第15話 高島眞友は変わりたい②




〜高島眞友〜




「全然駄目です!難しいです!」


校外学習の東京散策。

もとい、わたしの新しい人生の第一歩……となる予定の昼下がり。

班のメンバーで昼食を食べている際中、わたしは思わず、心の声を実際に声に出してしまいました。


「うお!どうした眞友ちゃん。急に声をあげちゃって」


当然、不審がられます。


「え、えあ、す、すみません!ちょ、ちょっとこの豆が取りにくくて」


咄嗟に声を漏らしてしまった別の理由を作ります。

実際には、今日から変わろうと意気込んだは良いものの、1度も話しかける事ができてないからです。

最初はあんなにも自信に満ちていたのに今ではもう、ガチャポンのカプセルを満たせるかどうかくらいの自信しかないです。


「眞友ちゃんブッキーなんだな。俺は!見ろよ!こんなスピードで豆を掴めるんだぜ!」


高冬さんが自身の器用さを見せつけて来ます。


「あんた凄いわね!それ特技にできるんじゃない?」


金山さんが感心しています。

しかし、その隣の最河さんは違いました。


「家でやるならまだしも、飲食店でやるなんて行儀が悪いと思うけどね」


「そ、それもそうね!あんた今すぐやめなさいよ!」


最河さんの注意に金山さんも便乗します。


「お、おおう。そうだった!ごめんね!」


高冬さんも正論だと感じたのか、すぐに謝罪します。


「意外と素直なのよね。あんた」


「素直でも、バカだったら意味ないよ。リナちゃん」


「ぐぅの音も出ねぇ!」


金山さんと最河さん。

この2人は、中学校からの付き合いらしいです。

席が近いので、この2人が普段どれだけ仲が良いかは既に知っています。

親友、そう呼べる関係です。

金山さんと最河さんを見てると、わたしもいつかは親友と呼べる人が欲しい。

そんな妄想を抱いてしまいます。

……いえ!妄想なんかで終わらせる訳にはいきません!

わたしも片名さんみたいにフレンドリーになって、親友を作るんです!


ーーーーー


「なあなあ。浅草って何なのか知ってるか?」


昼食を取った後、わたしたちは浅草散策を再開。

浅草寺周辺の繁華街を歩きながら雑談します。


「何なのかって何よ?」


高塔さんの曖昧な質問に質問を返す金山さん。


「んー?歴史とか?始まりとかさ。なんか、適当に歩いてても何も得られない気がするんだが。知ってるか奴いないの?」


「まあ、確かに。何も得られてないよねあたしら。普通にバブった方がいいかも」


来ました!

わたしが入れる会話が!

……そうなんです。

実はわたし、浅草のことを少し調べて来たんですよ。

会話の種になると思って!

今ここで出さずしてどこで出すんですか!

さあ!高島眞友!一歩踏み出して下さい!


「あ、あ、浅草のことでし……


「お!出て来たぞ!ん?何か言おうとした眞友ちゃん?」


高冬さんに遮られてしまいました……。

いえ、まだです。

ここで浅草について語れば!


