ヒナコさんの働くお店へ
「……なんだかいつもと様子が違う気が……」
ヒナコさんの働く店へ向かおうと歩き出そうとした時。違和感を感じた。街の中がなんだか、いつもより閑散としていた気がしたから。今までなら、たくさんの冒険者が歩いていた街中。それが、道行く人がまだらになっている。
後ろからやってきたカンナさんが大きなため息をつく。
「人通りが少なくなっただろ? 急に冒険者の数が減ったって、街でもウワサになっているんだ」
「ああ、こんなところにも弊害が……」
私の予想通りなら、『特別スキル』を持たない人たちが強制ログアウトになり、ログインもできない状態だ。今この世界に残っているのは、あの日のあの時間、ログインしていた『特別スキル』を持った人たちと、『特別スキル』を持っていてなおかつ、条件をクリアしてこれからもゲームをプレイしたいと思っている人たちだけだ。そりゃあ、今まで街を歩いていた冒険者の数よりも大幅に冒険者の数が減るのも頷ける。
「とある事情で、たくさんの冒険者さんがこの世界に戻ってこられないトラブルに見舞われているんです。当分の間、冒険者さんは少ないと思いますがなんとかしますのでっ」
「頼むよ。あ、あとまた傷薬の補充も頼むよ。やっぱり値段が安いからよく売れるんだよね。これ、売上代だ」
カンナさんが、皮袋に入れた金貨を差し出す。私が作成した、『初心者が作った傷薬』。大体この商品の売り上げは、カンナさんと半分こにしているけれど。
「今回は、結構お店の品物を使ってしまったので、そのまま全額カンナさんにお渡しします」
今回、アイテム作成に色々とお店の品物使っちゃったからね。むしろ、これだけでは足らないくらいだと思うけど……。
「おお、そうかい? じゃあ、ありがたく頂いておくよ」
カンナさんがうれしそうに言う。
「また、この件が片付いたら『初心者が作った傷薬』作りますね。行ってきます」
シュウカさんと共にヒナコさんが働いていたお店へと向かう。
少し歩くと、見慣れた看板が見えてくる。何度か通ったカフェ。他のお店よりも色とりどりで、きらきらしているお菓子があふれている、素敵なカフェメニュー。
それが描かれている看板の前に1人、少女が立っている。
「ヒナコさん!」
思わず近くまで走っていく。少女がこちらを振り返った。
「サランさん! ああ、よかった! 知ってる人がいたっ! よかった!!」
少女……――、ヒナコさんが大輪の花のように笑顔になる。
「急にお客さんは減ってしまうし! 条件をクリアしないとログイン権限を失うっていう運営からのメールが来るわでっ! もうわたし、どうすればと思っていたんですっ!」
駆け寄ってきたヒナコさんは泣き笑いの表情になっていた。
「ヒナタさんが心配して私にメールをよこしたんです。ヒナコさんが取り残されているから、助けてほしいと。私たちも、ヒナコさんの力を貸してほしくて来ました。協力をお願いします」
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