手段にも使えないかという事はついでの提案としているようだが……、むしろそちらの方がメインと成り得ると私やフローリアは考えている。
そして、彼自身は気付いていないかもしれないけれど……、その簡易の召喚を誰でも使用できるようになるとすれば、これからの魔王の配下である魔族、魔物との戦いにおいて、劇的な変化が見られるかもしれないのだ。
特に……、今まで異世界から『招待召喚の儀』によってやって来た勇者でなければ対応出来なかった事柄も、もしかしたら……!
彼から話を聞き、シェリルはユイリを通じて、すぐにフローリアや私に伝えるように言ってきたようだが……、彼女の気持ちも分かる気がした。シェリルとて、魔族の急襲により自身の国を滅ぼされている。仮に急襲でなかったとしても、十二魔戦将が自らやって来ていたのだとしたら、どの道対処のしようはなかったと彼女はわかっているのだろう。
恐らくだけど、シェリルも私と同じことを考えているに違いない。
「……シェリルに伝えて。彼の『
「……姫はコウの依頼であれば間違いなく協力して貰えるでしょう。わかりました、私の方でお二人にはお伝え致します」
「王女殿下、この案件は我がストレンベルクだけで取り進めるのは勿体ないと思われます。むしろ、他国も巻き込んで、より普及に努めれば努める程、ストレンベルクにとって歓迎すべき事となるでしょう」
フローリアの言葉に私は頷くと、
「貴女の言う通りだと思うわ、フローリア宰相……。通常時であればその技術を自国のものとした方が、外交面では有利に立てるでしょうけれど……、この件に関してはその限りではないでしょうね。それで貴女は、どの国に声を掛けるべきだと思いますか?」
「……まず、魔法学園国家ミストレシアは確実に巻き込むべきでしょう。この構想はより高度な魔法の研究、技術が前提となります。我が国も大賢者殿や王女殿下を始め、
私の想像した通り、魔法学園国家ミストレシアの名前が出てきた事に納得する。確かに魔法の構築や、
「そして、商業面での支援も取り付けたいので、自由都市ディアプレイス連邦にも声を掛けるべきです。後は、ストレンベルクの姉妹国で隣国でもあるフェールリンク自治区でしょうか……」
「大国でもあるイーブルシュタイン連合国には声を掛けなくていいかしら……?」
「……あそこには此方から声を掛ける事はしなくてよいと思います。機械と魔法を複合した、様々な技術を誇る大国ですので、本来ならば巻き込みたいところではありますが……、あの国は同時に色々と隠匿している事も多く、この状況では主導権を握られないとも言えません。それに……、王女殿下としましても、出来る事ならば関わりたくないところではありませんか?」
そう彼女に指摘され、私は苦笑するしかない。イーブルシュタインは王政であるが、同時に議会も強い力を持っている。そこで、王政を一段と強める為に、ファーレルの希望でもある勇者を召喚する力を持つストレンベルクの、『
それ以来、イーブルシュタインとの交渉は閉ざされていた為、此方からアクションを取る事は正直躊躇われているというのが実情だ。
「……私が口を挟むのも憚られるのですが、それでしたら和の国にも話をして頂けないでしょうか……?」
「和の国に……?確か貴女の家の遠縁に当たる国よね?何か理由があるの?」
珍しくユイリが意見を述べてきた事に少し驚きつつも、その理由について訊ねてみたところ、
「実は、コウより転移者についての情報を得たいと頼まれておりまして……、私の知る限り、和の国には間違いなく、最低でも1人は転移者がいる筈なのです。最も、その人物も和の国において秘匿されている方でもあるので、その取り掛かりとなればなと……」
「コウ殿の依頼となれば……、受け入れるべきでしょうね。それならば、教国ファレルム総本山にもお声を掛けてみては如何でしょう?教国の方からも別件で我が国に打診がありますし、今までの関係から無下には出来ない国です。恐らくは聖女殿の騎士に関する事だとは思いますが……、いっその事巻き込んでしまえばと……」
「……わかりました、それでは、一旦他国に関してはその辺にしておきましょう。私の方でユーディス様にお話し、他国についても一報を入れておきますが……、細かな調整はフローリア宰相、お願いできますか?」
私の言葉に快く快諾してくれたフローリアに、それではとその場をお開きとする。さて、これから忙しくなりそうだ……。まずは自分の師でもあるユーディスに話を通そうと、私は大賢者様の館へと向かう準備をするのだった……。
(思った以上に大事になったなぁ……)
僕が提唱したカードダスゲーム(仮)は、ストレンベルク内だけで話が収まらず、他の国も交えて話し合われる事になり、自分にもその場に出席して欲しいと要請がきたのは昨日の話。そんな大袈裟なと、そちらでどうとでも決めて頂いて結構だと断ろうとしたものの、そういう訳にはいかないようで、こうしてストレンベルク側の一席に加えさせて貰っているのだけど……、
(……何か、場違いのような気がしてならないな……。他の国の出席者も、明らかに上の立場の人だらけって感じだし……)
なんて言えばいいのか……、そう、
事前に説明を受けただけで、5ヵ国もの代理者が来訪しているらしく、全員が揃ったところで開催国であるストレンベルクの宰相、フローリアさんが挨拶の為に立ち上がった。
「……定刻となりましたので、これより会議を始めさせて頂きます。
そう前置きすると、フローリアさんは各国の代理者の前でその構想について説明していった。それを聞いていて思った事だが……、僕が考えていた以上に召喚魔法、特に魔力からその人物特有の戦闘力、特性、
因みに、
これこそまさに、一から作り上げた独創魔法であるといえるだろう……。シェリルの話ではこれを誰でも使用できるように簡易形成化する事で、生活魔法にまで落とし込む魔法も存在するという話であり、今日の会議によってそれをどのように変更を加えるかを取り決める……、そう僕は聞いていた。
「……いやはや、魔力を道具に込める技術そのものが希少である中で、まさかそれを具現化する事にまで成功されるとは……。我々、魔法大国のお株を奪う偉業ですよ、これは……。流石は大賢者殿を有するストレンベルク王国……、と言ってしまえばそれまでですが……」
「レイファニー王女よりこの構想を伺った際はまさかとは思いましたけどね……。こうして実物を見てしまったら、信じるしかありませんけど……」
魔法学園国家ミストレシアという国の代理の人からは感嘆するようにそう口にする。そりゃあ、苦労したからね……。実際、『
彼らに続く様に自由都市と呼ばれた代理の人たちも、
「商業面から言っても特にありませんね。我々に声を掛けて頂けて事、本当に光栄の極みで御座いますな。先般の将棋といった遊戯といい……、これは此度の『招待召喚の儀』によって、勇者殿から齎された文化というやつですかな?」
「……その件につきましては、我が国の機密も含まれておりますので詳しくはお答えできませんが……。ですが、現在のファーレルにおける現況を鑑みましても、着実に前には進んでいると申しておきます」