「いえ。あ、何でもないですよ。お話を続けて下さい」


駄目でした。

わたしという人間は、1度消えた物は取り戻せないんです。


「そう?なんか、ごめんね?」


高冬さんが謝って来ます。

高冬さんが悪いわけではありません。

話す勇気をもう1度出せなかったわたしが悪いんです。


「浅草は歴史で初めて出たのは628年推古天皇の時代だってさ。で、色々発展してって、地名の初見は鎌倉幕府が編纂した『我妻鏡』だってさ」


「ほーん。わからん。出て来た単語鎌倉幕府しか分からん」


「あたしはだわ」


「え?推古天皇くらいは分かるでしょ?」


「ああ。流石に『我妻鏡』は知らないけど」


今の会話で皆さんの頭のレベルが少しわかってしまいました。


高塔さんと金山さんより、片名さんと染谷さんの方が頭が良いらしいです。

もちろん、これだけで決め付けてはいけませんが……。


「てか鎌倉幕府っていつだ?」


「江戸時代の1つ前じゃない?」


高塔さんと金山の会話。

まあ……そういうことです。


「先週の授業中に少し感じたけど、2人あまり頭よく無くね?」


高冬さんがお2人を煽ります。


「はあ!?あんたに言われるのはムカつく!」


「そうだぞ!お前が頭良いとか俺は認めん!」


「へっへっへ。俺は地味に勉強を怠らない男、通称『地怠マン』と呼ばれていたからな」


「「「ダッサ!」」」


わたし以外の女子の皆さんの声が揃いました。

……実はわたしもダサいと思ってしまいました。


「別にダサくはねぇだろ!まあ、呼ばれた事はないんですけどねぇ」


「でしょうね。そんなダサいあだ名呼びたくもないわ」


「そんな最河ちゃんは何かあだ名あったの?」


「別に普通よ。ていうかそのちゃん付け辞めて。てか、下の名前で読んでって言ったよね?」


「えー?嫌なの?俺は良いと思うけど。さいかわちゃん。可愛い君にピッタリさ!」


「あなたそれ本気で言ってたら引くわよ」


最河さんが本気で引いた目をしています。


「うーん。本当に思ってるんだけどなぁ。まあ本当に嫌なら仕方ないな。優美……さん?って呼ぶわ」


「さんはいらないわ。昔から優美って呼ばれてたから」


「おけおけ了解!」


「ん?あれ!?ねえねえここって!あのドラマのロケ地じゃない!?」


突然、金山さんのテンションが上がります。


「あのドラマ?」


「そう!武中京真主演のラブストーリー!ドラマ名何だっけなぁ」


きました!

2回目のチャンス到来です!

わたしはそのドラマ名を知っています!

何でしたら、5本の指に入るくらいには好きなドラマです!

さあ行きなさい!高島眞友!

つ、次こそ話に入ってみせます!


「あ、そ、それ!」


こ、声が裏返ってしまいましたが話に入ることに成功しました。


「ん?眞友ちゃん、もしかして知ってる?」


「は、はい!そ、それは『恋の波は突然に』ではない……でしょうか?」


……。

な、なぜか少し沈黙が訪れます。

も、もしかして間違えてしまったでしょうか?

ふ、不安になって来ました!

ど、どうしましょう?


「あ、あの?」


「「「それだ!!!」」」


「ひぅ!?」


び、びっくりしました!


「それだよ!眞友ちゃん!もしかして観てた?」


「み、観てました!すごく好きでした!」


「ほんと!?わたしも好きだった!ねぇ、少し語ろうよ!」


そう言って、わたしに笑顔で近づいてくる金山さん。

こ、これは!

も、もしかして、もしかしなくても!

わたし、会話の輪に入れましたか!?


「ねえ!劇中のヒロイン数人いたじゃん?誰が1番好きだった!?」


説明をさせていただきますと、『恋の波は突然に』とは、武中京真さん演じる、大学生になるまで全くモテなかった主人公が、ある1人の女性のピンチを救った所から急にモテまくり、最終的な終着点は、たくさん悩みながらヒロイン1人を選ぶ物語です。


「わ、わたしは希子ちゃんが好きでした。不器用でも、大事な想いだけはしっかりと伝えられる所がカッコよくて可愛いなと思いまして……」


そして、そんな彼女に憧れた時期も少しだけですがありました。


「あーね!希子ちゃんも良かった!」


見れば、金山さんはウズウズした顔でこちらを見ていました。

これは、好きなヒロインを聞いて欲しいって事でしょうか?

が、頑張れ!わたし!

聞くんです!


「あ、か、金山さんはどなたが好きだったのですか?」


き、聞けましたー!


「わたしー?わたしは和歌菜かな!やっぱり努力が報われるって良いよね!」


和歌菜ちゃんは、主人公と結ばれたヒロインです。

明るく、空回りしやすい性格でしたが、めげずにアタックし続けて、主人公と結ばれることができました。


「はい。ヒロイン全員魅力がありました。あ、脚本家の方も誰と結ぶかじっくり考えたんですかね?」


もっと話を広げるためにも、質問をせねば!と思ったわたしは、何とか質問をすることに成功します。


「あ、それなんだけどね!実は最初から結ばれるヒロインは決まっていたらしいよ!なのに誰と結ばれるか分からないストーリー!いやぁすごかったなぁ!なんかもう一回観たくなってきた!」


「ですね!また観たいです!」


……。

さすがにここで一緒に観ましょうと誘うのはおかしいですよね?

