第24話 サイヤ人は働かない

「それでお土産は何やったん?」家に帰った妻が聞いてきた。

「いやそれがてっきり白い恋人かマルセイユバターサンドやと思ってたんやけどね、なぜかネクタイやってん」

 僕は天王寺さんから貰ったネクタイを妻に見せた。


「女の子からネクタイって思わせぶりやな。かわいいやん天王寺さん。それも見るからにええ感じのやつやん。あんた丸井今井の包み紙は捨てたん?」

「なんで丸井今井なん?」

「函館やったら丸井今井でしょ? 五稜郭の」

「その函館へこだわりは、おかしいねんって。包み紙は紐でくくられた青い綺麗な紙やったから、有料のサービスで特別に包んでもらった物やわ。札幌の大丸やろ?」


「まあそこはあなたに譲るわ。そうよね五日間も犬を預けてお菓子やったら、お礼にならないもんね。悪いねなんか、気を遣わわせて。こっちはこっちで楽しんでいたのに」

「でも仕事してないダメな大人に、ネクタイってなあ? 使わへんやん」

「それや! 仕事してないダメな大人って聞いてたから、天王寺さんのお母さんがネクタイを選んだんやで。仕事しろっていうメッセージ。めっちゃ皮肉が聞いてて最高やん。あー変な心配して損した……」


「なんなん変な心配って?」

「そりゃあなたはおっさんやから解らへんのやろうけど、女の子にネクタイ貰うって思いっきしお父さん設定やん? 最初聞いた時ちょっとびっくりしてん」

「考えすぎやで」

「分からへんよそんなの。あなた本当に天王寺さんの会うの、ほどほどにしときよ。前も言ったけど、あなたは天王寺さんのお父さんには絶対になれへんのよ」

「はいはい……」僕は軽く返事をした。


「それよりも天王寺さんの話面白くないか? 芦屋は嘘の街なんて、あの子の発想力にはびっくりするで」

「その話は私にはもうよく分からなくなってくるわ。そもそも嘘って何なのかな?」

「嘘の定義は難しいやろうね」

「言いたいことを言わないのも嘘なんかな?」妻は聞いてきた。

「どうやろうな。言わなきゃいけないことを言わない嘘なら、多分いくらでもあると思うけど。それこそ他人に対するごまかしや隠蔽とかやね。それとは逆に言いたいっていう自分の感情に対してあえて言わない嘘をついているとしたら、それは自分に対してつく嘘と言えるかもね。君にもそういう時があるんかい?」


「仕事に行ってたらそういう事ばっかりです。本当にあなたは無菌ルームでのほほんとしているわね」

「ごめんごめん。世の中確かにそういう事は多いな。僕も分かるよ」

「それに毎日新しい自分になるっていうのも、さっぱり分からないわ。私はそんな感覚を感じたことがないよ。もしかしたらあなたたちはサイヤ人なのかもしれないね?」

「またそんなことを言う。人にはそれぞれ誤差があるもんやん。それに天王寺さんも何となく違和感があっただけで、はっきりと感じてたわけじゃないし。君にもそういう時間はあったんやって」


「いや、少なくともあなたはサイヤ人です。戦闘力たった1のサイヤ人!」

「戦闘力1って少ないないな。ていうか何で僕だけ?」

「決まってるやん。サイヤ人は働かないからよ!」そう言った妻は自分で自分のネタに大笑いしていた。

「はいはい分かりました……」僕はやれやれと返事を返した。

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