感謝の気持ち

「最初に、皆さんに伝えておきたいことがあります。それは、感謝です」


 私は、一人ひとりの顔を見比べながら言う。


「ここに集まってくださった方、そして今このゲーム世界で懇意にさせて頂いている方はほとんどゲーム内、現実世界と違いはあるものの、最近知り合ったばかりの方たちです」


 シュウさん、フリントさん、フジヤさん。そしてカズアキさんに、カンナさん。もちろんそれ以外のこのゲームで知り合った人たち。


 その人たちは、少なくともゲーム発売日以降に知り合った人たちばかりだ。


「それなのに皆さん、本当に見ず知らずの私によくしてくださいます。私は、それがとても嬉しいんです」


 社会人として働き始めてから、人とのかかわりが少なくなってきていた。いつの間にか、人からどう思われるか怖くって。いつしか人とのかかわり自体が怖くなってた。


 でも、このゲームを始めてからそれは少しずつ変わった。


「本当に、このゲームを始めてよかったと思っています。ありがとうございます」


「なんか、改まって言われると照れるね」


 フジヤさんが笑う。


「元々はサランさんに助けられたのが始まりです。礼を言うのはこちらの方です」


 フリントさんが首を振りながら言う。


「……礼を言われるほどのことは、していない。困ったときはお互いさまというやつだ」


 シュウさんもそういいながら、目を細めた。


「しかし、このように常に互いに敬意を払うことは重要だな」

「たしかに」

「それはそうですね」


 フリントさんもフジヤさんも、シュウさんの言葉に同意する。


「お互い、この関係性を当たり前のものとせず、敬意を払いあうのが大事だな」


 シュウさんがしめくくる。


「ありがとうございます。これからもよろしくお願いします」

 私はそういうと、今度こそ本題に入る。


「それではフリントさん、ダンジョンについて教えて頂いてもよろしいですか」

「お任せください」


 フリントさんは言うと、びょーんと長い紙を取り出した。なんだか巻物みたい。

 おとぎ話の世界で、王様の命令を読み上げるときに使う紙みたいなやつ。


「……まさか」


 シュウさんが顔をしかめる。


「まさかそれ全部に、文字がびっしりなんてことは……」

「あります」


 シュウさんの言葉をさえぎるように、フリントさん満面の笑み。


「……そうか」


 シュウさん、それ以上何も言わない。私は、自分の手帳を取り出してメモを取る構え。


「……そしてそちらも、この長い内容を聞き取る気まんまんというわけだな」

「そのつもりです」


 シュウさん、大きなためいき。


「いいじゃない。最近講演とかあんまり聞いてなかったし。久しぶりに学生に戻った気分で話を聞いてみようよ」


 フジヤさんに促され、シュウさんもしぶしぶといった様子で頷いた。


「仕方ない、聞かせてもらおう」


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