というより、そんな勇気は今のわたしにはまだ無いです……。


「ねー!あ、そうだ!写真撮ろうよ!女子だけで!」


そう言って、わたしたち女子を手招きで集める金山さん。

わ、わたしも入って良いんでしょうか!?


「何してるの眞友ちゃん!早く早く!はい!高冬!撮れ!」


金山さんはカメラマンに高冬さんを指名します。

ちなみに、金山さんは高冬さんを「たかふゆ」と呼んでいます。


「俺かよ!?混ぜてくれないんかーい!まあ良いわ。撮る撮る」


「わ、わたしも入れてもらえるなんて感激です!」


あまりの嬉しさに声を上げてしまいました。


「大袈裟だよぉ眞友ちゃん!」


「おーい撮るぞー」


カシャッ


「ちょっと!まだポーズ取ってないんだけど!」


「はっはは!こりゃ良い写真が撮れたわ!」


ど、どんな写真が撮れてしまったんでしょう!?


「笑い事じゃない!ちゃんと撮ってよ!」


「はいはい。じゃあ、いくぞー。3、2、1、はい、チーズ」


カシャッ


「うっし。撮れたぞ」


「センキュ。後でみんなにも送るから。あそうだ!片名と眞友ちゃんは連絡先交換しないとね」


「ええ!?れ、連絡先交換ですか!?」


あ、あまりの出来事に、思わず声が出てしまいました!


「え、もしかして嫌だったかな?」


あわわわわわわわ。

や、やってしまいました。

どうにか誤解を解かないと!


「そ、そんなことないでふ!ぜ、ぜび交換しましよう!」


あ、焦りすぎて誤字したみたいな喋り方になってしまいました。


「良かった!なら交換ね!」


はふぅ。

一気にわたしのスマホに3人もの連絡先が追加されました。


「おいおい!女子だけで水臭いぜ!もし良かったら俺たちとも交換しようぜ!」


わたしたちのやり取りを見て、高冬さんがそんな提案をしてきます。


「そうね。同じ班になったのも何かの縁だと思うし。優美もいいでしょ?」


「うん。リナちゃんがいいなら良いよ」


相変わらず、仲が良いお2人です。


「改めて、これからもよろしく!」


こうしてわたしのスマホに新たに3人、合計6人の連絡先が追加されました。

こ、こんな日が来るなんて……。

自慢ではないですが、わたしの連絡先一覧には10人しかいないのです。

一気に今までの半分以上。

も、もうわたしはこれで満足……。

……。

い、いけませんいけません!

危うく初志貫徹を辞めるところでした!

今回の連絡先交換は自分から言い出したわけではありません。

いつかは自分から交換しましょうと言えるような人間にならなければ!


「でも、今日はこれで満足です!」


1人小声で呟きながら、ニヤニヤしているわたしに気づく人はいませんでした。



ーーーーー


「ふぅ。よし!」


ピロン

校外学習を終え家に帰宅したわたしは、机でとある作業に取り掛かろうとしていた時、あまり鳴らないわたしのスマホに通知が届きました。


【これ!今日の思い出ね!一応、高冬がふざけて撮ったやつも送っとくよ!】


金山さんからでした。

内容は、先程言っていた写真の送付。


「うわぁ!わたし笑ってる!」


自分が笑いながら写っている写真を見ていると、ニヤニヤしてしまいます。


「思えば、今日は良い1日、だったなぁ」


本当に今日はわたし的に充実した日でした。


自分で最初に立てた目標の『積極的に人と関われる人になりたい。その為に、自分から変わる』の達成率が少し上がった気がします。

成功体験が少なかったわたしにとって、今日の出来事は必ずプラスに働くはずです。


「あ!金山さんに返信しなきゃ!」


【ありがとうございます!保存しました!】


こ、これだけで良いのでしょうか?

少し味気ない気がします。


「でもこれ以外に思いつかないからいいや!」


今のわたしは小さなことは気にしません。

なんてたって絶好調ですからね!


「よし!日記書こう!」


金山さんに返信し終えたわたしは、普段から付けている日記記入に取り掛かります。


無限に広がる気がする、未来に希望を抱きながら……。





〈高島眞友のメタモルフォーゼヒストリー〉

          ↑

我ながら厨二臭い名前ですw


ー4月9日ー


・自分から話の輪に入る


・連絡先交換


目標達成率……7%



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る