第13話:模擬戦
「じゃあ、無事に
グランの提案により、魔法屋内の訓練所を使用してさらに別空間へと転移した僕は、新たに得た
「ああ、いいぜ。じゃ、早速構えてみてくれ、コウ」
実践訓練だと言わんばかりに、かかってこい、というジェスチャーをするレン。
かかってこいと言われてもなぁ……。取り合えず、
(剣なんて、学生時代でやった剣道……それも竹刀しか持った事ないのになぁ……)
苦笑しながら、僕は剣道の授業を思い出すように剣を正眼に構えると、
「ん、それじゃあ何処からでもいいぜ、かかってきな」
「ええ……?これ、真剣のようだけど……?」
まず、間違いなく僕よりはレンの方が強いだろうけど……、如何せん此方は真剣など持った事もない戦いの素人だ。
……万が一にも、ハチャメチャに動いていたら誤って人を死なせてしまいました、とかになったら、洒落にならないんだけど……。
「ああ……、大丈夫、大丈夫。多分、俺には当てられないから」
少し茶化すように言うレンに。……本当に大丈夫なんだろうな。
「それなら……いくよっ!」
裂帛の気合と共に、僕はレンの肩当たりを目掛けて思いっきり銅の剣を振り下ろす。しかし……、
「ほら、どうした?もっと打ちかかって来いよ」
「くっ……」
僕の渾身の一振りをあっさりと受け止められ、あまつさえ易々と受け流されてしまう。バランスを崩しかけた僕に対して、レンは攻撃すらしてくる素振りも見せない。
(これが、彼と僕の力の差か……)
今、彼が隙をついて僕を攻撃していたら、間違いなく死んでいただろう……。この分では、間違いは起こりそうもない。それならば……、
「だったら……!」
今度は連続で、剣を上段、中段、下段と叩きつけるも、
「ほい、はっ、よっと……、どうしたどうした?もう、終わりか?」
小手先のフェイントを入れたりと攻撃を入れ続けているのに、難なく僕の剣をいなしていくレン。全く当たる気がしない……!
「じゃあ……、これならどうだっ!」
それならばと、一旦彼から距離をとり……、この国の重力が地球より小さいからこそ出来る、スピードを全開にした高速フットワークで、レンを翻弄する戦法に切り替える。
「へえ……、中々速いな……!」
元の世界では考えられない程、素速く動きつつ、レンの隙を探ろうとする僕だったが……、
(駄目だ……、隙が無さすぎる……!)
死角を突こうとしても、レンは悉く対処している為、打ちかかっても通用する未来が見えない……!
「来ないのか……、なら此方からいくぜっ!!」
「うわっ!?」
レンはその言葉と同時に、素早く動き回っていた僕に一瞬で肉薄すると、腹の辺りに当て身をまともに喰らってしまう。
「かはっ……!」
「コウ様ッ!」
文字通り吹っ飛ばされた僕はその勢いのまま壁に叩きつけられる。その衝撃は、一瞬息が出来なくなる程激しいもので、まさか自分が漫画みたいに吹き飛ぶという経験をするなんてと思わず現実逃避するくらいだ。
黙って観戦していたシェリルが悲鳴と共にすぐさま駆けつけ、介抱しながら癒しの魔法を掛けてくれる事で、痛みが和らいでいき、漸く一息つけるようになる。
「大丈夫ですか、コウ様……」
「うう……、有難う、シェリル……。助かったよ……」
「悪い、悪い……。結構やるものだからさ、つい熱くなっちゃったよ……」
そう言いながら僕たちの方にやって来るレン。
「でも、駄目だったよ……。結局、君に一回も攻撃を当てる事が出来なかったし……」
「そりゃあ、当てられる訳にはいかねぇよ。むしろ初めてでこんなに動ければ上出来さ。異世界の人間っていうのは、こんな風に手合わせする事は無かったのか?」
レンはそう僕に尋ねてくる。……ううんと、僕を慰めようとしてくれているのかな?それとも本気なのか……。
「……国によっては戦闘訓練を受けているところもあったけど……、僕のいた国では無かったな。あくまで武道はスポーツの延長でしかなかったし……」
「スポーツってのが何なのかは知らねえが……、要するに遊戯って事か?だったら、それで充分やっていけるな……。この国の一兵卒よりも全然動けていたしな」
多分、本気で言ってくれているであろうレンに、苦笑しながら有難うと伝えると、
「有難う、レン。だいたい、わかったかな……。コウはどう?
