お昼ご飯選び
私たちは、ラーメン屋さんに来ていた。今更だけど、食べながら話したいって言われたのに、ラーメンはまずかったかもしれない。だって、ラーメンが伸びちゃう。
券売機の前で悩む私。中途半端な時間だし、券売機はいくつもあるので、待ち人を気にせず選ぶことができる。
「……これで足りるか」
月島部長が、券売機にお金を投入してくれる。私は慌てて言う。
「いえいえ、おごって頂かなくても」
「構わない。誘ったのはこちらだしな。ちょっと早いが、採用祝いでもいい」
「あ、じゃあ採用祝いで。ありがとうございます」
こういうのは、素直に甘えておくに限る。一人っ子の私はそう思ってる。本当はもっと、遠慮すべきなのかもしれないけど。
私は、お金を入れてもらった券売機の前で、さらに迷う。うーん、どうしよう。やっぱりラーメンセットにすべきかな。いやそれより、ちょっと豪華なラーメンにすべきかな。
うーんと悩みつつ、やっとこさ決めたラーメンセット。ラーメンのトッピングに、味付けタマゴを追加。お釣りを月島部長に返す。まるで、お使いに行った子どもみたいだね。
料理ができるまでに、席を確保。私と月島部長は、二人掛けの席に向かい合わせで座る。油がしみついた床は、滑りやすくなっている。
くんくんとお店の匂いをかぐ。ラーメンのおいしそうな匂い。うん、いい。
「……オシャレなラーメン屋ではないが……」
「私は、こういった場所の方が落ち着きますので」
遠慮がちに言って来た月島部長に、私はそう返す。父親がこういうお店が好きで、よく来ていた。母親はお店の綺麗さにこだわる人だけど、父親は店の雰囲気と料理の量が優先。父親が休みで母親が仕事の日はよく、こういうお店に来て、大盛のラーメン食べてたな。もやし、ましましで。
「改めまして、社員登用の手続きを進めて頂き、本当に感謝しています」
私がそう言うと、月島部長は首を横に振る。
「……礼を言うのは、こちらの方だ。そちらと出会えたおかげで、こちらの仕事はとても順調に進んだ。田尻課長に打診された案件もおそらく、そちらの力が必要となる」
彼の言葉に、私は手をぶんぶんと左右に振る。
「いえ、そんな。買いかぶりすぎですよ」
田尻課長が私と月島部長に振ってきた案件。それは、とある『特別スキル』持ちの人についての調査、そしてその人のスキルを取り上げること。
スキルを回収する対象は……――、以前私の特別スキルを奪おうとしたあの、男の人だったんだ。
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