アイダさんの話を聞くその3

「私のために……与えられた能力……」


 アイダさんが、言葉を繰り返す。


「そうです。アイダさんのために与えられた能力です」

「ゲームがプレイヤーを選んで能力を与える……。そんなこと、本当にあるのでしょうか」

「私は……、あると思います」


 私の言葉に、アイダさんは怪訝そうに私を見る。


「本当に?」

「ええ。このゲームは、現実の自分とリンクしているところがウリですから」


 そうですよね、という風にシュウさんを振り返る。すると、シュウさんが静かに頷く。


「……現実逃避の娯楽としてゲームをする人も多いとは思う。しかし、現実はあくまで現実だ。現実から逃れて非現実に逃避しても、いつかは現実に戻らなければならない。現実が、本来自分が生きるべき場所だ。それをすり替えるべきではない」


 ここで言葉を切り、シュウさんは言葉を続ける。


「ゲームでの自信が、現実世界での自信につながれば、そう開発側が言っていたと聞く。このゲームは元々、そういう現実世界に不満を持っていたり改善したいと願ったり、自分を変えたいと思っている人間に向けて作られたものなのだ、と」


「……シュウさんもそう言ってますから。やはりアイダさんが得た『特別スキル』はアイダさんのために、与えられたものだったんですよ」


 私の最後の一押しに、アイダさんは大きく息づいた。


「ああ、よかったです……。あの時、特別スキルを手渡さなくて」

「やっぱり、盗られそうになったんですね」


 私の『特別スキル』も奪い取ろうとしてきたあの謎の男の人。やっぱり、アイダさんの『特別スキル』も盗もうとしてたんだね。


「ええ。本来、別の人に渡るはずだった『特別スキル』が間違って、私に付与されてしまったのだと。返還してほしいと言われました」

「でも、返さなかった」

「ええ。……なんだか、私の勘が、そうしない方がいいと告げているような気がして」


「アイダさん、あなたの判断は正しかったと思います」


 私の言葉に、アイダさんは安心したような顔をする。


「……そもそも、もし間違って付与してしまったとしても、それを回収しには来ないだろう。それはもう、プレイヤーに付与してしまったものだ。後から間違いだったから回収させてくれ、では誰も納得しない」


 シュウさんも頷く。


「となると、やはり、あの男性はオンラインゲームの詐欺師か何かなんでしょうか」


 アイダさんが顔をしかめる。


「まぁ、詐欺というかなんというか……。とりあえず、いい人ではないのは確かでしょうね。私たちも、詳しくは分からないのですが」

「……何にせよ、無事でよかった」

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