第11話:教会




 広いギルドハウス内で、僕達を待っていた彼らは、それぞれ歓迎するように出迎えてくれていた。


「まずは俺からだな!俺は、レン!あんた達の事は聞いてるぜ。困った事があったら、何でも言ってくれ!力になるからさっ!」


 最初に、黄土色の髪に琥珀色の瞳をした活発そうな青年がそう言って自己紹介をしてくれる。どこか人懐っこいような印象を与えてくれる彼に続くかたちで、


「次は私ですね……、初めまして勇者殿、シェリル姫……。私はグラン・アレクシアと申します。どうぞお見知りおき下さい」


 先程、ガーディアスさんがされていたような、胸に手を当ててこちらに敬意を表すように微笑を湛えながら、挨拶をする美青年。見事な銀髪に薄い水色の瞳を宿した彼は、一見すると優しげで柔和な感じを受けながらも、何処か気品も併せ持っている……そんな印象を覚えた。


 少なくとも、昨日の勇者候補であるトウヤ殿に比べても、遜色はないというか……、彼の方が自然な感じで、生まれながらの美男子、といった感じがする。


「お二人とも、まだこの国に来られて不明瞭なところもあるでしょうから……お申し付け頂ければ、是非ご案内させて頂きますので」

「ああ、その時は俺も一緒に案内するよっ!なっ、グランっ!」

「レン、貴方はまた……。そういう行動を控えてくれとは言いませんが……、せめて、時と場所を選んで下さい……」


 グランに対し、肩に手を回しながらそう話すレンに、彼は苦笑しながら同僚を窘めるように促す。まるで真逆の性格のような彼らだけど、仲の良さを感じさせた。そんな彼らを見ながら、ギルドの一番奥にいた眼鏡をかけた女性がやってくる。


「マスターとユイリの事はもうご存じでしょうから……最後は私ですね。私は、フローリア・デューイと申します。普段はこのギルドの受付をしております。後は取り纏めといった雑務でしょうか、そういった業務を担当しておりますね。私共『王宮の饗宴ロイヤルガーデン』はあなた方を歓迎致します」


 歓迎の意を表わす彼女は、白色の髪をストレートに下ろし、この世界で自分以外に初めて見る眼鏡を掛けた女性だ。自分の世界でいう知的でクールなインテリ美女……というイメージが浮かぶけど……。


 実際に、彼らを先に紹介させて、自身が最後に取り纏める様に奥から進み出てきた事からみても、かなり重要なポジションにいる人かもしれない。


「折角だし、私も改めまして……、ユイリ・シラユキよ。この『王宮の饗宴ロイヤルガーデン』の一員で……、現在は貴方と、シェリル姫のお世話というか……、侍女の役だけでなく護衛も申し受けているわね」


 そう言ってユイリも一緒に自己紹介する。……ん?やっぱりユイリが引き続き、僕にも就くのか……。2人も同時になんて……、まさかずっと僕をシェリルと一緒にして管理するとか……そんな訳ないよね……?


「一通り、メンバーの顔見せは終わった訳だが……。これが王城ギルド、『王宮の饗宴ロイヤルガーデン』だ。一応、俺がそのギルドマスターという事になっているから、コウ殿やシェリル姫も『王宮の饗宴ロイヤルガーデン』の一員として支援させて貰う事になる」


 つまり、僕もこの『王宮の饗宴ロイヤルガーデン』に所属する、という事か……。異世界にいる以上、1人で彼方此方と、勝手に行動する訳にもいかないし、させる訳にもいかない……。


 支援して貰えるというのは、僕にとっても有難い事だ。……そんなご厚意に対して僕が何を返せるのかわからないけれど。


「コウといいます。正直なところ、わからない事だらけで戸惑う事ばかりですが……、宜しくお願い致します」


 僕も彼らに対してそう自己紹介をして一礼する。……失礼になっていないよね?全く、こんな事になるんだったら、もっと高貴な場での社交ルールを知っておくべきだったかな?


