メールの主との対面
私が連れてこられたのは、広い野原。ある意味、最初に女神アリッサ様と出会った場所に似ている気がする。
よく考えてみたらこういう野原って、ゲームではストーリー上のラスボスとの最終決戦のエリアとして使われる場合が多かったりするような……。
私の頬を嫌な汗が流れていく。周りを見渡すと、私の後ろに大きな塔のようなものがあるのが見えた。あれ、何だろう……。
それを確認するより前に、前方から声をかけられた。
「やぁ、よく来てくれたね」
そこに立っていたのは、スーツに身を包んだ男性。年齢は……――、シュウさんと同じくらいのように思う。ただ。その細められた目と浮かべられたにこやかな表情を見て、私の足は自然と後退する。
この人は、ヤバイ類の人だ。私の直感がそう告げている。けれど。このまま後退を続けていては、相手に自分が相手を怖がっていることがバレる。その方がまずい。
私は下がろうとする足を気力で止める。そして、男性の方をまっすぐ見つめて言う。
「あなたが、私をここへ呼んだんですか」
「そう、ぼくが呼んだ」
ますます、男性の顔が笑顔になる。
「君は、特別なスキルを持っている。そのスキルを、ぼくのために使ってほしいんだ」
私は唖然とする。突然、何を言い出すのこの人。
「言っている意味が、よく分かりません」
私が即答すると、男性は頭をかく。
「まぁ、そうなるよね。気づいているとは思うけど、君は他の人が持ちえない特別なスキルを持っている。そのスキルを、ぼくのために使ってほしいんだ」
いや、それは分かってるんだけれど。
「私が聞きたいのは、なぜ初対面のあなたに、私のスキルを使って差し上げなければいけないのかということです」
私の言葉に、男の人はにやりと笑う。
「君は、現実世界では必要とされていない存在だ。そんな君を、ぼくが使ってあげようというんだ。ぼくは、このゲームに選ばれた存在だからね」
「ゲームに、選ばれた存在……」
私が繰り返すと、男性は頷く。
「そう。ぼくは、ゲームに選ばれた。ゲームは、ぼくにも特殊なスキルをくれた。詳しく知りたいなら、ぼくの仲間になってくれないと」
私は逡巡した。ゲームやアニメやドラマなら、わざと仲間になったフリをして情報を聞き出すキャラクターもいる。でも、私にはそんな度胸はない。
「……すみませんが、お誘いはありがたいのですが、辞退させて頂きます」
私の言葉に、男性は驚いた表情を浮かべる。
「おや、どうして」
「初対面の人に、現実世界では必要とされていない存在とか言われて、ついていく人の方がおかしいと私は考えます」
男性の表情が少しだけゆがんだように思った。彼は声高らかに宣言する。
「それじゃあ仕方がない。力づくでその能力、奪い取ってあげよう」
そう言って、私の方に手を伸ばしてくる。まずい展開になってきた!
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