第17話 山田春人と頼みごと完遂①
〜山田春人〜
4月13日
「来週の月曜日は部活動紹介オリエンテーションがあるぞ!今から部活動の紹介パンフレットを配ります。先に目を通しておいてくれ!」
朝の学活にて、藍野先生からパンフレットが配られる。
内容は、部活動についてだ。
「部活かー。どこ入ろっかな〜」
太郎が椅子に肘をつきながら、俺の方を向いてくる。
「太郎は昔何か部活入ってた?」
「俺か?俺は5個入ってたな。なんかいまいち続けられなくて、退部して他の部に入部するを繰り返してた」
「そんなに入ってたの!?」
俺は中学の頃は部活に入っていなかった。
だからこそ太郎の言葉にびっくりした。
「おう。結局卒業までにしっくりきた部活が無かったから、ここでも探すつもりだよ」
「なるほどね。俺はどうしようかな?」
「まだ決まってないなら一緒に探そうぜ」
「うーん、そうだね。一緒に探そう」
もしかしたら入りたい部活が見つかるかもしれない。
見つからなかったとしても、探すことに意味がある。
そんな気がする。
「それじゃあ、今日の朝学活は終わりだ!あ、そうそう。学級委員の2人!ちょっと手伝ってほしいことがあるから来てくれ!こき使ってしまって申し訳ないけど……」
藍野先生が学級委員……恵美さんと瀧上くんを呼ぶ。
「それは僕1人でも大丈夫ですか?」
「ん?いや、2人に来て欲しいな」
瀧上くんの謎の提案を却下する先生。
今の提案はなんなんだ?
恵美さんに楽させてあげたいとかかな?
「行きます」
恵美さんが先生に付いて行く。
なぜか怒気を纏っているような……。
「1人じゃ無理なら男子数人連れて行けばいいだろ。なんで学級委員なんだよ」
瀧上くんがそう呟いているのが聞こえた。
声音的に怒っている。
先生の学級委員の使い方に憤りを覚えているっぽい。
「瀧上怒ってたな」
太郎にも聞こえたらしい。
「だね」
「まあ確かにユウギっち頼りないところあるしそこが気に食わないのかもな。学級委員として」
ユウギっち……藍野先生は太郎が言う通り少し頼りない。
敬語混じりの喋り方や引きつった笑顔がその証拠だ。
この学校が生徒主体とはいえ、生徒に色々頼みすぎだったりする。
現在24歳で、教員に成り立てだ。
生徒と一緒に成長していく、と言えば聞こえはいいけど、少しは大人として頼りがいのあるところを見せて欲しかったりするのが、俺の本音だ。
と、そんなことを考えていた時。
「ちょっと山田!何ぼさっとしてんの!今すぐ恵美達を追ってよ!」
新島さんに背中を叩かれた。
「え?なんで?」
単純に疑問に思ったので、理由を聞く。
「いいから!行けば分かる!ほらほら!」
例の如く恵美さんのことになると別人になる新島さんは理由を教えてくれるわけも無く、俺は指示に従って恵美さん達を追うことになる。
ーーーーー
……。
「き、気まずい空気が流れてるなぁ」
恵美さん達を追ってきたはいいものの、俺が見た光景は酷いものだった。
一言も言葉を交わさず、黙々と作業をする3人。
作業内容は来週の部活動紹介オリエンテーションで生徒が座る椅子の設置。
朝から用意しているということは今日はどのクラスも体育館は使わないのだろう。
それよりも、朝学活終了から1時限目が始まるまで20分しかない。
このままの調子で終わるのだろうか?