 ……絶対に自分には縁の無い事だと思っていたし、よくわかっていなかったとしても仕方ないと思わなくもないけど……。


 そう頭を下げた僕の肩にとまった鳥が一声元気に鳴く。漸く頭からは下りてくれたけど、未だに僕から離れず自由にしている小鳥に対して、若干羨ましく思っていると、隣に控えていたシェリルが自身のフードをおろすと……、


「わたくしは、シェリル・フローレンスですわ。メイルフィードは既に無く、何者でも無いわたくしに対し、このような皆様からのご厚情にあずかりまして、誠に感謝の念に堪えません。至らない点も多々あるかと思いますがご指導、ご鞭撻のほど、何卒宜しくお願い致します」


 片足を斜め後ろの内側に引きながら、もう片方の足を軽く曲げ、背筋をしっかりと伸ばしながら、彼女は淑女の嗜みとばかりに完璧な挨拶をこなす。


 フードをおろしたときに、僅かに広がる美しい金髪から香るいい匂いが、僕の鼻孔につき、少しドキッとするも、肩にとまった小鳥が嘴を軽く僕の頬に擦り付け、僕の意識がこちらに戻る。ふとした事で彼女の魅力に気付くあたり、僕自身、大分彼女にやられているのだろう。


 最も、彼女の魅力にやられているのは僕だけではなく、シェリルの笑顔を見て、ボーっとしたように彼女に見惚れているレンをはじめ、グランも僅かに顔を紅くしている事からも彼女の笑顔の破壊力が伺える。


 それにしても……、この世界の容姿の基準ってどうなっているのか……。見る人会う人、容姿に優れた人たちばかりで、そういう人種しかいないのではないかと疑いたくなってくるくらいの美男美女率だ。


 シェリルやグランといった、見た人たちが振り返るような容姿とはいわなくとも、ユイリやフローリアさん、ガーディアスさんにレンと……、元居た世界の基準なら間違いなく容姿端麗と呼ばれる人たちである。


 ……こうしていると、コンプレックスを刺激されるというか、気持ちが沈んでくる……。


「コウ様の連れている小鳥は……、使役したものなのですか?」


 気落ちしている僕にお構いなく、人差し指の方まで移ってきた小鳥をみて、フローリアさんがそう問い掛けてくる。


「い、いえ……、ここに来る途中で、僕に懐いてきた小鳥でして……。使役ですか?そういったものではないと思いますけど……」

「ええ、この小鳥が何らかの式神や操られているものでは無い事は、私が確認しております。恐らく野鳥だとは思いますが……」

「そ、そうですか……」


 僕の人差し指にとまり顔を擦り付けるようにしている小鳥に、心動かされたのか、ジーっとこちらを見てくるフローリアさんに、


「……触ってみます?多分この子、逃げないと思うので……」


 そう言って、僕はフローリアさんの元に小鳥を近づけると、


「か、かわいい……!」


 恐る恐る小鳥に触れ、ゆっくりと撫でると、小鳥は元気にピュイっと鳴いて、首を上下に振って如何にもご機嫌な様子に見える。そんな小鳥のしぐさに、フローリアさんは虜になっているようだった。




「……お見苦しいところをお見せしてしまい、大変失礼致しました」


 ひとしきり、小鳥を堪能したフローリアさんが、コホンと一息つきながら、佇まいを正している。


 ……あんなフローリアさん、初めて見たよっ、みたいな軽口を叩いていた笑っていたレンは、彼女に一睨みされて震えあがり、結果として『私は調子に乗りました、反省しています』というプレートを首から掲げて正座する羽目になった彼に僕は同情するとともに、絶対彼女は怒らせてはいけないと心に決めながら、


「ところで……、この『王宮の饗宴ロイヤルガーデン』ですか、ここは一体何をするところなのでしょうか?」


 確か王城ギルドって言っていたっけ?ギルドっていうと組合とかそういうものだと聞いた事があるけれど……。


「一言でいえば、城下町にある冒険者ギルドや商人ギルド、職人ギルド、そして魔法マジックギルドを管理している総元締めといったところでしょうか。コウ様はギルドという概念はご存じですか?」

「……店同士の組合、みたいな解釈であっているならば……」


 僕の回答にフローリアさんは頷き、


「そうですね、商人ギルドは商人同士の利益の為に組合を作り、職人ギルドはその技術の保護などを目的として作られております。冒険者ギルドは、王国に直接属さない実力者や傭兵、冒険者たちが所属する集まりで、主に王国で捌けない業務や城下町で発生した困り事、それぞれの貴族が抱える業務などを依頼クエストという形で受けて、それに見合う報酬でもって成り立っているシステム。それがギルドです」


 ……成程、そうやってこの国の経済が回っているという事か。つまり、このギルドというのが会社のようなもので、いずれかのギルドに所属して、それぞれの方法でお金を稼ぐ事となる……。


