脱出経路
ステータスの読み取りが完了したことを確認してから、シュウさんにチャットを送る。
『シュウさん、脱出経路を教えてください。脱出しましょう』
私のチャットにすぐ返信があった。
『……では、出口を開く。ちょっとだけ待ってくれ』
うん? 出口を開く? 出口って最初から開いてるわけじゃないのか。私は頭をひねる。
すると、視界の端でシュウさんが建物の扉を引っ張っているのが見えた。いやいやいや、この扉ってオブジェクトじゃないの?
ゲームによっては、ストーリー進行に関係のない建物の扉は開かないように設定されているものがある。これもそういうものだと思った。
でも、扉は開かない。やっぱりあれは、オブジェクトであって開くものじゃないんじゃ……。
私がそう思っていると、シュウさんは何かリズムを刻むように取っ手を何度か引っ張った。すると、さっきまでの出来事が嘘のように、扉がごく自然に開いた。
そして、扉の向こうはなんだか、渦を巻いた不思議な空間。
『行くぞ。この出口は30秒しかもたない』
それは早く言ってほしかったかな! 私とアイダさんは慌ててシュウさんの方へと走る。30秒以内にあそこまでたどり着かないと、私たち永遠にこの場所に閉じ込められたままになっちゃう!
がむしゃらに走って、扉の中へと飛び込んだ。私たちが飛び込んだあと、シュウさんは扉の前に立つ。
「おや、また君もついてきたのかい。……そしてなぜ、出口のことを知っている」
男性の言葉に、シュウさんがふっと笑う。
「……さあな。そちらとどこかで会ったような気がしていたが……。どこで会ったのか、やっと思い出せたよ」
シュウさんの言葉に、男性は怪訝そうな顔をする。
「何のためにこんなことをしているのか、聞く気はないが……。この辺でやめておいた方がいい。運営側は、そちらを本気で探し始めるぞ」
「構わないね。ぼくには、このゲームで手に入れた特別スキルがある」
男性が鼻を鳴らす。シュウさんは落ち着いた声で続ける。
「……特別スキルがあったところで、このゲームは、この世界はゲームを運営する会社が作り上げたものだ。特別スキルだって、運営が本気を出せば奪い返されるかもしれない」
「そんなことは、ぼくがさせない」
男性が勢い込んで言う。
「ここは、ぼくの居場所だ。この場所は絶対に奪わせない」
居場所。この人もまた、このゲームが私と同じように居場所になってるんだ。悪いことをしている人かもしれないけど、その考え方にだけは同意できる。
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