「……それは良かった。此度の『招待召喚の儀』が行われたとされてから日も経っておりましたから、よもや失敗したのかと危惧していたのですが……、どうやら教主には良い返事ができそうです」
レイファニー王女が勇者についての事は上手くかわすと、また別の国がそのように答える。教主というからには……、ここが教国ファレルム総本山から来たという方達かな?あの、僕のコンプレックスを解消してくれたジャンヌさんを『聖女』と定め、ファーレル中の教会を纏めるトップがいるとされている国……。
「おっと、話の腰を折ってしまいましたな。我らの話は後でそちらに伝えましょうぞ。何はともあれ、教国にとっても今回の話は有難い話ですよ。自衛の為とはいえ、聖職者に武器を持たせて積極的に戦わせるという事はあまりしたくありませんのでね。今回の構想が現実のものとなってくれる事を祈るばかりです」
「我々フェールリンクにとっても、嬉しい限りです。姉妹国として出来るだけ力に慣れるよう、最善を尽くす事をお約束いたしましょう……!」
教国に続いて、フェールリンク自治区というストレンベルクから独立したとされる国も恭順の意を表し、残る一国も……、
「和の国としても、貴国とこのような形で関われるのはありがたく存じます。まぁ、気になる事も御座いますが……、我が国で協力出来る事はさせて貰いますよ」
「……皆さまのご後援、感謝申し上げます。それでは……、トレーディングカードダスゲームの商業戦略や広報活動を決めてゆく前に……、まず此方をどなたでも使用できるようにするよう生活魔法として構築する事から参りましょう……」
各国が協力を約束してくれた事を確認し、フローリアさんがそう言って、僕とシェリルが編み出した『
「……大体こんなところでしょうね。この条件で、『
……大まかに話は纏まったみたいね。私はコウや王女殿下の護衛として、この会議に臨んでいたのだけど、何事もなく終了を迎える事が出来そうだ。
一番ネックになりそうだった魔力の再現に関しても、予めコウとシェリル様が構築してくれていた事もあり、後は細かなルールを盛り込んでいくだけで済んだ。大きな変更としては、邪悪なる者の悪用を防ぐ為にも、魔力より具現化された者の攻撃は、魔族や魔物が持つ『
「『
「それは本日中に『
フローリア宰相が釘を指すようにミストレシアの代理者にそう伝える。この企画、構想はあくまでストレンベルク王国が権利を持っている。今後は本日集まった5ヵ国以外でも加入を希望する国が出てくるだろう。恐らくは、イーブルシュタイン連合国辺りはすぐに王国に打診してくるに違いないだろう。そこで、有利な交渉に持っていけるかどうかは、上の方々の手腕によるのでしょうけれど……、フローリア様がその辺りで抜かるとも思えない。
(……ほぼレイファニー様が許嫁として内定していたのが白紙になった事で、協議の方も中断してしまっていたけれど……、この事が切欠でまた再開できれば……)
あの大国イーブルシュタインの秘匿している技術は、ストレンベルクにとって是非とも取り入れたいものだ。特に、飛行魔力艇の建造技術はイーブルシュタインの誇る唯一無二の物で、その内の一艘がストレンベルクに贈られるという話だったのだけれども……。
(飛行魔力艇があれば、色々出来る事も増える……。もしコウが勇者として覚醒し、この魔王の騒乱を抑える際にも、きっと役に立つ筈……)
コウが提案したこのカードダスを用いる遊戯……。これは単純に戦術性を身に付けるといったものや、いざという時の防御手段として使われるだけでなく、他国との交渉や、本来の使用目的だった広報にも存分に活かされてゆくに違いない。そして……、魔力からその人物の現身として顕現させるこの魔法は、どの程度まで反映出来るかによって、その意味合いも大きく変わってくる……。
「……では我々はこれで。少しこのストレンベルクの商業ギルドと話を詰めておきたいのと、遊戯としてのルールも確認しておきたいので……」
「わかりました。『人智の交わり』のギルド長、マイク殿には此方からも伝えておきましょう」
フローリア様がそう言うと一礼して自由都市ディアプレイス連邦の代理の方達が退出してゆく……。恐らく、コウの提唱したカードゲームは、発祥の地であるストレンベルクを中心に広まっていく事となる。それを大きく広げるのは、ファーレル最大の商業国であるディアプレイスの腕にもかかっているが……、まぁ問題はないだろう。
そして、次にやって来たのは……、
「ユイリ殿……」
話し掛けられて振り返ると、和の国の帝の代理としてやって来た使節団が立っていた。その内の一人、眼鏡を掛けた一見優男風の男性は、我がシラユキ家とも親交があり、コウが希望していた米を都合してくれたりと色々便宜も図ってくれている。
「お久しぶりね、この間は無理を言って悪かったわね。……最も、あのおコメ、残念ながら口に合わなかったようだけど……」
「それは残念……、君がユイリ殿の言っていた人物だね?そして、この度の議題に上った魔術カードの開発者でもあるのかな……?」
私の言葉に相槌を打ちつつ、傍のコウに視線を向けると彼はそう言葉をかけてきた。コウが答えようとする前に、私は機先を制するように、
「……ちょっと待って、ヒジリ殿!一体、何を言って……!」
「我の国でも伝手があってね。それについてはユイリ殿が一番よく分かっている事だろう?……初めまして、私はヒジリ・ヤマモトと申します。貴方がコウ殿……で宜しかったでしょうか?」
ヒジリがそうして頭を下げると、他の使節団の者たちも倣うように続く。コウは僅かに驚き、目を見張った様子だったが、それも一瞬の事ですぐに合わせるように返答する。
「……コウで合ってます。僕の事は……」
「知っております……と言いたかったところですが、流石はストレンベルク王国ですね。此方でいくら諜報しても、それ以上の事は掴めなかった……。ですが、掴めないという事自体が王国において重要な機密扱いとなっているという事……」
……和の国は「忍び」という独特の集団を有している国。私もその一族の血を引いていて、
話を戻すと、和の国で諜報活動をしても情報を得る事が出来なかった事が、ストレンベルクにおいて最高機密であると認識しているという事であり、それはつまり『勇者』に関する内容であるのを掴んでいる……。恐らく、そういう事なのだろう……。
「それなら、どうして今回の提案が僕のものだと思ったのですか……?」
「……遊戯、というものを新たに作り出そうと考える人物は、このファーレルではそう多くはありません。そして、その遊戯に此度のような実益を合わせた提案をしようと思い付く者もね……。まぁ、大層な理由を付けましたけれど、早い話似ているんですよ。和の国にも、この
その話を聞いた瞬間、コウの顔色が変わるのがわかった。そして、それを見逃す相手でもない。……やむを得ない、わね。
「……これは、ストレンベルクの国家機密。他言は無用です。……襲い来る魔王の脅威に対し、和の国への救援を考えなくていい、と仰られるならば話は別ですが……」
「手厳しいね、ユイリ。君と私の仲じゃないか?……しかし、少しお喋りがすぎましたね。和の国としても、ストレンベルクと事を構えるつもりはありませんよ。ですが、だからこそはっきりさせておきたかったのも事実です。貴女が和の国に今回の件で声を掛けてくれたのは、どういう意図があったのか……、という事をね……」
