宝石の中身

 宝石の残骸の中から出て来たのは、一本の鍵だった。


「鍵、ですね……」


 私が素手で拾い上げようとしたのを、シュウさんがそっと制した。


「……用心に越したことはない。『初見殺しの花』同様、素手で触れた瞬間、ゲームオーバーということもあり得る」

「その点だけは、貴方に賛成できますね」


 フリントさんが、静かに頷く。


「素手で触らずに済むようなアイテムがあるといいんですが……」

「素手で触れないで済むように拾い上げられるアイテムですか……」


 私は、腕組みをする。前に、『初見殺しの花』を手に入れる時には、『幸運のマント』を使った。今回も同じやり方でいいのかな。前に使った『幸運のマント』は、ちゃんと洗ってアイテムを収納してるトランクに戻してある。


 私が『幸運のマント』を取り出すと、シュウさんが無言で片手を差し出してくる。私は、その行動に首を横に振った。


「いえ、シュウさん。今回は、私がやります。もしシュウさんがゲームオーバーになりますと、このパーティーは壊滅です」

「違いありませんね」

「ということで、今回はフリントさん、お願いします」

「え!? 僕ですか!?」


 途中までうんうんと頷きながら聞いていたフリントさん。最後の私の言葉に、ずっこける。


「いや、私でもいいんですけど……」

「……そもそもこの旅の目的は、サランさんのスキルアップだぞ」


 シュウさんの的確な指摘に、フリントさんががくっと肩を落とす。


「そうでした」

「きっと大丈夫ですよ。そもそも、鍵に細工なんてないかもしれませんし」

「そうよそうよ。そもそも、そんなに生きることに執着している人間が、そう簡単にはゲームオーバーにはならないって」


 まぁ、ゲームで生き残ることに必死すぎて、周りと違うことをして死ぬ人は結構いるけどね。


 のどまで出かかった言葉を飲み込んで私は、フリントさんにお願いする。


「このパーティーの命運は、フリントさんにかかってます。よろしくお願いします」


 フリントさんはしばらく無言だった。すると。


「……まずい、鍵が消えかかってる」


 シュウさんの言葉に、私たちの視線は鍵の方に集まる。床に落ちていた鍵。それの輪郭が少しずつぼやけているのが分かった。


「もしかして、このゲームでも一定時間後アイテムが消滅するんですか」


 拾わなかったアイテムがしばらくすると消滅するゲームは数多く存在する。そもそもオンラインゲームだと、一定時間後にアイテムが消滅しないと、次にその場所に来た人たちが前に来た人のアイテムも含めて回収できちゃうし。


「……みたいだな。フリント、悩んでる暇はなさそうだぞ」

「もう! みんな他人事なんだから! こっちは心の準備がまだできてないんですよ!」


 そう言いながら、フリントさんは私の手から『幸運のマント』を半ばひったくるようにして受け取ると、そのまま鍵を拾い上げた。鍵を天井に向けて掲げたまま、停止するフリントさん。……しばらく待ってみたけれど、何も起きない。


「よかった。何も起きませんでしたね」

「……新たな敵襲来もない」

「特に変わった様子もないね」


 私たち三人の言葉に、フリントさんが情けない声を出す。


「た、助かった~」


 その時だった。鍵の中央についていたまあるい、玉のようなものが光を帯び始めたんだ。

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