Sex Friend :2

 毎週、食事をし終えると、帰ろうかどうか、迷う。迷っている間、トントンと人差し指をテーブルの上で叩く。リズムと一緒に自分の心を確認する。つまりエネルギーを……。

 

 「私の心は、また、介護をする生活に戻れるかな?」「1週間頑張れるかな?」って。


 今、高台の4LDKに住んでいる。平屋。子供を育てる事を想定して購入したものだ。洋平が元気だった頃の3年間の新婚生活の沢山の幸せな甘い思い出が詰まっている。


 庭には沢山植物を植えて、花が咲くのを楽しんだし、夏は、二人で夕涼みもよくした。車は洋平が好きだったビートルにまだ乗っている。やっぱり手放せない。遠方にいる洋平の両親は、毎月仕送りをしてくれる。そして、『彩さんに介護されて、洋平は幸せよ』と、ハガキが定期的に来る。私と洋平が住んでいる高台の4LDKの平屋に……。


 ◇


 帰宅する心の準備がようやくできた頃、周りに聞こえないくらいの溜息をつき立ち上がり、にこやかに丁寧にお辞儀をしてくれるレジのお姉さんにお金を払い、店を出た。レストランの軒下に、雨空を見上げて寂しそうに立っている男性がいた。目が合った。


 「降っちゃいましたねー」


 そう親しげに笑うその人は、おそらく40代の少し頭の毛が薄い人だった。「そうですねー」と曖昧な返事をしながら、辺りを見渡して傘がどこにもないのを確認してしまったら、そのまま帰るのがなんとなく申し訳なくて話しかけた。


「ここから近いんですか?」

「はい。雨、止むかな?」

「どのくらいですか?」

「あー車だと……3分」


 介護士に金曜日だけ来てもらっているこの束の間の時間の3分だけだし、それにきっと遠慮するだろうと思って、「送りましょうか?」と訊いてみたら、その人は、「いいんですか? 助かります!」と即答した。びっくりしたけれど、人懐っこい彼のそんな感じは洋平に似ている、と、思った。元気だった頃の。その思い出がふわっと香るように蘇った。嬉しかった。


 リモコンキーを押す。車のライトが点滅。二人、雨の中を急いで移動しドアを開けた。



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