僕とレンの模擬戦、というより指導を見ていたグランが訊いてくる。
「違和感、というより、正直な話、今までこんなに素早く動けた事はなかったんだけど……、この世界の人たちはこういう風に戦うのかな?なんかこう……、もっと
僕の独断と偏見ではあるけれど、今の戦闘では、僕としてもただ速く動いたり、うろ覚えの剣道の動きをしていただけに過ぎない。それで訊いてみたんだけど、
「そうだね、あくまでも自分のステイタスに合わせた動きで戦い、
グランはそう言うやいなや、自身の武器であろう槍を何処からか取り出し、目の前で構える。小声で何かを呟いたのちに、
「『
明らかに必殺技らしいそれは、目にも止まらぬ速さで空間を引き裂くと同時に、空気中の水分を氷の結晶に変えて空間毎、凍り付かせてしまった……。
…………嘘でしょ?こ、こんな事が……、これが
「っと、まぁ……こんな感じだね。コウも熟練を積んで、見習い戦士から上位の
「古代魔法……か。僕も、見習い魔法使いには就けたみたいなんだけど、どうやったら魔法って使えるようになるの?」
「魔法は……、見習い魔法使いに就いた時に覚える、『初級魔法入門』を見て魔法の使い方をまず覚えてもらうのだけど……。そうだな、一度戻ろうか。魔法屋にある『魔法大全』を見てもらった方が早い」
訓練所より戻ってきて、次に向かったのは『魔法大全』というものが置かれてあるブース。空中に浮かんでいる分厚い本のある所に案内され、
「これが『魔法大全』というもので……、ほぼ全ての魔法の種類や効果について収められた物なんだ。魔法にも自分に合う、合わないといった相性が存在するから、それも含めてどんな魔法があるのか見てみるといいよ」
「因みに……、魔法に才能がねえと、使えねえからな?ま、コウは見習い魔法使いになれたそうだし、才能については心配ねえか……」
レンやグランに教えられるがままに、『魔法大全』を手に取り、そっとページを開いてみる。
(古代魔法、精霊魔法、召喚魔法……。それに、神聖魔法に暗黒魔法、最後に生活魔法か……。しかしこれは……)
想像以上に数多くの魔法が収められている『魔法大全』を見ながら、嘆息する僕に、
「どう?何か理解できる魔法とかはある?」
そう言って覗き込んでくるユイリ。同時に模擬戦の為、シェリル達に預けていた小鳥も再び僕の肩に戻ってくる。
「理解できる魔法って……、これを見ただけで魔法を覚えられるって事?」
「そうじゃなくて……、全く覚えられない魔法に関しては、見ただけでこれは自分には使えないとか、わかるでしょ?私が訊いているのはそういう事なんだけど……」
ええと……、ちょっと何を言っているのかわからないな……。
「『魔法大全』に載ってる魔法って、それぞれ効果の下に多分、使用する為の概念みたいのが書かれているよね?今の僕には、そこのところがいまいちわからないけれど……、それってその魔法は覚えられないっていう事?」
そうだとしたら、僕はこの『魔法大全』に載っている魔法は覚えられないって事になってしまうけど……。
「ええ……?いえそれは、貴方がその魔法を理解すれば使用できるようになるという事でしょ?そうではなくて、見ただけで自分には使えそうにないとか、わかるものはない……?」
見ただけで使えないとわかる……?要するに拒絶反応みたいなものが見ただけで起こるって事なのか?
もう一度『魔法大全』をパラパラと捲ってみるも、そういった感覚には陥る事はなかった。
「嘘……。じゃあ、仮に全ての暗黒魔法なんかも、使い方を理解さえしてしまえば、使えるようになるって事……?それ、魔族が使うような反転魔法なんかも書かれていると思うけど……」
「僕も全部の頁を見た訳じゃないからさ……、もしかしたら、ユイリが言っているような使えない魔法もあるかもしれないし……」
彼女の言葉が正しければ、一応は魔法を使える事が出来るかもしれないって事か……。まぁ、問題はどうすれば使えるようになるかって事だけど……。
「……魔法は、それがどのような原理で成り立っているか、それを理解されて、その根源にある『
「……その、精霊が何処にいるのかを感知するのが、一番難しいと聞きますけど……」
シェリルの助言に、苦笑しながら補足するユイリ。だけど、そう言ってくれているんだし、魔法の件はシェリルに後でお願いしようかな。その旨を彼女に伝えると、嬉しそうに「お任せ下さい」って返される。
「それと……、この『魔法大全』に載っていなさそうな魔法は、覚えられないのかな?」
見過ごしたかもしれないけれど、この『魔法大全』には重力を操る魔法までは書かれていなかったと思う。僕が覚えられるなら、一番最初に覚えたいと思った魔法が『重力魔法』だったんだけど……。
「それなら……、自分で作るしかない。自分の知識が正しいもので、その原理を理解し、
少し困ったように、話すグラン。事実、この魔法屋にも殆ど使われた事がないが、『独創魔法』を新たに『魔法大全』に登録する場所もあるみたいだし……。
他にもここには、自身の持っている道具を渡してポイントに変え、そのポイントを貯めて、ここでしか手に入らない魔法の道具と交換できる『交換所』や、魔法力を回復する
後は、自分の武器や防具、装飾品に魔力を
……因みに、ガチャの筐体もある。また、引いてみようかなと思ったけど、またユイリ辺りに止められちゃうか。
「最後に、ここで
グランはそう言って、『鑑定所』について教えてくれる。
(この、『自然体』ってやつか……)
他の
≪
これを単純に考えると、やはり状態異常に罹る事はなくなるってものだろう。それに、もしかしたらだけど、シェリルに掛っていた『
「……コウ。気になっていたのだけど、貴方、他に何か
ちょうど、僕が考えていた事を訊いてくるユイリ。だけど、わざわざ調べて貰う事でもない気はするけど……。
「はじめから覚えていた
僕の返答を聞き、彼女は小さく、「自然体……」と呟いていたけど、新たに調べる必要はないとグランに伝える。
「わかった。じゃあ、そろそろ出ようか。実はこの後、コウに顔を出して貰いたいところがあるんだ」
「顔を出して貰いたいところ?」
聞き返す僕に、グランはにっこりと笑って、こう答えた。
「うん、この国が誇る大賢者様のところに、コウも一緒に来て貰いたいんだ」
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