第5話 動くこと雷霆(らいてい)のごとし(「焼肉 花秀苑」さんの花盛り)

熊本は繁華街に多くの焼肉の店を抱える。

それぞれが己が信念を持って切り盛りされているが、その全てを紹介するにはあまりにも文章の余白が少ない。(そして、私の稼ぎも少ない)

それでも、時期が時期である。

人通りの少なくなった下通を前に、持ち帰りに力を入れる店も増えている。

そのうちの一つが下通アーケードに面した「焼肉 花秀苑」であり、休日を利用していただくことができた。


四合瓶をの封を開け、相対する。

常とは異なり、焼肉弁当ひとつでの戦いであり、酒も時間も別がよい。

決して、愛飲しているウィスキーを買いに行くのが億劫であったわけではない。


蓋を開ければそこは理想郷、タン塩が今か今かと待ち受ける。

その誘惑をかわしつつ、まずは白米に箸をつける。

純米酒と白米とが被っているとお叱りを受けそうではあるが、口中に広がった甘みを酒で清めればそのような「理想」は吹き飛ぶ。

そして、とどめとばかりにタン塩を食めば、人間に残る野生が目を覚ます。


ぬる燗にした酒は甘みを増し、肉の旨味をがっぷり四つで受け止める。

重畳、重畳。

火の高いうちに飲む酒はそれだけで魔力を持つが、そこに至高の肴が並べば、もうたまらない。

強いて言えば、瞬く間に消えたタン塩に儚さを覚えるが、その先にはカルビとロースが控える。

ここで南瓜が優しく舌を慰め、次なる獲物に襲い掛かる。

丁寧に焼かれた逸品たちは次々と口腔に至り、その輝きを中で放つ。

特に、肉の持つ特有の甘味はキムチによって強調され、燗酒の芳香で完成する。


食べる、飲む、食らう、飲む、食む、飲むの単純な動作に没頭する。

合間合間の恍惚の余裕など与えられず、車軸のように箸が進む。

くべられ続ける極上の燃料に、心も身体も燃え滾る。

この火の国に明るさを、与ゆ太陽ひとつ増え。

やがて止まった箸は寂しく、空の弁当を見つめる。


両手を合わせ、感謝の後に幸せな午睡に至る。

瞼の裏に散る桜、その切なさは空となった弁当に似ているのかもしれない。


【店舗情報】

「焼肉 花秀苑」

熊本県熊本市中央区下通1-11-16 Kビル2F

電話番号:096-211-0718

営業時間:月~金、祝前日: 16:30~翌0:00 ・土: 12:00~翌0:00

     日、祝日: 12:00~22:00

     現在:12:00~14:30(LO)・16:30~21:30(LO)

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