強力な助っ人


 私は走った。これは追いつかれるとまずいって、本能が叫んでる。私は野原を駆け降りる。けれど、どうやらこのエリア、結構狭いマップだったみたいで。


 私はすぐにエリアの端っこに到達してしまう。迫ってきた相手をうまく避けて、また私は反対側へと逃げ始める。


 走ってる私のメニュー画面の端に、新着メールを告げるポップアップ画面が立ち上がった。


 うわ、こんなときに確認できないよ! 私はそう思ったけれど、差出人を見て、読まないといけない気がした。


 メールを開封し、内容を確認しながら走り続ける。内容を読み終わったあと、私はゆっくりと速度を落とした。


 それを確認して相手もまた、速度を落として私の背中に声をかけてくる。


「もうあきらめたのかい。それも大事なことだね」


 私は完全に立ち止まると、相手の方を振り返った。鬼ごっこを続けようと思えばいつまででも続けられると思う。でも、それでは根本的な解決にはならない。


「あきらめたというよりは、話し合いでも始めようかと思いまして」


 私はそう言うと、男性の方をしっかりと見据えた。


「話し合いも何も、状況はこっちの方が上なんじゃないかな。君はぼくの許可なしにこのエリアから脱出することはできない」


「つまり、このエリアはあなたが独自に借り切ってるとか、そういう類のものなんですね」

「そう考えてもらって構わない。ぼくの能力はすごいからね」


 私は、ふっと笑って言った。


「でしたら、あなたを倒せば、このエリアから脱出できるってことですよね?」

「そりゃあ、そういうことになるね。でも、君に戦闘能力がないことは確認済みだ。ぼくに勝つことは、絶対にありえない」


 私はその言葉を聞いて、思わず笑いがこぼれる。


「何がおかしい」

「あ、すみません。確かに、私は戦闘能力はないです」


 私がそう答えた瞬間、私と男性の間の地面に一本の矢がつきささる。そのとたん、男性の動きが止まり、彼の額から冷や汗が流れ落ちるのが分かった。


「お前、何を……」

「私、一人で来たとは一言も言ってませんよね」


 私が言うと、男性はたじろぐ。強力な助っ人は、このエリアに唯一存在する建物の屋上にいる。彼は、私が送った転送メールにより私と同じくここへ召喚された。


 そして彼は男性に悟られないよう建物へ侵入すると、攻撃チャンスを狙っていてくれたんだ。私にさっき届いたメール。あれは、シュウさんからだった。


『そちらと、男性の二名を視認した。すまないが、こちらのジョブはアーチャーなんだ。向こうの動きをできるだけ抑える立ち回りはできるだろうか』


 私はそれを確認して、走るのを辞めたんだ。シュウさんが男性を狙いやすいように。


「……アーチャーか」


 男性が舌を鳴らす。私たちの、戦いが始まった。


 



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