ペアリング設定にご用心

 すべての道具屋さんを見て回ったあと、私はカンナおばさんのお店へと急ぐ。その時、一人の男の人とすれ違う。見た感じ、大学生くらい。茶髪の紙に同じく茶色の目。イヤリングやらネックレスやら、たくさんアクセサリーをつけている。


 このアクセサリーって、普段自分がつけてるものが反映されるのかな。今日は仕事終わりにそのままVRMMOの世界に入ってきちゃったから、アクセサリーなんて、腕時計くらいしかしてないんだよね。


 私がそんなことを考えていると、男の人がにこっと笑いかけてきて言った。


「あ、キミ、もしかして初心者の冒険者かい? 僕もなんだ」

「あ、はい……」


 人を見た目で判断しちゃ駄目って分かってはいるけど、最初からタメ口で話してくる感じのタイプ、苦手なんだ。何でって? うーん、現実世界での私ってとても地味だからさ、こういう人から悪く言われがちでね。空気の読めない人とか。


「さっきさ、とってもいい人に出会ってね。その人、ペアリングしてくれたんだ。なんでも、まだペアリングする人を募集してるらしいから、よかったら一緒にその人のところに行かない?」


 おお、新手の勧誘だね。とはいえ、ペアリングは気になるんだよなぁ。後で、この世界から出たらインターネットで情報を調べておこう。


 私は、はっきりとその人に向かって言った。


「せっかく誘って頂いたのに申し訳ないんですが、既に別の方にペアリングしてもらってまして……」


 私、勧誘を断るのはそこまで苦手ではないんだ。あと、お客さんが一人も入っていないお店に入るのも、割と平気。人によっては何か買わないと出られない状況のように感じちゃう人いるみたいだけど。


 私の答えに、男の人の隣に別の男の人が現れた。こっちの男の人は、背も高いし、筋肉隆々。いかにも鍛えてますって感じ。最初の男の人はひょろっとしてる。


「そう言わずに、その人とのペアリング切ってオレと組みなよ」


 ああ、ダメなタイプだこの人。すっごい苦手。でも1つ分かったことがある。ペアリングって、少なくとも初心者は1人としかできないんだ。


 私は、そっと筋肉隆々の男の人を眺めた。すると、彼の横にステータスが表示される。レベル20かぁ。私、レベル1だもんな。逃げ切れるかな。そうだ。


 私は筋肉隆々の男の人に向かって言う。


「あなたは、レベル20。私がペアリングした方は……」


 そこで言葉を切って私は、男の人に笑いかけた。


「私がペアリングした方は、レベル60です。なんなら、今から呼び出しましょうか」


 このゲーム、今日が発売日だよね。あれかな、日付変わった瞬間から遊んでるとか、今日1日仕事が休みだったとかで、こんなすさまじいレベリングしてるのかな。


 私は心の中で苦笑いする。ゲームって本当に人それぞれ楽しみ方が違うよね。ゲーム好きって一口に言っても様々。私はRPGが好きで、物語の内容がよければそれでよし、ゲームシステムとかは特に難しすぎなければ気にしないし、最上級の、獲得できる数が決まっている回復薬とか、結局もったいなくて使えないタイプ。


 さっき私がペアリングを承認したシュウさんはきっと、効率よくレベルを上げて、自由度を高めていくタイプなのかな。


 私の言葉に、筋肉隆々の男の人が明らかに動揺した顔をする。


「な、こんな短時間にそんなレベリングができるはずが……」


 冷や汗を浮かべる男の人たち。やっぱりシュウさんのレベルは、すごいんだ。そんな人と初日から出会えたのは、幸先がいいかもしれない。

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