「先生。これ1時限目開始までに終わると思いますか?」
とうとう最初の会話が始まった。
口を開いたのは瀧上くん。
「あ、ああ。終わると思う……ぞ?うん?終わらないかな?」
断言せず、曖昧な答えを返す藍野先生。
俺から見ても、時間内に終われるとは正直思えない。
「僕ら遅刻したくないので、5分前になったら戻りますね」
「ああ、構わないよ。ただ、今日また手伝ってもらうことになるんだけど、いいかな?」
「……」
再び沈黙が流れる。
これは、コソコソと隠れて話を聞いている場合ではない気がする。
「先生!俺も手伝いますよ」
俺も手伝わなきゃ。
そう思い、隠れるのを辞めて先生に声を掛ける。
「ん?春人くん!手伝ってくれるのか?でも、どうしてここに?」
そういえば、ここにいる理由を考えていなかった。
「いやいや、そんなの別になんでもいいじゃないですか。少しでも作業を進めないと」
「う、うん。そうだね。じゃあよろしくお願いします」
「はい。時間的に少しだけですけど、頑張ります」
作業できる時間は5分程度しかない。
なるべく早く進めないと。
「ありがとう、春人くん。助かるよ」
一言お礼を言い、すぐに作業に戻る瀧上くん。
「あんたなんでここにいるのよ」
恵美さんも、俺がここにいることが気になるらしい。
「いや、どんな作業やっているのか気になってさ。ついて来ちゃった」
半分本当の嘘をつく。
気になって付いて来たのは本当だ。
いや、新島さんに指図されて来たから違うか?
まあ、そこはどうだって良いことだろう。
とりあえず今は少しでも椅子を設置しよう。
ーーーーー
「そろそろ時間だ。教室に戻ろうか」
俺が合流して約5分、黙々と作業をしていた所で瀧上くんが声を出す。
「あ、ああ。ありがとう、みんな。それで、今日のことだけど……」
藍野先生がおずおずと、さっきの話の続きをしようとする。
「あー。後は先生でどうにか出来ませんかね?僕たち結構進めたと思うんですけど」
瀧上くんはあくまで、もう手伝う気は無いようだ。
「うん。俺もそうしたいんだけど、今日はやる事が山盛りなんだ。だから、手伝ってくれるとすごくありがたいです!」
「じゃあ他の先生方に手伝ってもらうとかじゃ駄目なんですか?そこまで僕たち生徒にこだわる必要も無いと思いますけど」
「手伝いますよ、私が。このやりとりが時間の無駄だと思います」
恵美さんが痺れを切らしたように口を挟む。
「いや、これは先生が抱えた問題だ。僕たちがそこまでやる必要は無い」
瀧上くんはまだ反対している。
「あんたの意見なんて聞いてないわ。今回は私の意思で手伝うんだから。あんたは来なくて良いわよ」
「はぁ……。君が行くならば僕も行くよ。さすがに君1人に任せるわけにはいかない」
「そういう理由で来て欲しく無いんだけど。ムカつくから」
「……。言ってくれるね。言い方を変えよう。君を手伝うために僕も行くよ」
「そんな事思っても無いくせに言わないでくれる?」
「ちょっと恵美さん!そのやり取りも無駄だと思うよ!?瀧上くんにも手伝ってもらおうよ。俺も手伝うから」
さすがに止めないとまずい気がしたので、俺も口を挟む。
この2人、やっぱり仲があまりよろしくない?
新島さんが行けば分かるって言っていたのはこの事なのかな?
「いや春人くん、その気持ちは嬉しいけど……」
瀧上くんが俺の参加を渋る。
これは優しさと捉えていいのかな?
でも……。
「いいよ、瀧上くん。俺、暇だし。全然手伝うよ」
頼みごとの件で恵美さんと話をする機会も作りたいし、ぜひ手伝わせてもらいたい。
「そこまで言ってくれるなら手伝ってもらおうかな。改めて、ありがとう」
しっかりとお礼を言ってくれる瀧上くん。
やっぱり瀧上くんは優しい人だと思う。
「ありがとう!3人共!君たちみたいな人がいてくれて良かった!」
俺たち3人が手伝う事が決まった瞬間、調子の良いことを言う藍野先生。
「調子の良いこと言うなよな……。では、僕たちは戻るので。残りは放課後でいいですよね?」
「ああ。本当、ありがとうな」
残りの作業は放課後に進める事を決め、教室へと戻り始める。
ちなみに瀧上くんの最初の言葉は、俺たちにしか聞こえなかった。
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