第7話 場違いな場所でお茶を頂きました。
『ね、グラズ。落ち着いて』
「…………【
グラズは他の呪文を唱えるつもりだったのだろう。しかし、私の声に躊躇をし、別のものに切り換えたみたいだ。
呪文を唱え終えた瞬間、大男の姿が、音もなくフッと消える。
「おーい! いったいどこに飛ばしたの?」
「
「いや……ダメでしょ」
悪魔がうようよ歩いているような世界だと聞く。飛ばされて平気でいられるかどうか……。
じーっとグラズを見つめると、彼は自らの額をハンカチで拭いた。
「だ……大丈夫です……たぶん……きっと……」
彼のこういう姿は初めて見る。
汗を拭き終えると、グラズは、急に気分が変わったかのように口調を変えて言った。
「さあ、過ぎたことは忘れて、久しぶりにお茶でも楽しみませんか?」
「他にも大男の仲間がいるはすなんだけど」
「ふむ。その者も
「お願いだからやめて。できれば捕まえてき……」
私がそう言いかけると、グラズは一瞬姿を消し、すぐに戻って来る。
「この館に、我らの他には誰もいませんね」
「えっ? 誰も? じゃあ……いつの間に……」
誰もいないのであれば、カリカとヴァレリオ殿下は上手くここを脱出できたと考えても良さそうだ。安堵の余り一息ついた私にグラズは、白いガウンを掛けてくれた。
「あ、ありがとう」
「さあ、今度こそお茶を……」
仕事が早いのはいいけど……まさか私とお茶をするためだけに、あの男を
私は疑いの眼を向けるが、グラズはまったく気にすることなく、どこからか出したテーブルに嬉々としてティーカップを並べていた。
「ねぇ……お茶会って、ここを出てからでもいいんじゃないの?」
「……ふむ。確かにそれはそうですね」
「相変わらずせっかちねぇ……まあ、いいわ。ここは他の人に見られないし」
悪魔。彼らは魔法を、息をするかのごとく扱う。ガウンやテーブルを何もないところから取り出したのもそうだ。呪文を唱えることなく、魔法を発動している。
もちろん、我々が使うような呪文も扱える。さっきの
私は彼の用意してくれた紅茶を頂きながら、お菓子にも手を付ける。甘くて、とても良い香りがする。
相変わらず絶品だ。
「我も転生というのですか? 気がついたら前世とは異なる
「じゃあ、私と同じね。私は美人の公爵令嬢に、貴方は筋肉モリモリの悪魔に転生したのね」
「お気に召しませんか?」
「悪くはないけど前の方が好みかな」
「ぐぐぐ。そうですか……」
彼は、微妙にしゅんとした表情を見せた。
私はこの世界に転生したこと、それと一昨日からの出来事を伝える。
「元勇者と共闘を……あの男は気にくわない人間でしたが、力はありますし、組みするには悪くないかと」
「ふーん。褒めるなんて珍しいわね。それで、あなたはこれからどうするの?」
「前世と同じように、まお……ロッセーラ様にお仕えしたいと考えております。血の契約によって名実ともに、私の主となったことですし」
彼ら悪魔は、召喚主と契約を結ぶことが、この世界に存在できる唯一の方法だ。とはいえ、彼らがその契約に素直に従わないことも知っている。
やつらは狡猾で、信用ならない。
グラズも、どこまで信用していいのやら……。
「うーん。うちの屋敷に連れて行くには難しいかな……その姿見たら、お母様もお父様も気を失ってしまう」
「………………!」
「どうしたの?」
私が言い終わる前に、彼は姿を消し……すぐに現れた。
「この建物ですが、囲まれているようです。武装した人間が数十人」
「まさか……さっきの大男の仲間?」
「いいえ、恐らくこの国の騎士達でしょう」
きっと、ヴァレリオ殿下やカリカが、戻ってこない私を心配して騎士達に伝えてくれたんだ。
でも……あの大男はまだ奈落から戻って来れないみたいだし……私一人残っていても不自然だよね。
うーむ、どうしたものかと考えていると、ふと目の前の悪魔と目が合った。
「騎士が建物に突入を始めました。いかが致します? 皆殺しの方が楽ですが、追い返すことも容易いことです」
「相変わらず物騒ね。この世界でも、意味無く命を奪うことは禁止よ。それにしても……グラズって、いかにも悪魔って姿ね……」
「悪魔ですから」
「じゃあ……」
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