熊本の夜の街を出歩けなくなったからテイクアウトで食べてみた
鶴崎 和明(つるさき かずあき)
第1話 序章の叫び(「食処 花樹」さんの電車道)
冬に初めて横綱という存在をわが目に収めた。
目の前に在る大横綱白鵬の偉容はそれだけで私に嘆息を勧める。
地を治める者というのはこれほどに圧倒的な力を誇るのかと思うと、自然と私の背筋は整った。
コロナ禍で静まり返る街にも横綱がある。
それは、熊本市は下通に在るTM-12ビルの三階に鎮座した食処 花樹である。
大柄の店主が次々と繰り出す逸品は、技のデパートを持つ横綱のそれである。
各方面に死角が無い。
その花樹さんで注文した品を家に持ち帰り、ウィスキーソーダで対峙した。
まず、メニューにはない麻婆豆腐の攻めが果敢である。
旧メニューを間違えて頼んでしまったものの、その辛さは喉に爽快感を求めさせる。結果、二杯のウィスキーソーダが瞬く間に消えた。
次いで唐揚げ。
箸が止まらないというのはこのことを言うのであろう。
しっかりとした下味とこれを上回る衣の強襲に酒が進む、進む。
この前、初めて食べたものであるのだが、この量と味があれば呑兵衛は四つに組まれて押し出されてしまう。
誠に、
そして、卵焼きに至る。
ただ、この花樹が誇る卵焼きは不敗の横綱のそれである。
巨人、大鵬、卵焼きとはよく言ったものだ。
テイクアウト用に程よく冷やされたツナ出汁巻きは、それでも、多分の充足感を湛える。
溢れ出る出汁とツナの味が徒党を組むのは知らなかった。
以前、行きつけのガールズバーの少女から勧められたのを思い出し、その思い出を肴にさらに進める。
胃には大根おろしが優しい。
それでも、マヨネーズの電車道を受け、土俵際でうっちゃる。
満身創痍の口腔を大根おろしに醤油をたらし、清める。
金星に飛び交う座布団を思いながら、私は静かに箸を折った。
願わくは、再び他愛もない話をしながらのひとときを。
願わくは、店主と語らえるひと時の訪れを。
【店舗データ】
「食処 花樹」
〒860-0807 熊本県熊本市中央区下通2丁目1−22
TM-12BUILDING 3階
電話番号:090-8223-4240
営業時間:月~日、祝日、祝前日: 11:30~14:00 ・18:00~翌3:00
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