第6話 酒食足りて幸福を知る(「餃子屋 弐ノ弐」の満漢全席)

宴会シーズンに二次会の場所として求められるのは、多くが接待を伴う飲食店やカラオケなどである。

ただ、大規模な宴会やパーティーの後となると、もう少し小腹を満たしたくなる時がある。

それを迎えるのが「餃子屋 弐ノ弐」である。


ウィスキー・ソーダでジョッキを満たし、まず続けざまに餃子を二つつまみ、焼き飯を掻っ込む。

中華は酒に先んじる食である。いわんや街中華をや。

ここで初めてのどを潤し、麻婆豆腐に匙を立てる。


私は唐辛子や芥子の辛みが得意という方ではない。

しかし、山椒の辛さは身体に合うのか無尽にかけてしまうことがある。

小粒のしんはむしろしんというべきものであり、口腔を揺るがしながらも、酒肴として頸木を打ち、後に爽快を遺す。

匙が止まらないのは道理。

ウィスキー・ソーダが瞬く間に星に消え、風に消え、腹に消え。

臓腑の唸りを抱きしめて、さらに台北唐揚げに箸を伸ばす。

普段、唐揚げに何かをかけることを避ける私が、このしっとりとした唐揚げは従容として腹に収める。

じんに慣れた舌を驚かせ、新たな気持ちでウィスキーソーダをさらに進ませる。

やがて気が付けば空の容器が二つ並び、いよいよ大将に立ち向かう。


弐ノ弐の餃子は一皿が七粒を持ち、それだけで喜びを示す。

その上にたれを豪快にかけるのは家だから許される暴挙である。

そして、痩身に抱えたタネは旨味を湛え、皮と野菜の甘みで調和を取る。

格好をつけて辣油をかける必要もなく、辛さは先に満たされており、穏やかな白波に心を攫われる。

ゆっくりと一粒一粒を噛み締めながら、ジョッキを少しずつ空けていく。

それでも至るは終幕。

最後の一つを口に運び、余韻を噛み締め夜陰に乗じる。


ただ、四杯目のウィスキー・ソーダは三分の一ほど残っている。

それを焼き飯に紅しょうが搦めて干してしまう。

あとは考えるよりも先に匙を動かし、腸の残りを満たしていく。

そして、一口が重くのしかかり、満腹の壁を超える。


動きを抑えられる程の幸福に、昨春の宴会を思い出す。

その温かな幸せを身に纏い、夏の中瓶を夢に見た。


【店舗情報】

「餃子屋 弐ノ弐」下通店

〒860-0807 熊本市中央区下通2-2

電話番号:096-355-8722

営業時間:17:00~24:00(現在変更にいなっている可能性有)

     現在のテイクアウト→16:00~20:00(注文受付 14:00~17:00)

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