カンナおばさんのお店へ

 私はカンナおばさんのお店へとやってきた。さっきの男の人たちは、やっぱり高レベルプレイヤーとのペアリングという証拠が効いたのか、早々に引き上げて行った。あぶない、あぶない。もしこれでペアリングしている人がいなかったら。またはペアリングしている人のレベルが低かったらと思うとぞっとする。


 恐るべし、ネット社会。というか、ゲーム社会。まだ発売日初日だからね、色々と問題が噴出している時期だよね。バグとかもたくさん見つかってるんじゃないかな。

 カンナさんのお店でやること済ませたら、私も今日はログアウトしよう。そう思いながら、私はお店の前に立つ。さっきまで回っていた道具屋に比べると、やっぱりお店の雰囲気はレトロな感じ。お店の前に置かれている品物を入れる箱とかも、とっても年季が入ってる感じがする。

 私は、レトロな感じの方が好きなんだけどね。お店の中に入ろうとすると、扉に取り付けられたベルがけたたましく鳴り響いた。 


「おや、いらっしゃい。……あ、さっきの」

「はい、サランと申します」


 そう言えば私、カンナさんに名前名乗ってなかったよなと今さら思って慌てて名乗る。 


「サランちゃんね。お店回ってきてくれてありがとう。どうだった?」

「たしかに、たくさんお店がありますね。値段もマチマチです」


 私の言葉に、カンナさんは大柄な体を縮めながら言う。 


「そうなんだよ。価格統一とかないからさ、結果的に安い店の方が売れちまうんだ」


 確かに、性能に違いがなかったら誰だって、安いお店で仕入れようとするよね。 


「性能に違いがあったりはしないんでしょうか」


 私が聞くと、カンナさんは腰に手を当てて言った。 


「どうだろう。他の店のアイテムを買うことなんてないからねぇ。違いがあるかどうかなんて、調べてみたことがないよ」


 私、ひらめいた。これ、あれだ。

『同じアイテムを使ったからって、効果が同じとは言ってない』ってヤツだ。お前何言ってるんだって思われるかもしれないけど、RPGの道具屋って基本的に1つの街に1つしかないじゃない。多くて2つか3つ。


 それで、基本的に店の主人ってどの街に行っても同じ顔の人でしょ。とあるゲームだと、全員親戚とかいう設定があったりもした。


 そういった、ゲームで配置されている道具屋さんで売っているアイテムってきっと、同じところから仕入れてると思うんだ。だから、品質はどこで買っても同じ。


 でも。この街にある道具屋さんはどうだろう。お店の人に聞いて回った話だと、今日から冒険者がたくさん来るということで開業したお店の人が多かった。アイテムは、薬草とか傷薬とか、簡単なものは自分で作って売っている人も多いみたいだった。だとすると、ゲームでよくある熟練度みたいなものが関係してこないかな、そう考えたんだよね。


 ふと、以前読んだ小説が頭をよぎる。その小説は、とあるゲームに取り込まれてしまったという今人気のジャンルの小説だったんだけど。


 その小説、ゲーム内の世界で主人公たちがご飯を食べるシーンがあるんだけど、ハンバーガーでも、スパゲッティでも、全部同じ味で、しかも全然おいしくないっていう話が出てくるんだ。


 人によってはご飯の味なんてと思う人がいるかもしれない。でも、毎日どんなにおいしそうな見た目の料理でも、味がしなかったら嫌になってくるだろうし、ましてやそれが自分の嫌いな味とかだったら……、ご飯なんて食べたくないって気持ちになっちゃうかもしれない。


 その原因は、作り手の熟練度の問題だった。誰でも調理スキルは持ってるけど、ゲーム内での称号「料理人」なんかを持っている、何度もゲーム内で料理を作った人の方がおいしい料理を作れるってお話。


 そんな設定が実はこのゲーム内でも、当てはまるかもしれない。そう私は考えたんだ。これは、調べてみる価値があるかもしれない。

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