ドッグ・ライフ・ドーーッグ! ~僕と少女の小さな嘘~

犬神家の一族

第1話 愛犬ルーシーは僕を連れて歩く


 僕の数歩先を歩くルーシーの白い背中を見ていると、道路には蟻の巣穴のクレーターが点在し、地表に現れたミミズが干からび、遠くには航空機の音が続いていた。時折まるで「そういえば、ちゃんとついてきてますか?」とでも言いたげな表情で振り返るルーシーは、フレキシの伸縮リードを握る僕を連れて歩いていた。

 

 ルーシーの白い背中の先にはビションフリーゼ独特のアフロヘアーが上下に揺れ、丸太のように直線的にカットされた足からは、爪が路面を叩く音を定期的に響かしていた。胴輪から伸びる黒いリードの紐は左右に揺れ、直角よりも反り返った尻尾へ何度もぶつかっていた。

 

 ルーシーと僕の定番散歩コースになっている公園は、大きな広場を中心に遊歩道が取り囲んでいる。公園に入ると、何羽もの鳥が飛び去って行った。公園に併設されたテニスコートでは青いウェアと白いミニスカートで統一された、若い四人組の女性たちがテニスをしていた。四人は日焼け対策のため両手、両足をタイトな黒い布で包み、灰色のサンバイザーと帽子を被り、テロリストのように顔面全体を白い布で覆っていた。

「まだ五月なのに、日焼け対策しとるんやな……」

 ルーシーは僕の問いかけには答えず、芝や枯れ葉の中に臭いを探していた。適切な臭いを探すとそこに放尿し、また別の草の臭いを探すと、片足を上げその臭いへと放尿した。

 

 公園の広場に出ると、広場の中心にはラウンドゴルフを楽しむ老人会の人たちがいた。北の空に緑の六甲山が見えた。広場を囲む林は人の身長の位置までの枝ぶりを摘出され、遊歩道からの目線をよくされていた。

 

 ルーシーは林の下を歩いた。時折何を思ったのか、木の幹をはがそうと牙で挑戦していた。それに飽きると周辺に生える低木の葉をちぎっては捨て、またちぎっては捨てを何回か繰り返した。数羽の白い斑の入った鳩を見つけると飛びかかろうとしたが、鳩は大きな羽音をたて飛んで行った。

「そういうこと、やめなさい」

 通じないと思いつつ、僕は話しかけた。ルーシーは遊歩道の縁石の臭いを一つ一つ嗅いで回り、また放尿しようと片足を上げたが尿は出ていなかった。その後も何度か放尿しようとしたが、数滴垂れたのみだった。

 

 繰り返し放尿しようとするときは、大抵その後脱糞する。便意をもよおしたルーシーは腰が浮き気味になる。最適な脱糞場所を探すかのように、腰を浮かしながら何度も繰り返し放尿しようとし、小さな切り株の上で三回、回転した後脱糞した。

 僕はビニール袋でルーシーの糞を拾い上げ、袋の口を縛った。今日の糞の色は綺麗な茶色で、形も丸い玉を三つ落としており、いつも通りの臭い健康的な糞だった。

「ほなルーシー、家帰ろか」

 僕が呼び掛けると「することしたから満足です」といった顔をしてルーシーが僕の足元に駆け寄ってきた。僕はそんな満足げなルーシーを隣に連れて家へと歩いていった。

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