ずんだ餅さんの知っているムトウさん情報

「ここは疑ってかかる必要があると思うのです」


 ずんだ餅さんが顔をしかめつつ言うのを聞きながら、私の脳裏には一人の男性が思い浮かんでいた。


 このゲームの発案者だったのに、会社を退職させられたムトウさん。考えすぎかもしれないけど、彼がこの件に関わっている可能性は、あると思う。


「そうですね……」


 そう言いながら、はたとずんだ餅さんの顔を見つめる。


「そう言えばずんだ餅さんって、人事部の人なんですよね」

「だからさっき、そう言ったじゃないですか」


 ずんだ餅さんが、とっても嫌そうな顔をする。


「すぐ忘れちゃう体質なんですか」

「いや、そうじゃなくて。……確認したいことがあって」

「確認」


 ずんだ餅さんが、怪訝そうな顔をする。


「はい。最近、ナイトメア・ソフトウェアを解雇されたムトウさんっていう方をご存知かなぁと思いまして」

「ムトウさん……」


 ずんだ餅さんは、少し考え込んだあと、すぐにぽんと手を打った。


「そういえば、そういう苗字の人が、人事部に乗り込んできたことがありましたっ」

「ムトウさんが!?」

「そうそう。あれは僕がちょうど、仕事を辞めようと思っていることを上司に報告したときだったと思います。その時、上司からスカウターの話を聞いたんです」


 腕組みをしながら、ずんだ餅さんは目を細める。


「スカウターの話を上司から聞いていた時、ちょうど人事部と廊下をつなぐ扉が乱暴に開けられる音がしたんです。人事部は普段、とっても静かな空間でなんですよね。その空間が、一気に騒がしくなったと記憶しています」

「騒がしくなった」

「ええ。人事部にも受付担当がいます。僕は、受付担当ではないので、直接的にはその人とお話したわけではないのですが、遠目から見ても、その人が冷静さを欠いた状態であるのは分かりました」


 ずんだ餅さんは、小さく息づく。


「彼が大声でまくしたてていた内容を要約すると、『自分が解雇されたのは理不尽だ』『あれは自分のゲームだ。自分をクビにするのなら、あのゲームもゲームのシステムや世界そのものが、自分のものだ』。……大体、こんな感じでしょうか」


 ずんだ餅さんはそう言った後、付け足した。


「そういった内容を大声で喚き散らしていた時に、数人の社員さんが後からやってきて、嫌がる彼を人事部から連れ出していきました。その時に、その社員さんたちが『ムトウ』と彼を呼んでいたはずです」


「シュウさんの知り合いの人事部の人も、『ムトウさんの人事は、急に決定されたものだった』と言っていたそうです」

「ああ、それも言ってましたね。普通なら、1カ月前には本人に辞令内容が伝えられるはずなんですが、どうやら彼はそうではなかったようでした」


 やっぱり。ムトウさんのクビは、急に決まったことだったんだ。


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