アイダさんの話を聞くその2
「私の特別スキルは、『望めば手が増える』能力です」
「手が増える……?」
「増える……」
アイダさんの言葉に、私とシュウさんは思わず顔を見合わせた。手が増える……。手が伸びる能力を持ってるキャラクターなら数人知ってる。手が増えるキャラクターは、目の錯覚でそう見える技を使えるキャラクターは知ってるけど、本当に手が増える能力は、見たことがないかもしれない。
「ええ、手が増えるんです。そのおかげで、色んなことができるようになりました。最初は子どもに、気持ち悪いって言われましたけどね……」
苦笑いを浮かべながら言うアイダさん。
「サランさんたちが気になっている男性の方から連絡があったのは、数日前です。ゲーム内のメールに連絡が来たんです」
「どういった内容だったんでしょう」
「あなたに与えられた能力は、運営側が間違えて与えた能力なので返してほしいと」
「間違えて与えた能力……」
私に送られてきたメールには、そういったことは書かれていなかったな、と私はふと考える。
「そう言われて、ああそうか、と思いました。そうか、間違えて与えられた能力、そうだよね、と」
アイダさんは少しだけ俯く。
「私はこれといって特別なスキルを与えられるほど、特筆すべき特技も何もありません。あのゲームは、現実世界の自分自身とリンクしていることが多いゲームですから、そんなゲームで何の取り柄もない私に特別なスキルが与えられるのはおかしい、そう思ったんです」
「それは、違います」
気づいたら私はそう切り出していた。
「誰にだって、得意不得意があります。そして、誰よりも優れているかどうかは別として、人より優れた分野が一つは存在していると私は考えています。今までは私も、そうは思えませんでした。でもこのゲームに出会えて変わったんです」
「私も特別スキルを持っています。私の場合は、『言霊・物語付与』のスキルです。それは、現実の私自身とリンクしたスキルでした。アイダさんに与えられたスキルも、現実世界でのアイダさんにリンクしたスキルだったんじゃないですか」
私が言うと、アイダさんは何やら思い当たる節があったようで、はっとした表情を浮かべた。
「そう、そうです。……確かに必要な時だけ急激に集中力があがって、〆切前だけすさまじい勢いで仕事をこなせる。それは、私の長所でした」
それを聞いて、私は確信した。
「それは、運営が間違ってアイダさんに与えた能力などではありません。最初から、アイダさんのために、ゲームが与えた能力だったんです」
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