特別スキルレベルアップ編その2

作戦会議開始前


 調合大成功が少し気にはなっていたけれど、私たちは傷薬を量産し続けた。待ち合わせの時間まであと10分。その時、フリントさんが姿を現した。


 みんなでそろって傷薬を作っているのを見たフリントさんは、ころころと笑った。


「なんだか、とても楽しそうですね。僕もまぜてください」


 そう言って、一つ傷薬を作ってくれたのだけど。明らかに失敗だった。器の中身が、真っ黒になって、ぷすぷすと音を立てている。


『傷薬(大失敗) 作成者:フリント』


 大成功があれば、大失敗もある。うん、そんな気はしてた。フリントさんは、納得いかない様子で、もう一つ作ってみた。だけど。


 これまた、大失敗。シュウさんが、遠慮がちに言った。


「……そちらは、普段は細かい作業は得意だろうか」

「……いえ、むしろ苦手です」


 がっくりと肩をおとすフリントさん。シュウさんは柔らかく言った。


「……やはりこのゲームは、現実世界の自分とリンクしているらしい。細かい作業は難しくとも、そちらにしかできないことはたくさんあるだろう」


「そう! そうですよね!」


 フリントさん、自信を取り戻したみたい。よかったよかった。


「……申し遅れたが、シュウという」

「あ、初めまして、フリントと申します」


 そういえば、シュウさんとフリントさんは初対面だったね。


「あ、私はフジヤといいます。何卒よろしくお願いします」


 そうだよ、フリントさんとフジヤさんも初対面だ。フジヤさんとシュウさんは以前、会ったことがあったけど、それ以外は初対面だよね。


「今日はお集り頂いてありがとうございます。それでは、作戦会議に入りましょうか」


 私の言葉に、フリントさんも椅子の一つに腰掛けた。フジヤさんとシュウさんも作業の手を止めて、私の方を向いてくれた。


「以前メールなどにてお話させて頂きました通り、私は特別スキルのレベルを上げたいと思っています。そしてそのために、様々な場所を旅し、様々な行動をしてみたいとも思っています」


 私は、以前カズアキさんにもらったこの辺の手作り地図と、カンナさんからもらってスキルで改造した地図をテーブルに広げる。


「以前、シュウさんの知り合いのカズアキさんに作ってもらった手作りの地図です。ここには、シュウさんと実際に出かけてみた感想などが書き記してあります。これと、今回フリントさんが調べてきてくれた情報をもとに、最初に攻略するダンジョンを決定したいと思います。ご協力、よろしくお願いします」


「これはビジネスではないのだから、そんなに硬くならなくてもいい」


 シュウさんが私にそう声をかけてくれた。そうだ、これはあくまで仲間でダンジョン攻略のための作戦会議をするだけだ。


 どうしてもまだまだ私自身が相手に心を閉ざしてしまってるんだ。自分の心の動きに、私は今更だけど気づいたのだった。

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