キアナさんの手伝いをしながら


 数十分後。私たちは、たくさんの書類の束に囲まれて、一息をついていた。書類にまぎれて、人数分のお茶が湯気を立てている。


「……今更だが。すべての受付嬢がこのようにクエストの書類を毎回このように分類しながらクエスト案内をするのか」


 シュウさんがお茶をすすりながら言う。


「いや、違うと思う。多分だけどあたしが、整理整頓できないからだ」


 書類の束のうちから数枚を持ち上げながら、キアナさんが大きなため息をつく。


「……やはりか」


 シュウさん、ふうと息づく。私がシュウさんを見上げると、彼はさらりと言った。


「……つまりわたしたちは、そちらの書類の整理整頓を手伝わされたというわけだな」

「人聞き悪いなぁ、ちゃんとクエストの受注手続きはするってば」


 キアナさん、にやっと笑う。あ、これは確信犯だ。まぁ、いいクエストも見つけられたし仕方ないね。


「……キアナさんがちゃんとクエスト書類を整理できるようなファイルでも、今度作ってあげますね」


 私が言うと、キアナさんはガッツポーズをする。


「え、マジで!? それは助かる! 楽しみに待ってるね」


 キアナさんがクエスト書類を整理できるようになれば、次からクエストを頼むのも楽になるし。他のお客さんも書類整理を手伝わされなくなる。きっと、それが誰にとっても幸せだ。適材適所だからね。


「それで、いいクエストは見つかったの」


 キアナさんが尋ねてくるので、私はシュウさんと選んだ数枚のクエスト書類を彼女の前に出す。


「はいはい、承りましたっと。あと、そっちの高レベルプレイヤーさんはご存知だと思うけど、デイリークエストもあるから、それもうまく活用してってね」


 キアナさんがシュウさんに向けて言うと、シュウさんは頷く。


「デイリークエストとは」

「クエスト受注所から受注するものではなく、日替わりでそれぞれのアカウントに割り当てられたクエストのことだ。これは達成すると勝手に報酬がアカウントの持ち物に入る仕組みになっている」

「そっ。わざわざクエスト受注所にクエスト達成報告する必要も、報酬の回収に来る必要もないってワケ」


 便利でしょ、とキアナさん。確かに、クエスト受注所に来るのが面倒な人は、このデイリークエストを消化するのが効率いいかもね。


「クエストを達成するだけでも様々な報酬が手に入る。見たこともないような素材アイテムを見れば、新たなアイテム作成のヒントになるかもしれない」


 シュウさんの言葉に、私は、はっとなる。確かに。今までレベル上げだったり、強い装備アイテムとかを手に入れるためだから必要ないと思っていたけれど、素材アイテムがもらえるとするなら、私のスキルの幅を広げる一つの可能性につながるね。


「ということで、クエスト受注手続きは済んだから、気合い入れて頑張ってきてね」


 手を振って出口までついてきてくれたキアナさんに見送られながら、私たちはクエスト受注所を後にした。



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