……見透かされている、か……。私はチラリとコウと、今まで推移を見守っていたレイファニー王女に視線を送り……、ひとつ溜息をついて答える。
「……さっき、貴方が話していた『転移者』の情報が欲しいの。そして出来る事なら、ここにいるコウと引き合わせて貰いたいわ。そちらに何か危害を与えたり、不利益になるような事はしないとストレンベルク王国の名にかけてお約束する準備もあります」
「……
私の言葉を引き継いで王女殿下もそのように宣言してくれた。流石に一国の王女の言葉は無視出来ないのだろう。ヒジリと彼に同行する者たちも返答に窮する様子を見せ、
「……この場でお約束は出来ませんが、我が帝にお伝え致します。此度の件で恩恵を預かれる事も、和の国としましても至極光栄な事に存じます。良い返事が出来るよう最善を尽くしましょう」
「お心遣い感謝致します、ヒジリ殿。セリカ天帝にもよしなにお伝え下さい」
そして、ヒジリ達和の国の使節団はそれぞれに挨拶をして、ディアプレイスに続いて引き上げていく。気が付くと魔法学園都市ミストレシアの方達も、大賢者様に挨拶してストレンベルク王国の
「それでは我らもお暇させて頂こう。……ああ、お伝えしておかねばならない事があった。近く、教国より聖女の騎士に任命された者を派遣するので、その受け入れをお願いしたい」
「……畏まりました。『
そのように答えるフローリア宰相に教国からの代理も笑みを浮かべて去ってゆく。……ついに教国の抱える
「……ユイリ、今のディバインナイト、というのは……」
「『
成程……、と納得しているコウを横目にある事が頭をよぎるも、結局は彼に伝えずに言葉を呑み込む。……これも、今のコウに伝えるのは憚られる為だ。
『聖女』として選ばれた者が持つ役割や使命は、『勇者』のそれとあまり変わる事は無い。むしろ、『勇者』の覚醒が遅れている現状としては、『聖女』が辿る結末はより過酷なものになる可能性があるなどと、覚醒を拒んでいるような彼を前にして誰が言えるであろうか……。
「……ユイリ?」
「何でもないわ。気にしないで」
いけない、顔に出てしまっていたかもしれない。コウは何だかんだと言っても、色々とよく気付く。決して浅薄な人物という訳ではないのだ。
一瞬、王女殿下とも目が合う。言葉を掛けられなくても、彼女の言わんとする事がわかり、私はこのまま口を噤む。
(……もしも、聖女の運命を知ったら……、コウはどう思うかしら……?)
短い付き合いではあるが、コウがどのような人物であるかはわかってきている。幼い頃から召喚された勇者の補佐をすべく、育った私と違って、イレギュラーに備えて臨時の補佐役となっていたリーチェには悪いが、私は恵まれているのだろう。
最も、問題ばかり起こし、今なお不穏な動きを見せているトウヤが異常であると言ってしまえばそれまでだが、コウは勇者に相応しく清廉な人物だと言えた。ずっと想像していた勇者像そのままであるとまでは言わないけれど……、むしろ所々で心の繊細さを見せられたりする今のコウの方が支え甲斐がある。
そんな彼だからこそ、もしも自分の影響で知人が過酷な運命に晒されてしまうと知ったら……、先日のようになってしまうかもしれない。彼は恐らく、自分の見知った人々が不幸になるのをただ黙って見ていられる人物じゃない。だからこそ、その心が壊れてしまわないように……、そして彼が『勇者』としての責務を放棄しないであろう事を信じて、支えていかなければならないと私は心に決めていた。
「……少し宜しいでしょうか、レイファニー王女」
その時、最後までこの場に残っていたフェールリンク自治区の代表が話しかけてきた。他国で唯一、代表自らが訪れていた、クライン・サイトウ・ベルクその人である。
「これはクライン代表。わざわざ代表がお越し下さるとは光栄ですわ。それに、もう他国の目もありませんから、何時ものように呼んで頂いてかまいませんわよ?」
「ハハッ、これは失礼。だけど、いくら姉妹国とはいえ、其方にはもう少し形式ばった方がいい気もするけどな?まぁ、俺自身は堅苦しくて窮屈なのは苦手ってのもあるが……」
私の髪色、というよりもコウの髪色と同様に、漆黒の長い髪を靡かせながら砕けて話すこのフェールリンクの代表は、元はこの地にやって来た過去の『勇者』の末裔であった。その時代の『
「……フェールリンクはまだ誕生して数百年。国として認めて貰えているのはひとえにストレンベルク王国が国内外で国として遇してくれているからに他ならない。前は何とも思っていなかったが、正式に代表に就いてからはどうも気になってな……」
「構いませんよ、クライン兄さま。昔から
「……内々、とも言い切れないところもあってな……。セレント、挨拶してくれ」
クライン代表はそう答えると、控えた者の中から一人のフードを被った男性が前に出る。何処か目立たない印象を覚えていたが、その男性がフードを取ると……、
「エル、フ族……?まさか、『
「……その通りです、レイファニー殿下。簡易ながらも『
「そう言うな、セレント。彼は前から親しくしていたエルフ族なんだ。俺のところに来ている時に、メイルフィードを急襲されてな……。急ぎ戻った際には其方も知っている通りの有り様だ。今はウチの客将という扱いになっているが……」
メイルフィードの、セレント・エルフィンクス……!その名前は、私も勿論知っている。彼とは他国の集まる会合の席でも会った事があるし、将軍としても優秀で、『メイルフィードにセレントあり』と言っても過言ではないくらい有名な人物だった。
そんな彼がいながら、いくら十二魔戦将が率いていたとはいえ、みすみす魔物に国を滅ぼされてしまうのかと思いもしたが……、そうか、不在だったのか。……少なくとも彼がその場に居たら、王や王妃も落ち延びさせる事は出来たかもしれない。それに……、確か彼は……、
「……こうして恥を晒しながらも、生き延びているのは……、わたしの同胞たちを探す為です。特に……、わたしの婚約者であり、メイルフィードの姫君でもあられたシェリル様のご存命を信じて、そのご足跡を探る事が……、わたしの残された使命であるからです」
……そう、彼はシェリル姫の
そこでハッとして私はコウに視線を向けると、彼は呆気に取られているようだった。でも、いずれ我に返り、彼にシェリル姫の事を伝えようとするだろう。その前に……、
「ッ!?……ユイリ?」
私は彼が何かを言い出す前に軽く衝撃を与えた。コウは驚き、訝しむようにその真意を伺おうとして私の方を見たところで、
<コウ、少しの間黙っておいて貰える?この場は私たちで対処するから>
<何を言って……!?漸く探していたシェリルの婚約者が見つかったんだぞ!?向こうもずっと彼女を探していたみたいだし、それを伝えようとするのをどうして止めるんだ!?>
<……此方は急な事で裏も取れていないのよ?まぁ、ほぼ間違いなく当人だと思うけれど、姫を狙う間者という可能性もゼロじゃないわ。まして、姫の居ないところで勝手に彼女の事を話す訳にもいかないでしょう?>
そう言ったところでグッとコウが押し黙ったのを確認したところで、