 フローリアさんに詳しく聞いたところによると、商人ギルドなら、物品の仕入れで儲けを出し、単独で商品を独立して扱うといった誰かひとりが利益を貪るといった事が起こらないよう監視し、需要と供給のバランスを整える役目を担っており、職業ギルドは鍛冶士や、装飾士、家具士、仕立て職人といった特定の技術を保護する目的で作られたものとされているようで、商人達にその利権を脅かされたりしないよう、国に保護された組合であるとされている。


 冒険者ギルドは、早い話腕に自信を持った者たちや一攫千金を当てようとする者、そして能力スキルが戦闘向きで将来、王国騎士を目指す人たちが所属する組合であり、魔物と戦って手に入れた職業ギルドで使用する素材を売却したり、商人ギルドで扱う商品を割引して購入する事が出来たり、または冒険者に成りたての者たちを支援する事もギルドの仕事である。


 当然、依頼クエストの管理もそれぞれの実力に応じて受けられるようにしたり、依頼クエスト自体がはたして適切であるかどうかも管理するなどしている、という話だ。


 最後に、魔法マジックギルド。この世界に存在する魔法。それを研究したり、どうしてこの世界に魔法が存在するのか、あの魔法空間は何なのかを探求するのが、魔法マジックギルドの仕事である。


 実際に、あの魔法空間を考察した結果、その空間を利用出来る事がわかり、魔法屋として、元の世界でいうネットワークのようなものを構築し、各地の魔法屋として連絡を取り合ったり、この世界、ファーレルにある魔法を使う素、『魔力素粒子マナ』というものを、やはり元の世界でいう電気のかわりに用いて、ガチャのような自動販売機や灯りといったものに利用されているというのだ。


 さらにはそのガチャだが、あれは別に魔法マジックギルドの用意したものが封入されているという訳ではなく、あれはあくまで、この世界に繋がっている魔法空間からランダムでアイテムを召喚する魔法をガチャという端末を通して、金貨で使用できるという仕組みになっているとの事だった。


 だから、昨日のアイテムも全くの未知な物で何処から取り出したものかもわかっていないらしい。


「そして、その4つのギルドをまとめて管理するしているのが……王城ギルド、という訳ですか……」

「……理解が早くて助かります、コウ様」


 にっこりと笑う彼女に、どうも、と苦笑いをしながら答える。


 でも、そうか……、ギルドは国をまたいで提携もしているけど、原則的には各国それぞれで経営している、という事か。


 であるから、栄えている国にはより多い人が流れてきてくるけど、出来るだけそうならないように色々条件を出したり、場合によっては国同士で協議やら交渉をしたりして一国が突出するといった事がないようにしている。


 最初に感じた通り、フローリアさんは事実上、それらを管理する超エリートな人材なのだろう。


「でも、そんな国中のギルドを管理している王城ギルドに所属するとして、僕は何をすればいいんです?」


 シェリルなら何かと対処できそうだけれど、この世界についてまだまだわからない事が多い僕にはとてもじゃないが何もできる気はしない。


「この『王宮の饗宴ロイヤルガーデン』でも、受けて頂ける依頼クエストはあります。まして、ここで新たに依頼クエストを作り、城下町の冒険者ギルドに流したりしますから、ここにいるレンやグラン、ユイリにも依頼クエストを頼むこともあります。また、ギルドにはまだ慣れていない者を育成するといった側面もありますので、コウ様にはそれで慣れて頂くところから始めましょう」


 ……それで、王様が言った事に繋がるという事か。魔法や能力スキルといったこのファーレル特有の力に慣れ、願わくば勇者として覚醒して貰いたい、そんなところだろう。


「わかりました……。それではこれから向かうところは魔法屋でしょうか?」


 昨日も行った、あの不思議な空間の魔法屋。時間も遅かったから、店自体は閉まっていたけれど、そこで職業ジョブやら魔法やらを習得する……。まぁ、自分がそんな今まで見たことも出来たことがないものを使えるようになるかどうかは、甚だ疑問ではあるが……。


