盗まれたアイデア?

『とはいえ、ムトウはもういない。だとすると、ゲームプランナーの部長に話を聞くことになるが……』


 シュウさんの元々読み取りにくい表情。だけどその表情でも分かる。自分から口に出したとはいえ、自分でもいい案だと思っていない表情。


「いえ、部長さんに聞くのは得策ではないと思います。もし部長さんが何か知っているとするなら、こちらが何か探っていると思われても、まずい気がするので」


 私の言葉に、シュウさんが少しだけ安堵の表情を浮かべる。


『……そちらも、そう考えてくれるか』

「はい」

『えー、何かまずいかなぁ。聞いた方が早くない?』


 画面の向こうで、シュウカさんが首をかしげている。


「人を疑うのはよくないですが。もし、部長さんが本当にムトウさんが考えたゲームのアイデアを盗んだとして、それを隠したかったとしたら。ムトウさんが元々のゲームのアイデアを考えたということを他の人に知られたら、どうすると思います?」


 私の言葉に、シュウカさんは顔をしかめる。


『部長さんがもし、自分のアイデアではないものを、自分のアイデアですって言って提案して、それが採用されてって流れを、ムトウさん以外知らなくて。それを他の人に知られてしまったらってことだよね。そりゃ、口止めしたくなるよね』


『その口止めの方法がただ、言わないでくれと懇願してくるだけならいいがな?』


 シュウさんがシュウカさんを見る。


『あー……。危ない橋、渡りたくないもんねぇ』


 シュウカさん、納得した表情。私も、ゲットしたばかりの正社員雇用を早々に棒に振りたくないし、なおかつ命を脅かされるのだけはごめんだ。


『ムトウはクビになるだけで済んだ……とこちらは考えているわけだが、他の人間もそれだけで済むとは限らないからな』


「それに、もし本当にWFOのアイデアがムトウさんの考えたものだったとしたら。アイデアを奪われたあげく、人の功績にされ、自分はクビになったのですから、ショックはかなり大きいと思います」


 ムトウさんが本当にゲームプランナーの仕事が好きで、その「好き」という気持ちであんな素敵な「WFO」という世界のアイデアを作ったんだとしたら。


 それを奪われ、自作発言される痛みが、私には分かる。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る