「……シェリル姫の事についてはストレンベルクでも不確定の情報が多すぎて、整理していたところなのです。王や王妃の様に遺体も見つかっていませんし、生き延びられていると我々も思ってはいるのですけれど……」
「それでも、無事にメイルフィードの国外へと逃げきれたとも思えませんよ、王女殿下。襲撃の際に、逃げようとしていたエルフ族の多くが同時に詰めていた奴隷商人達に捕まったという情報もあります。生き延びられていたとしても、彼らの手に落ちたと見た方が……」
王女殿下とフローリア宰相がそのように答えるのを見て、セレント殿も頷き、
「……わたしもそのように考えております。事後の報告となってしまいますが……、わたしの方で独自に同胞たちの行方を追い、それぞれ開放に向けて活動して参りました。中でも其方の貴族に奴隷として苦しめられている同胞で、いかに解放策を伝えても応じて来なかった者に関しては、実力行使で逃がしたところもあります。それについては、申し訳なくも思いますが……」
「それについては謝罪には及びませんよ、セレント殿。我が国でも正規の理由で奴隷となった者の所有は黙認しておりますが、今回のケースは明らかに含まれておりません。事実、奴隷に逃げられたという報告も受けておりませんので……。フローリア宰相、貴女は何か聞いておりますか?」
「私も聞いておりませんね。ですので、我が国としてはセレント殿の行動について、何も咎める事はありません。むしろ、もし買い戻し等に費用が掛かったと仰られるなら、お返しさせて頂きますよ。違法に奴隷を所有したその者には此方からしっかりと追及しておきますから」
王女らが話すその傍らで、コウが私に対し無言の圧力を加えているのを感じる。ちゃんと大人しくはしてくれているが、明らかに納得はしていないらしい。……後でちゃんと説明するから、そんな目で見ないでよ……。
「……亡くなられた王妃様は、強力な
……もしかしなくても、シェリル様の事ね。何と言ったって、星銀貨5枚という破格の金額でもって落札されたのだから……。今となってはその星銀貨が魔族に流れていないという事がわかっているものの……、あの時は私欲の為にとんでもない事をしでかしたとコウに対して失望を覚えていたものだったか……。
セレント殿はそこでグッと拳を握り締めると、
「……恐らくはその同胞がシェリル様ではないかと考えているのですが……、その後の足取りが全く掴めないのです……っ!誰が購入したのかもわからず、さらにはその闇オークションを執り行った闇商人も、其方の国で正式に契約を結ばれたという事で……!そこから、彼女の足跡が途絶えてしまった……。だから、もし貴国で掴んでいる情報があったら、是非教えて頂きたいのです……!わたしの出来る事は何でも致しますので、どうか……!」
「……俺もセレントの様子は見ていられなくてな……。今回、其方から声が掛かった事で、セレントの件も伝えておきたかったんだよ。だから、レイファ。俺からも頼む。メイルフィードの事について、そしてシェリル姫についてわかっている事があったら、教えて貰えないか?」
セレント殿に続き、クライン代表も頭を下げて頼み込む。特にセレント殿のそれは必死さが伝わって来て、事情を知っている私からすれば、少し後ろめたい気持ちもある。王女殿下方も同じようで、少し申し訳ないという表情もされていたが、
「……わかりました。確実な事がわかったら其方にお伝え致しましょう。我々がその闇商人と契約を結んだのは、向こうの魔族の事情を探る為のものであったのですが……、そこでわかったのは、今回のメイルフィードの襲撃は新しく加わった『十二魔戦将』の教唆があった事です。その者によると、襲撃の際に高貴な姫君が落ち延びてきたら確実に捕らえ……、性奴隷として売り捌くよう指示があったという事……」
「な、なんですって!?すると、今回のメイルフィード襲撃は……、シェリル様を狙ってのものという事ですか!?馬鹿な……、彼女は恨まれるような方ではないのですよ!?」
「……シェリル様に何かがあったとは王女も申しておりません。ですが、相手はシェリル様を狙って行動していた事も事実のようです。彼女を殺さないよう、魔物に関しても徹底していたようですし……。王や王妃は魔物にやられた形跡があったので、この事からもシェリル様については配慮されていたというのは間違いないと私は考えております。最も、メイルフィード公国を滅ぼすのが第一であったのだとは思いますが……」
これもつい最近わかった情報だが……、やっぱり今回の襲撃はシェリル様が狙われたと考えるのが自然である。そして恐らくは私怨……。命を狙うというよりも、むしろ生き地獄を味あわせる為に性奴隷に堕とそうと考えたのか……。いずれにしても、シェリル様に恨みを持つ十二魔戦将の一人が、今回の襲撃を企てた。さらに、その新しい十二魔戦将というのが……。
「……あと、
「ダークエルフ!?まさか、公国の前の、王国時代にメイルフィードに居たダークエルフ族の一人だとでも……!?」
「それはわかりませんが……、ダークエルフ族の居るところと言えば限られていると思われますが……。私の知る限り、メイルフィードが公国となった際の諍いによって、その領内の森奥深くに住んでいるという事くらいしか、寡聞にして存じません……」
セレント殿は次々と判明する事実に戸惑いを隠せずにいるようだった。これで、シェリル様がご存命でストレンベルク王国にて保護している事を伝えればまた違うのだろうけれど……、今のこの状況において軽々に姫の居場所を話す訳にはいかない。それに、姫の生存が知られれば当然、その身柄の引き渡しを求められるだろう。彼女はメイルフィード公国において、唯一生存している皇族。まして、相手は彼女の
「……悪戯に情報を話す事が良いとも思えません。此方としてもちゃんと判明した事はきちんとお伝え致します。シェリル姫は
「……レイファニー殿下、有難う御座います……!何卒、宜しくお願い申し上げます……っ!」
「済まないな、レイファ。ほら、聞いだだろ?お前は少し休め、セレント。ずっと気を張りすぎて、あの日以来満足に眠れてもいないんだろ……っ」
……ここらが落としどころだろう。私は部下のイレーナに合図しつつ、
「そういう事でしたら……、別室にお部屋をご用意致します。クライン代表も宜しければ是非……」
「済まないな、ユイリ。ほら、セレント……。ここは好意に甘えておけ」
「……ご配慮、痛み入ります」
イレーナがクライン代表らを伴い、他国の代表団が全員退出したところで……、
「……ユイリ、それに王女殿下。フローリアさんも……、先程のやり取りはどういう事ですか?」
「どういう事も何も……、聞いた通りよ。あの場で姫の事を話す訳にはいかないでしょ?」
「だとしても……!彼は、本当にシェリルの事を心配して、あそこまで憔悴していたんだぞ!?それなのに……っ」
「それなのに……
憤りを隠せないように詰め寄る彼に、レイファニー王女は毅然とした様子で向き直る。
「そ、そうです!彼の言った事は、恐らく間違ってはいません!それは、貴女方にもわかったでしょう!?」
「そうですね。セレント殿が話していた内容は、真実であるでしょう。彼とも初めてお会いした訳でもありませんし、クライン兄さまがお連れした方ですもの。まず間違いという事はないでしょうね」
