セナさんの話


 それぞれの注文の品が届いたところで、ルリアさんが話し始めた。


「それであなたは、セナがどう騙されたかを聞きたいんでしたっけ」

「あ、はい」


 私が頷くと、ルリアさんはじとっと私をにらむ。


「本当に、セナを騙した人ではないんですね」

「あ、ルリア、それは絶対にないよ。流石に、男と女は見間違えないし」


 セナの言葉に、ルリアは驚いた顔をする。


「え、セナを騙した人って、男の人だったんですの」

「そうだよ。あれ、言ってなかったっけ」


 セナが頭をかく。どうやらルリアさんは、セナさんがどんな人に騙されたのか、詳しい話は聞いてなかったみたいだね。セナさんは、私に向き直ると言った。


「えっとそれじゃ、あたしがいかにして騙されたか話しますね」

「お願いします。……あ、ここからはタメ口で結構ですよ、仕事じゃありませんし」


 私がそう言うと、セナさんは嬉しそうな顔をする。


「ほんとに!? 助かる」


 ここは職場じゃないし、相手は同じ仕事場の仲間ってわけでもない。ただ年下と年上って関係なら、別に友達みたいな感じでお話するのでいいと思うんだよね。ま、人によってその辺の考え方は違うと思うけど。


 セナさんは、考え込むような顔をしながら話し始めた。


「あれは、昨日の夕方の話。学校が終わって、ゲームにログインした。んで、ルリアとこのお店に来たんだよね」

「ネットで、ここのお店にイケメンがたくさんいるという情報をゲットしたのですわ」


 ルリアさんが胸を張る。うん、私は同じ町にいながら全然気づかなかったから、きっとそういうイケメン情報を扱うサイトとか、あるんだろうね。


「それで、ルリアが好みの店員さんを追いかけていなくなった後に、事件は起こったの」

「まるであたくしが悪いみたいな言い方ですわね」

「いや、そうは言ってないけどさ」


 ルリアのジト目にも、セナさんは全く動じてない。


「あたし好みの男の人が来たのよ。それで、あたしの向かい側に座ってね、一瞬何か考え込んでいたワケ。きっとあたしのステータスを確認してたんだと思う。んで、あたしの武器やら防具に対して不満はないかって聞いてきたの」


 ふむふむ。


「それで、武器も防具も今持てる中の最高ランクのものを持ってるから、特に困ってない。ま、攻撃力と防御力は高くはないけどさって答えた」


 初対面の人がいきなり、不満はありませんかって聞いてきたときの答えは、一つ。困ってることは何もありませんが一番安全なんだけどね、きっと。


 私がそう思っていると、フリントさんはやんわり言う。


「せっかくいい答えを返したのに、少しだけ惜しいことをしましたね」

「あ、やっぱり? 特に困ってないで止めておくべきだったか」


 セナさんは、ぺしっと自分の額を叩く。


「その人もさ、あたしがその一言を付け加えた瞬間、目を輝かせてさ、『それなら、いい方法があります』って言ったんだよ」


 あ、高い品物売りつけられそうな予感。私の表情と同じく、フリントさんも苦い顔をしている。


「んでその人、あたしの防具と武器を一瞬手に取ったかと思うと、『いいスキルをつけてあげましたよ』って言うの。んで、スキル代よこせって、有り金ぜーんぶ、巻き取られちゃったってワケ」


 セナさん人がよすぎるよ。お店の人に、助けを求めればよかったのに。


「お店の人に言おうかとも思ったけど、自分が悪いからね。人様に迷惑かけるわけにもいかないしって、そのままお金渡しちゃったんだよねぇ」


「セナは、この世界で稼いだお金だけでなく、現実世界での貯金やお小遣いをこちらのお金に変えてしまっていたので、かなりの額を持っていかれましたわ」


 ルリアさんが俯く。


「しかもさ、この武器や防具、あたしのじゃないの。あの一瞬でどうやら、すり替えられたらしい」


 セナさんが悔しそうに言う。変なスキルをつけられたとかじゃなく、そもそもアイテムを盗まれて、安いアイテムにすり替えられちゃったってこと?


「それは、立派な犯罪ですね」


 フリントさんが低い声で言う。私も頷く。


「一応、運営にも連絡はしたけど、その人を特定できたとしても、そもそも元のアイテムやお金が戻ってくるかは分からないって」


 セナさんは大きく溜め息をつく。


「あたしさ、この世界で稼いでさ、妹の誕生日プレゼントを買ってやろうと思ったんだよね」

「誕生日プレゼント」

「そっ。妹はあたしと違って頭がよくてさ、いい大学に進学が決まったんだけど、周りがブランドものバックとかで固めた女子ばっかりらしいんだわ」


 あ、それ、分かる。私が通っていた大学の女子も、ブランドものバックとブランドもの財布ばっかりだった。でも私、そういうの一切気にしないタチだから、持ってなかったなぁ。ただ、それは周りの環境によって変わるよね。持っとかないといけない雰囲気の環境だって、あると思うし。


「んで、有り金全部こっちに突っ込んで、それをもとでになんとかこっちで倍にはしてやろうと思ってた矢先の話でね。騙されたのは自業自得とはいえ、有り金なくなっちまったのは、ちょっと痛くてさ」


 悲痛な面持ちのセナさんを見てたら、なんとかしてあげたいって思う。


「手伝います」

「え」

「セナさんを騙した人、私達で見つけ出しましょう。そして、お金とアイテムを取り返しましょう」


 ついでに、妹さんのプレゼントが買えるくらいまでの資金集めも手伝ってあげたい。


「いいの……?」


 セナさんは、戸惑った表情を浮かべる。私は、親指を突き出して言った。


「ルリアさんの掲示板をフリントさんが見つけたのもきっと、何かの縁。一緒に頑張りましょ!」


 こうして私とフリントさんは、セナさんを騙した犯人捜しを手伝うことになったのだった。

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