「いえ……、その前に、コウ様には行って頂きたい場所があります」

「ほら、王様もおっしゃっていたじゃない。手配をしておくって……」


 ユイリに言われて、そういえばと思い出す。確かに王様は、教会に手配をしておくなんて言っていたっけ……。


「レンとグランは一緒について行け。実際に新しい職業ジョブになったり、能力スキルが発現した際に、ユイリだけでなくお前たちもいた方が説明しやすいだろう」

「畏まりました」

「わかりました……。それで、ディアス隊長。もう正座……大丈夫ですかねぇ……?」


 ガーディアスさんの命を受け、すぐさま了承の意思を示す2人。……レンはまだ正座していたらしく、恐々とフローリアさんの方を伺っていたが、お許しも出たらしい。


「ふぅ、失敗、失敗……。これ以上何か言われる前にさっさと退散しようぜ」

「さっきのは君が悪いよ、レン……。コウ殿にシェリル姫もこちらにいらして下さい」


 グランたちにそう言われて、ギルドハウスの隅にあった、何やら魔法陣のようなものが描かれているところへ導かれる。これは……、自分がこの世界に来た時のものに似ている……?


「折角ですので……、コウ様にお見せしましょう……。それでは、魔法陣の上にお乗り下さい」


 フローリアさんの言葉に従い、シェリルたちと共に魔法陣の上に立つと、何やら呪文のような言葉を小声で詠唱する彼女。すると何やら彼女と、そして魔法陣が輝きはじめ……!


「……それでは、行ってらっしゃいませ……!『転送魔法トランスファー』!!」


 そんな彼女の言葉を最後に、僕達は光に包まれ、何も見えなくなった……!






「……ここは、教会の前……?」


 フローリアさんが唱えたとされるワープとしか思えない魔法に半ば呆然としていた僕に対し、


「大丈夫ですか……、コウ様?」


 心配そうに僕を覗き込むシェリルに大丈夫だと返したが、強張っていた自分の様子を見逃さず、付きっきりにさせてしまう結果となる。……何て言えばいいのか、乗り物酔いした感覚に似ていて、未だ足元が定かではない状態だ……。


「どう?はじめての転送魔法は……?まぁ、貴方の場合、とびっきりの召喚魔法を体験しているからな。大丈夫かなって思っていたけど……」


 そうでもないみたいね、と苦笑するユイリ。うぅ……、ほっておいてくれ……。


「気持ちはわかるぜ。俺も慣れる前は今のお前と同じだったからな。足元が覚束ないっていうのか?自分でしっかりと立っている感覚がないっていうかさ」

「……だけど、便利だね。この魔法って別に教会しか転送出来ないって訳ではないんでしょ?だとしたら、こんな便利な魔法はないよ……」


 シェリルが何か魔法でも掛けてくれたのか、少し気分が落ち着いてきた僕は、レンに対しそう返すと、


「今の転送魔法は、あくまでこの城下町に、という制限はありますが……、条件さえ揃えば何処にでも移動出来るというメリットがありますね……と、来られたようです」


 そう補足してくるグランの言葉に、


「勇者コウ様御一行ですね、お待ちしておりました……」


 桃色の髪を肩のところまで下ろした、白を基調とした祭服を身に纏う可憐な美少女と、それに付き従うように司祭と思われる人たちが数人、出迎えてくれる。


「私は、当代の聖女を務めさせて頂いております、ジャンヌ・ヴィーナ・ダルクと申します。それでは早速ご案内させて頂ければと思いますが、その前に……」


 ジャンヌと名乗った少女はそう言って、小声で祈りを捧げるかのように呟く。すると、


「……!これは……」


 先程まであった倦怠感が、嘘のように楽になる。だけど、かわりに彼女の顔色が少し悪くなったような……。


「貴方様の疲労を、一時的に私に移す奇跡です。では、参りましょう」

「ひ、疲労を移したって……、貴女は……」


 大丈夫なのか、と問うより先に、


「軽い魔力酔いのようですから……、大丈夫ですよ。お心遣い、有難う御座います、勇者様」


 健気にもそう言葉にしながら笑う彼女に、そもそも、それは僕の倦怠感だろうとか、自分は勇者かはわからないとは言えなくなってしまう。


 見たところ、まだ17、18歳位の少女だというのに僕への対応だとか、周りのそこそこ格式高そうな司祭たちを束ねているような様子といい……。確か『聖女』を務めていると言っていたけど……、それに『ジャンヌ・ダルク』って……。


 色々と彼女の事について考えている内に、大聖堂ともいうべき開けたところまで案内される。


「では、改めまして……。本日はこちらまで勇者様にご足労頂きまして、有難う御座います」

「いえ、そんな……。オクレイマン王のお話によれば、本日は『神の奇跡』について、ご教授頂けるとの事ですが……」


 ジャンヌさんに向かい合うような形で置かれていた椅子に座りながら、僕がそう答えると、


「はい、国王様より承っております。今、勇者様に罹っておられる状態異常を奇跡……、神聖魔法で取り祓うようにと……」


 そう言って、もう倦怠感はないとばかりに立ち上がると、彼女はゆっくりと僕の前までやってくる。彼女のライムグリーンの瞳が僕を真っ直ぐに見ながら、


「これより、浄化の奇跡を執り行います。勇者様も初めての魔法で戸惑われるかもしれませんが、どうか身を任せて頂けますよう……」

「ちょ、ちょっと待って下さい!じょ、状態異常!?僕にっ!?」


 な、なにそれ?そんなものに罹っているの、僕!?