「それなら……、どうしてあんな言い方を……!」
流石に王女殿下に対して直接的な怒りをぶつけるという事は出来ないでいるコウに……、王女殿下は彼の意見を論破するかのように冷静に話を進めていく。
「……逆にお聞き致しますが、あの場でシェリル姫の事を伝えたとして、もし間違いがあったとしたらとはお考えにならないのですか?唯でさえ、シェリル姫の事はストレンベルクにおいても勇者の件に次いで機密情報となっているのです。先程も申しました通り、シェリル姫が未だ敵に狙われているという可能性も否定できません。まして……、通常はあのような場で唐突に情報を求められるという事も有り得ない話なのです。それはフェールリンクの代表もお分かりでしょうし、向こうもこの場で情報が得られるとは思っていなかったでしょう」
「それでも……、それでもあの場で問わずにはいられなかったのは、それだけ余裕がなかったからとも考えられないですか!?あの通り、シェリルの安否を求めて……、それでもどうにもならなくなって、僕たちに情報を求めてきたと……!」
コウも必死に訴えかけるようにして同意を得ようとしていた。彼の気持ちもわかるけど……、それでもコウは忘れている事もある。
「仮にそうだとしてもです。あの場で求められた情報は、シェリル姫の事でした。ご本人に話も通さず、一方的にお伝えしてしまう事について、コウ様はどのようにお考えですか?」
「そ、それは……!でも、彼はシェリルの婚約者だと……っ!」
「それを証明する事はあの場で出来ましたか?先程も言いましたが、通常であれば事前に先方から通知が届き、それについて裏付けを取るのが普通です。そしてその際に真偽の方も確認していくのですが……、今回はそれがありませんでした。まして、婚約者であればシェリル姫の意思も無視して宜しいのでしょうか?」
凛としてそのように答える王女殿下に、ついにコウは二の句が継げなくなる。王女殿下の仰ることは正論であり……、自分が感情からものを言っている事にコウも気付いたのだろう。しばらく沈黙し、やがて息をひとつつくと、
「…………そうだね、シェリル自身がどう考えているかって事を、僕は見落としていたかもしれない。ゴメン……、ユイリにも色々言ってしまって……」
「いいのよ、コウ。貴方が無茶を言ってくるのは今日に始まった話ではないし……。それに、この件については貴方の気持ちもわかるから」
「ええ、謝られる事ではありませんわ。
そこで王女殿下は漸く笑みを浮かべ、少し言いすぎましたとコウに話しかけるのを見ながら、私は一息つくとシェリル様に
(本当に世話の焼ける勇者様ね……。まぁ、彼らしいと言ったらそれまでだけど……)
このような調整役を引き受けるのも勇者の補佐を任じられている私の役目だ。シェリル様は一度決められたら簡単に自分を曲げないお方。それもコウの事が絡むとまず間違いなく折れないだろう。
……姫の生存を確認した婚約者が、そのまま今の状況にさせておくとも思えないし、かといって姫の引き渡しを拒む理由もない……。本当に、どうしたらいいのかしらね……。
(折れないといったら、コウも同じ、か……。似た者同士というか何というか……)
それでも、私は恵まれているといえるかもしれない。幼少の頃から命じられていた、将来において勇者が召喚される事態となった際に、その者を助けるように言われ続けてきた私としては、勇者に相応しき心を持つコウを支えるのは本望であるといえる。
初めて勇者として呼ばれた彼に会い、紆余曲折をかさねて、コウを陰日向になって支えてきたが……、今やただ王命であるというだけでなく、私個人の意思としても望むようになってきていた……。
「それでは、私たちも戻りましょう。この分だと、今日は忙しくなるでしょうから……」
「あ……、
そう挨拶して、王女殿下は一足先に退出する。フローリア宰相もコウの様子に頷き、私もディアプレイスと『人智の交わり』のやり取りに立ち会ってきますと言って出ていかれた。
それを見送って私がコウと会議室を出ていこうとした時にちょうど姫から返答が来る。その想像通りの内容に苦笑しながらも、私はコウを伴って、皆の待つ『
「……これから王宮に?」
「ああ、何でもあのコウ殿が画期的な提案をなされたという事でな!商業大国のディアプレイスからやって来てその事で協議をしたいらしい……。いやはや、やはり私の睨んだ通りだ。彼は何か大きな事を成し遂げる者であるとな……!」
いつものようにギルドの仕事をしていた私に、珍しく興奮気味の父が話しかけてくる。仕事の手を休めて内容を伺ってみると、どうやらカードを使用してのビジネスで、目算でも多大な利益を上げるもののようだ。
「これが実現されれば、ただ遊戯として加わるといっただけではない……!カードを媒体に召喚魔法を応用して、魔力を込めた者の姿を具現化させる上に、魔物に対し撃退可能な防衛策を講じる事にもなる!さらには、カードから召喚する方法は生活魔法という形で誰でも使用できるようにするという事だ……!」
「じゃあ……、このカードにも魔力が込められたら、その人物が簡易的にでも召喚されるっていう事?」
話題にのぼる人物、コウさんから貰った大切なカードを手に取り、父に聞いてみると……、
「今までの広報用のカードダスにも対応するように考えているらしいな。最も、現在のカードには当然魔力が込められていない為、一度回収なりするしかないとの話だが……。しかし、それが他の国を巻き込んでの話というのも凄いぞ!その効用によっては、護衛の仕事が一部要らなくなってしまうかもしれんな……!」
上機嫌でそのように話す父の姿に、こんな姿を見るのは本当に久しぶりだと思った。母が亡くなって以来、何処か仕事に逃げるかの如く、取りつかれたように業務をおこなう父。そんな父の姿を見て、何とか助けてあげられないかと思っていたところで、私は10歳の時に受けた鑑定によって、事務職の才能があった事を思い出し……、父に申し出たのだ。
『マイクさん!ジェシカは本気だよ!亡くなったお母さんの代わりに、自分がその仕事に就くって!だから……、認めてあげてっ!僕も……、ただ働きでも何でもいい……、何でもお手伝いするから……っ』
幼馴染でずっと一緒だったアルフィーもそう説得してくれて……、私は母の就いていたコンセルジュの仕事を継ぐ事となった。最初は分からないことだらけで本当に大変だったが……、父は勿論、職員の方達も助けてくれて……。そして何よりアルフィーが私を支えてくれた事もあって、何とかやって来れたのである。
そして、先日アルフィーは貯めていたお金で冒険者として必要な装備を整え、『天啓の導き』に登録を果たしたところだった。彼が居なくなってぽっかりと穴が開いてしまったような気持ちだったものの、定期的にくれる連絡を励みに頑張って来たのだけど……。
(このアルフィーのカードにも魔力がこもれば……、疑似的にでも彼に会う事が出来るのかな……)
ギュッと大事にカードを抱きしめていると、父が思いもよらぬ事を話し出す……。
「ああ、彼のような人物にお前を貰ってもらえたらなぁ……」
「ちょっと、お父さん……!」
