【副将戦】
「小北さんは負けず嫌いだから。佐谷君にリベンジできる位置で出てくるはず。こちらのエースと見てるだろうから、下では出てこない。五割がた、副将戦だと思う。知らない一年生だった時に、一番がっかりするはずだし、そんなときに中野田君の剛腕に当たればチャンスがある」
覚田の予想通り、小北は副将だった。オーダー表を確認するなり、小北の顔は曇った。
中野田の方は、気合でみなぎっていた。伝説のビッグ4と対戦するから、だけではない。蓮真は小北に勝っている。その小北に、自分が負けるわけにはいかない。
対局が開始して、小北の三間飛車に対して、中野田は穴熊に潜った。一見普通の戦型だが、観戦していた安藤は思わず声を上げそうになった。
春の大会以降、中野田は試行錯誤してきた。もちろん、負けて悔しい、もっと強くなりたいという気持ちがあった。ただ、それだけではない。団体戦を経験して、チームの一員としてどうすればいいのか、も考え始めたのである。
彼は、誰かのために戦ったことなどなかった。春の大会、チームは優勝を目指せるわけではなく、プレッシャーもなかった。それでも、やっぱりチームが負けたら悔しかった。
棋風を変えるというのは、難しい。彼には、変えるつもりもなかった。それでも、安定性は必要だと感じていた。
将棋は、まっすぐ強くなるものではない。壁に当たって止まり、よじ登れた時に一段階上に行ける。中野田は何回も、壁に当たって立ち止まってきた。そして何回も、よじ登ってきた。ただ、届かない高さがある。小学生の時のライバルは、ずっと高くまで登って、奨励会に入った。よじ登るスピードが桁違いの奴らが、常にいた。
今回は、同級生だった。佐谷蓮真。一見落ち着いているが、内面にはどす黒い思いを抱えているのが分かった。中野田は、負けたくなかった。彼もまた負の感情を抱えているが、それはすべて、将棋から生まれるものだった。けれども、蓮真は違う。詳しく聞いたわけではないが、そのことは中野田にも察知できた。
よじ登るには、新しい道具が必要だった。だから中野田は、これまでとは違う指し方に挑んでいるのだ。
ただ、彼が相手にしているのは、ビッグ4の一人だった。しかも、現役の時と変わらぬ気合で挑んでくる、強豪だった。
中盤をすぎ、中野田はギアを上げる。彼の本質は、自由な攻めだ。発動を普段よりも遅らせただけで、最初から守り抜く気などない。
だが、小北は穏やかな表情で、淡々と受けていった。穴熊よりも薄いはずの美濃囲いが、形を変えながら柔らかく中野田の攻めを包み込む。小北も内心、予想外の手の数々に関心はしていた。しかしそれも、確認してから対応できる範囲だったのだ。
中野田の攻めは、完全に切れた。穴熊だけが、ポツンと残っている。
奥歯をかみしめた。振り返ると、完敗だった。新しい壁が、高々とそびえたっていたのだった。
現役チーム対ビッグ4チーム
北陽 ‐ 野村
中野田×-〇小北
佐谷 - 瓦
覚田 - 内子
福原 - 松野
安藤〇
夏島〇
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