「勇者様をみればわかりますよ。随分長い間、罹っているものもあるようですので……、少し、強めの奇跡を願います。それではいきますよ」


 も、もしかして、視力低下とか栄気偏りとかの事を言っているのか!?そんなもの、治るわけが……!


 次の瞬間、ジャンヌさんの身体に白と金色の光に包まれる。同時に、僕の身体も同じように光に包まれて、目を開けていられなくなり……。その間にも何か熱いものが自分の身体全体を駆け巡っているようで、不思議な感覚に襲われる。


 自分にとっては数時間が経過したように思えたけれど、やがてその現象は治まり……、恐る恐る目を開けてみると……、


「!うわっ、何だ!?」


 目を開けた瞬間、強烈な違和感に襲われ、たまらず掛けていた眼鏡を外す。そして、気が付く……。眼鏡を外しているのにも関わらず、しっかりと遠距離まで見えているという事が……。


「そ、そんな……えっ!?」


 さらには、社会人になり、運動もあまり出来なくなって脂肪が付きすぎていた身体が、学生時代の時のような体型になってしまっていた。


 筋肉までは再現していないけれど、それはこれから鍛えれば、前のようになるだろうし、何より驚くべきことは、自分のコンプレックスだった髪の生え際まで、子供の頃のように戻ってしまった事である。


(それなら……もしかして)


 気になった事もあり、心の中で念じて、昨日のようにステイタスを確認してみると、




 HP:80

 MP:9


 状態コンディション:良好

 耐性レジスト:病耐性(一部)、睡眠耐性、ストレス耐性


 力   :51

 敏捷性 :62

 身の守り:47

 賢さ  :72

 魔力  :19

 運のよさ:18

 魅力  :24


 能力スキル:自然体≪!≫、生活魔法



 自分の体形(又は体型)が変わった為か、力や敏捷性といった数値が、昨日確認した時より、増えている。状態も良好になっているという事は、やはりあれが状態異常だったのだろう。それこそ子供の頃からの視力まで回復してしまうとは思わなかったけど……。


 見た目も若干変わったからだろうか、魅力も15よりは増えている。この世界の住人たちには敵わないながらも、何故会う人皆が容姿に優れているかの原因の一端がわかったような気もするけど、僕にとってはどうでもいい。


 コンプレックスが解消され、心の高揚を感じていた時、能力スキルの自然体に何やら確認できる項目が出来ている事に気付き確認してみると……、




能力スキルが目覚める前に侵されていた、『視力低下』、『栄気偏り』、『高ストレス』は解消され、もう再び異常に罹る事はありません≫




 そんな内容が更新されていた。この事からやはり、この能力スキルは状態異常を阻害する力を持っているという事なのだろうか……。


「……如何でしょうか、勇者様。状態異常は解除されたと思うのですけど、何処か違和感は御座いませんか……?」


 違和感ならある。今までずっと、付き合っていた身体の異常が急に解消されたのだから……。


 だけど、これでまた一つ、この世界の為に応えなければいけない理由が増えてしまったかもしれないけれど、それでも感謝の想いの方が強い。


 少し不安そうにこちらを見ていたジャンヌさんを安心させ、僕の感謝を伝える為に、僕は片膝をつき、首を垂れて、自分が知る限りの丁寧な礼を心掛けながら、


「……有難う御座います、聖女様。貴女にして頂いたこの奇跡のお礼は、必ずや何がしかの形でお返しさせて戴く事をここに誓いましょう……」


 大袈裟だったかもしれないけれど、僕の気持ちを表したかった事もある。少し慌てた様子のジャンヌさんや、シェリルたちの気配を感じるけれど、別に構わない……。


 この世界で、僕が出来る事は何か。今まで以上に考えていく切っ掛けとなったのは、間違いないのだから……。

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