私を目に入れても痛くないというように可愛がって貰っている事は自分にもわかっているが、そういう話だけは受け入れられない。抗議するように父に詰め寄る私に、
「ジェシカ、私はね、お前には幸せになって貰いたいんだよ……。母さんの忘れ形見であるお前には、誰よりもね……。その幸せの為には、頼りになる者と一緒になる事が一番なんだよ……」
「私はお父さんの言う事を全部聞いてきたけど……、自分と一緒になる人は私が決めたいの……!それに……、そんな話、私にはまだ早いわよ……っ!」
そう言っても父は首を振ると、
「勿論、将来の話だ。今は取り合えず婚約という形にはなるが……。それに、ジェシカは何時も話していたろう、貴族の方に嫁ぐつもりはないと……。それであったなら、コウ殿は貴族ではないぞ?それに、お前の事もきっと大切にして下さる……!」
「貴族とかそういうお話じゃないでしょ!コウさんは良い方だと思うけど、私にはもう心に決めている人がいるの……っ!お父さんだって、知っているでしょう!?」
アルフィーは、父の親友だった冒険者の方の息子だ。彼が小さい頃に魔物の集団がストレンベルクを襲ってきた事があり……、多くの兵士さんや冒険者の方が亡くなった。その中には彼の父も含まれていて……、その時以来、アルフィーの家とは家族同然でお付き合いしてきた。父も彼の事は悪く思っていない筈なんだけど……、それでも私が彼のお嫁さんになるって言うと決まっていつも……。
「まだそんな事を言っておるのか、ジェシカ。あやつはそういう対象とは見ない様に言っておるだろう。まして……、あやつは反対しておったにも関わらず、冒険者となりおった……。あやつの父より、頼まれているというのに、アルフィーの奴は……」
「それは、お父さんが彼の事を認めてくれないからじゃない!アルフィーは事務職に向いていないにも関わらず、私を助ける為にずっと手伝ってくれていたわ!一生懸命に、他の方の信頼も得ながら……!でも、お父さんはいつも厳しく彼に当たっていたじゃないの!」
「それは当たり前だ!仕事に私情を挟めるはずがないだろう!それについては、お前にも同じように接してきた筈だ。……アイツが努力していたのは知っておる。隠れて父の形見の剣を握り締めている姿も見ておった……。だから、私はアイツに自分の後を継いでくれる事を期待したのだ。事務系の才能がなくとも、他の者の信頼を勝ち取りながら……、お前を助けるように仕事をこなしていったアルフィーにな……」
少し遠い目をしながらその時の事を思い浮かべているかのように話す父だったが、すぐにそれを振り払うようにして、
「……まあ良い、この話はまた今度にしよう……。だが、私の話も覚えておいておくれ。お前のアルフィーに対する気持ちは知ってはおるが……、それを私が認めるかどうかはまた別問題だ……。あやつの父のように……、死んだと聞かされて辛い思いをするのはジェシカ、お前なのだ……。ただでさえ母さんも亡くなり、大切な幼馴染まで亡くすとあっては、心が耐え切れなくなるぞ……」
「…………お父さん……」
そんな父の話を聞き、私も俯く。父の言う事がわからない訳ではない。私だって、最初にアルフィーが冒険者になると言った時は反対したのだ。いずれはお父さんの後を継いで冒険者になるのだとしても……、今はまだ早すぎるんじゃないかと……。でも、君だって立派に仕事をしてる。早い人は10歳で鑑定を受けた時に冒険者になる人もいるくらいで、自分は遅いくらいだって笑いながらそう話す彼を……、私は止める事が出来なかった。
「……さて、私は王宮に行く。お前も今日は早めに上がりなさい、ジェシカ」
「……はい、わかりました。ギルド長……」
そう言って父は軽く私を抱きしめた後、王宮に向かった……。暫くは受付で仕事をしていたが、今日は何だか仕事に身が入らない。
……久しぶりに父とアルフィーの事で話したからだろうか……。
「ジェシカちゃん、今日はもう上がっていいわよ!疲れているみたいだし……」
「でも……、いえ、わかりました。お心遣い、有難う御座います……」
一緒に仕事をしている受付嬢の先輩の気遣いに甘え、今日はもう帰る事にする。その足で私に与えられている控室に行き、着替えながらも先程の父とのやり取りを思い出していた……。
『あやつはそういう対象とは見ない様に言っておるだろう!』
父にそう言われるのはこれが初めてではない。父が相手を進めてくる度に私はその気がないと伝え……、決まって最後はアルフィーとの事を否定されて終わるのだ。
……私はもう、彼以外には考えられないのに……。
普段は父も居て、一緒に帰り支度をするこの部屋は、一人だと何だか広く感じた。だから考え事をしていると、ますます深みにはまっていくような気がして……、私はいつもしているペンダントの中に収めたアルフィーのカードを取り出して、そっと胸に抱きしめた。
(……私は、彼と一緒になる事は出来ないのかな……)
そんな事を考えると凄く悲しい気持ちになる。母を失い、父も一層仕事に向かうようになって、寂しい気持ちを埋めてくれたのが幼馴染のアルフィーだったのだ。
いくら重婚が認められるとは言っても、全く気のない人と一緒になる方が失礼になる。万が一にその人がアルフィーとの事も認めてくれたとしても、自分にはアルフィー以外の人を想う事自体がまず考えられない。
……どうして父はその事をわかってくれないのか。いくら考えてもそれだけはわからなかった……。
「駄目だわ……、このまま考えてたら何時まで経っても帰れなくなっちゃう……」
私は気を取り直して別の事を考えるようにする。お父さん、今日は遅いのかな……?折角だし、この間冒険者ギルドのサーシャさんに教えて貰った『唐揚げ』を作って待っていようかな……。お父さん、アレ好きみたいだし……。
そうと決まれば『唐揚げ』の材料を買って、少し冒険者ギルドに寄ってみよう。それでサーシャさんと話して、その後で家に帰って『唐揚げ』を作る……。そう思った矢先、
「…………?」
ふと物音がしたように感じて振り返るも……、特に変化は感じられない。それはそうだろう、ここは私と父に与えられている控室だ。他の人が訪れるにしても、ノック位はある筈……。
気のせいだと思い直し、私は帰り支度をするが……、その時になって、さっきの物音が気のせいなんかではない事を知る事となる……。
「えっ?むぐっ……む、むぅ?!」
突然私は後ろから口を押さえられ、驚いた拍子に手にしていたアルフィーのカードも落としてしまう。
「うむぅ!んーっ、むーっ!?」
何!?一体何なのっ!?何が起こったのか把握する間も与えられず、助けを呼ぶ事も出来ない。おまけに口を塞がれた布からは妙な匂いがして、意識が遠くなるのを感じる。なんとか口元を塞ぐ手を剥がそうとしたものの、そんな自分の抵抗を封じるかの如く、背後の人物に拘束されるように抱きすくめられてしまった。
……どうして?どうして自分が、こんな目にあわないといけないの……?こ、このままだとわたし、は…………。
意識が混濁し、徐々に目を開けていられなくなる中で、私は心の中で大切な幼馴染に助けを求める事しか出来なかった……。
(……怖いっ!助けて……、助けて、アルフィー……ッ!)
「……うむーっ!んぅーっ!!」
狙い定めていた
「――っ!!んんっ!むぅぅぅっ!!んぅんっー!!」
助けを呼ぼうとしているようだが、しっかりと彼女の口を塞ぐように押さえているので、微かでくぐもった声しか出す事が出来ず、誰にも聞こえる事はない。片手はカラダにも回した腕によって抑えられている為、もう一方の手で必死にオレの腕を掴んでいるのだが……、徐々にクスリがまわり始めているのか、少しずつその力が弱まっているように感じる。
最も、本調子であっても彼女が力でオレに勝てる筈はないのだ。年齢は14歳、オレの知る基準で言えば、まだ中学生くらいのヒューマンの女の子。ただその体付きは大人顔負けではあるが……、いくら発育が良かろうとも所詮は子供の力でしかない。だんだんと抵抗が鈍くなりつつある彼女にそろそろ限界かなとほくそ笑む。
「む……ぅ、んっ……、っ……」
……落ちたようだな。オレの腕を掴んでいた手が下がり、ガクッと体の力が抜けた様に崩れ落ちる彼女を抱きすくめ、そのまま抱え上げる。意識を失って重く感じられたとしてもまだまだ子供であり、元の世界に換算しても中学生くらいの女の子だ。お姫様抱っこをしていても軽いものであるばかりか、目を付けた通り体の発育は非常に良く、その抱き心地はムッチリとしていて抱え甲斐があった。
「クックック……、ゆっくりお休み、オレの眠り姫……!」
予め
まるで
彼女……、確かジェシカと言ったか。商人ギルドに顔を出した際に目に留まり、その時よりずっと機会を狙ってきた訳だが……、本日漸くこうして隙を見て捕らえる事が出来た。
その年齢に見合わぬ大人びた雰囲気を持ち、いい体してる彼女は、今の内からオレ好みの女に染め上げる予定だ。光源氏計画とでも言うべきか……、まぁ一足先にそのカラダだけは味わわせて貰おうとこうして眠らせた訳だが……。体付きは大人と言っても差し支えないとはいえ、流石にまだ子供と言える年齢の彼女に手を出すのは色々不味いかとも思ったものの、あどけない寝顔で無意識に自分を誘っているようなジェシカを前に手を出さないという選択肢はない。それに彼女が眠っている間に処女を奪うのだと考えると興奮させるものもある……!
他にも、冒険者ギルドの顔というべき受付嬢も振るい付きたくなるくらいにいい女だったし、この国は本当にレベルが高いと思う。このジェシカの調教が落ち着いたら、次は彼女の番だ。あまり一人になるような事も無く、このジェシカのような隙が見つけられないのも事実だが、絶対に攫ってきて可愛がり……、いずれオレ専用の秘書にするのも悪くはない。
……さて、いつまでもこうしてはいられない。恐らくは自分を監視しているであろうベアトリーチェの部下を巻くべく、オレは作動させているプライベートルームの入口へと向かう為、部屋を後にする。
(全く、嫉妬なのかは知らんがオレを制限させようなんて……、リーチェにも困ったもんだぜ……)
いつかあの女には某女戦士のように「くっ、ころっ……!」と鳴かせてやるつもりだ。しかし……、正直に言うとわからない事もある。オレにはとても具合がよくて、まだまだ抱き足りなかった巨乳ちゃんや、絶対にモノにしたい絶世の美女ともいうべき女がいたように思ったが……、どうにも思い出せないのだ。もしかしたらオレの抱える奴隷の女たちの中に居たかもしれないが……、それでも巨乳のコは居なかった気がするし、それにあんな目の覚めるような極上のエルフは……ってエルフ!?
(……エルフ、だと……!?そうだ、初めて見たエルフがあの……!クソッ、どうして思い出せない……っ!)
抱きかかえているジェシカの綺麗なブロンドの髪は、どこかエルフの彼女を思わせるような……!?くそっ、誰かに何かされたのか!?だが、『危険察知』の
「…………ベアトリーチェ様……ません、見失い……。恐らくは例の……」
「彼が今狙って……。念の為、冒険者ギル……か、商人ギルドの……。確認いたし……」
「……チッ、もう嗅ぎ付けてきやがったか」
オレを探していると思わしき連中が商人ギルドの外まで聞こえてきた事に舌打ちすると、オレはとりあえずその件について考えるのは止め、邪魔が入る前に引き上げる事に決める。一応、目的だったジェシカはこうして無事手に入れたのだ。勿論、まだ子供の彼女に手を出す事のリスクは承知しているが……、眠らせている間に済ませるつもりだし、バレなきゃ問題ないだろう。
いずれはオレのハーレムに加える。きちんと育て上げれば、場合によってはレイファニーよりもお気に入りの存在になるかもしれない。今は何も考えず彼女の無垢なカラダを愉しむ事としようか……、そう思いながらオレは笑みを浮かべつつ、気を失ったジェシカを伴いながらプライベートルームへと入るのだった……。
「……『
王宮の一室にて、僕は試作品のカードを片手に、生活魔法へとカスタマイズされた件の魔法を唱えると……、カードが淡く輝き出した。その輝きはやがて人物の姿を形どり……、やがて僕の目の前に自分そっくりの姿に具現化された者と対峙する。
「……これが、僕のカードから具現化されたものか……。姿形は本当に変わらないな……」
最初は単純に、元の世界の某漫画のように……、カードの絵柄を幻像化させてゲームが出来れば面白いだろうなと思っただけだった。カードゲームのルールは自分の知る様々なゲームから調整し、その召喚された幻像が身を守る手段としても使えたら一石二鳥と比較的軽い気持ちで提案したつもりだったけれど……、蓋を開けてみたら自分でも吃驚の代物として出来上がっていたのだから、このファーレルでの魔法の力というものには恐れ入る。
「コウ様?シェリルです、入りますね?」
自分の幻像の前にして佇んでいると、軽く扉をノックされてその声と共に彼女が入ってきた。シェリルの姿を認めたシウスがすぐに彼女の下に駆け出し、ぴーちゃんもサッと舞い上がるとシェリルの頭上を嬉しそうに飛び回っていた。
「……コウ様、此方もお試し頂けませんか?」
シェリルはカードから召喚された僕の幻像に目を遣りつつ、そっと僕に一枚のカードを差し出してきた。
「これは……」
「わたくしのカードです。レイファニー王女様や大賢者様にお願いして、1枚だけ作って頂きました」
1枚だけ……。一応カードゲームとして体を成すように、それぞれのカードには
バストアップされたシェリルが描かれたそのカードを受け取ると、
「どうぞ、同じようにお試し下さいませ」
「……わかったよ、じゃあ……『
彼女に促され、僕は先程と同じようにシェリルのカードも具現化させるべく魔法を唱える。すると、さっきと同様にカードが輝き、シェリルの姿を象ったものが召喚され……、
「……凄いな、本当に細部に至るまで君にそっくりで……っ!」
「どうかなさいましたか、コウ様?」
そう、あまりにシェリルと同じなのだ。具現化された彼女は普段、清涼亭で寛ぐ時と同じで、妙に色気のある部屋着を身に纏っていた。あまりまじまじと見ないようにしていたけれど、こうして改めて見てみると、そのナイスバディさが際立っていて、まるで当人を見ているかのようで……!不味い、変に意識してしまう……!
「……何処か可笑しなところでもありましたか?」
「い、いや……、変じゃないよ。むしろ、再現しすぎているんじゃないかと思うくらいで……」
「そうですか、ちゃんと体のラインに渡るまで映し出せるように念入りに『
…………それって、つまり……。
「シ、シェリル……ッ!」
「フフッ、申し訳御座いません。ですが、わたくしとしては大事な事だったのです。きちんとわたくしを再現させるよう、魔力から何処まで反映させる事が出来るのかは勿論ですが……、不完全な形でコウ様の前に姿を晒す訳にも参りませんから……。そして、忠実に再現されたわたくしに対し、貴方が反応して下さるのは嬉しいですし、安心もしております。……もし、貴方が何も反応して下さらなかったらと思うと、哀しくなってしまいますもの……」
悪戯っぽい表情を浮かべて僕の反応を愉しんでいるような様子だったシェリルが、少し寂しそうにしてそのように話す。揶揄われたかと思った僕だったが、彼女は恐らく本気で言っていると感じ……、
「シェリル、前にも言ったけれど……、君は十分魅力的だよ。誰もが君に見惚れて、振り返ってしまうくらいにね……」
「他の方の評価などどうでも良いのです……。貴方に気に入って貰えない魅力などに何の意味があるのですか……」
そう言って彼女は僕をジッと見つめてくる。その瞳は何かを訴えるかのような色を秘めていた。
「……ユイリから聞きましたわ。セレント様がいらっしゃったのですね」
「君の婚約者、だよね。僕もニックに探させていたんだ……。隣の国に匿われていたらしくてね、生きていてくれて良かったよ」
「それはわたくしも同じです。彼は……、わたくしにとっても兄のような方でした。メイルフィード公国の立派な将軍でもあって……、お父様も彼の事をとても信頼していましたわ。そしてわたくしも……、不器用ながらも大切に想って下さっているセレント様の事をお慕いしておりました……」
思い出す様に呟くシェリルだったが、意を決したように僕を見上げると、
「……ですが、それはメイルフィード公国がまだ存在していた時の話です!メイルフィードの姫であったわたくしは、国が落ちて闇商人に捕まり、奴隷とされた際に死にました。父も母も失って、国そのものも失われてしまった際に、わたくしの心もまた冷たく凍てついてしまったのです……」
……シェリルのそんな悲痛な叫びに、彼女と出会った時の事を思い出す……。確かにあの時のシェリルは……、心を閉ざして全てを諦めていた……。
「あの惨劇に巻き込まれずに、セレント様が生きていて下さったのは本当に喜ばしい事です。ですが、貴方は彼にわたくしを託すために、セレント様を探しておられたと伺いました。コウ様は……、わたくしがそれを望むと本気で思っていらっしゃるのですか!」
「……それは」
「わたくしがセレント様の下に参ったら、貴方とは離れる事になるでしょう……。貴方はストレンベルク王国が召喚された、勇者の資格を有する方です。今、わたくしが貴方とご一緒させて頂けるのは、あくまでコウ様が奴隷に堕とされたわたくしを救って下さった主であると、王国でも認めて下さっているからなのです!それなのに……、コウ様は……っ!」
彼女の瞳が潤んでいるのを認め、僕はまたシェリルを傷付けてしまったと知る。シェリルは本気で怒っている。彼女に相談もしないで、勝手に事を進めていた僕に対して……。
「わたくしの立場で貴方に好かれたいと思う事は許されないのかもしれません……。ですが、貴方のお傍にいたいという想いすらも叶わないのですか!?婚約者だった彼に任せれば、今のわたくしの想いは無視してもいいと、コウ様はそのように思っておられるのですかっ!」
「……ごめん、そういう訳じゃないんだ。決して君を傷付けようと思った訳じゃない。だけど、結果的にはこうして君を傷付けてしまった……。本当に、ごめん……」
僕は彼女を慰めるべく、やんわりとシェリルを抱き寄せた。少ししゃくりあげるように嗚咽を漏らし出す彼女に、罪悪感が込み上げてくる。
……もう、彼女は僕から離れられる状態じゃなくなってしまったかもしれない。こうならない様に、出来る限りシェリルと距離を置こうとしていたというのに……、気が付けば彼女だけでなく、自分も離れたくないと思うようになってしまっている……。
(……僕だってシェリルと離れたくなんてない……!でも、それならどうすればいいんだ……。彼女を、僕のいた世界に連れて行くのか……?不幸になると、わかっていて……?そんなこと、出来る訳ないじゃないか……!)
彼女の婚約者だったら、何も問題はないと思っていた。一度は一緒になると決まっていた相手であり、シェリルと同じエルフ族。それに彼と会ってみたところ、シェリルに対する愛情はそのまま残っているとも確信できた。だから、今のうちに彼女を……、とそう思っていたのに……。
「……シェリルはどうしてそこまで……。もし、助けられた事を気にしているんだったら……」
「好きになるのに理由などありません!最初は助けられた事で、貴方を知りたいと思っていました。ですが……こうしてご一緒させて頂く内に、気持ちを抑えられなくなっていったんです!貴方をお慕い申し上げているのです……!愛しているのです……っ!!」
……シェリルからこうして直接的に告白されるのは初めてかもしれない。それを聞いて、飛び上りたくなる程、嬉しく思う自分にも気付いている。でも、僕には……!
葛藤する僕を余所に、シェリルの告白は続く……。
「……コウ様は残酷です!もしも貴方がわたくしを拒絶してくれるなら、叶わない想いと諦める事も出来ます……。ですが貴方は、わたくしの想いを受け止めてくれて……、そして貴方からの想いも感じているのに……、それなのに貴方はわたくしを遠ざけようとしています……!どうしてなのですかっ!?どうすれば貴方はお傍において下さるのですかっ!?わたくしに何か落ち度でもあるのですか!?それならば、仰ってください……っ!わたくしに出来る事は、どんな事でも致しますから……!!」
「君に落ち度なんてある訳ないよ!問題があるとすれば……それは僕にある」
元の世界に帰るべきか、この世界に残るべきか……。某劇作家の言葉ではないけれど、本当にそれが問題だ……。
「どんな問題があるというのですか!?先程も申しました通り、わたくしはもう一国の姫ではありません!奴隷という立場は貴方が解いて下さいましたが、それでは困ると仰るなら奴隷に戻っても構いません!セレント様にもわたくしから話しますわ!」
「そういう事じゃない!そういう事じゃ、ないんだ……」
シェリルが悪い訳じゃない、必死にそう言い聞かせながら彼女を慰める僕。シウスとぴーちゃんが見守っている中で、具現化された僕と彼女の幻像を前にして、いつかの時のようにシェリルが落ち着くまで一緒に居続けるのであった……。
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