第116話 摘発に向けて②

 シルフィルは本当によく食うと思う。

あっという間に、料理を平らげてしまう。


「相変わらず良く食うな」

「ちゃんと味覚があるからな」


 そして、樹も食べ終わる。


「「ごちそうさまでした!」」

「さて、帰るか」


 樹は料金を支払うと席を立った。

王都の中心街から歩いて15分程度で、屋敷の前に到着する。


「ただいまー」

「「おかえりなさいませ」」


 セザールとディルクが出迎えてくれた。


「あ、今日、外で飯食ってきちゃったから、晩飯はいいや。言うのが遅くなってすまんな」

「いえ、大丈夫ですよ」


 そう言ってセザールは微笑んだ。


 樹はリビングでコーヒーを啜りながら資料に目を通していく。

大半が、営業取り消し処分を受けていて、残っている店舗は3店舗だけであった。


「アリア、ちょっといいか?」

「はい、何でしょうか?」


 樹にコーヒーのおかわりを持って来たアリアを呼び止めた。


「まぁ、座ってくれ」

「では、失礼します」


 アリアは樹の対面のソファーに腰を下ろした。


「これが、未成年者を働かせている風俗店なんだが」

「ほとんどが営業取り消しで、残っているのは3店舗ですか」

「ああ、そうだ。明日、この店舗に行ってみようと思うんだが」

「お供します」

「そうしてくれると助かる。今日は早めに休んでくれ」

「ありがとうございます」


 翌日、樹は珍しく早く起きてきた。


「おはようございます。今日はお早いですね」


 掃除中のディルクが声をかけてきた。


「おはよう。今日はちょっと行くところがあるからな」


 シルフィルはどうやら、まだ寝ているらしい。

樹はいつものようにアリアと共に朝食を取る。


「昼過ぎくらいには出れるかな?」

「ええ、大丈夫だと思います」

「よし、ちゃっちゃと片付けますかね」


 樹とアリアは朝食を取り終わると屋敷を出た。

シルフィルには昨日のうちに魔法石に蓄えたマナを渡しておいたので大丈夫であろう。


「にしても、こんな真昼間から風俗店なんてやっているんだな」

「そうですね。大体昼過ぎくらいからやっているみたいですよ」


 アリアと他愛もない話をしながら歩いて数十分の所に位置する、王都の繁華街へと入った。

繁華街というだけのことはあり、ここには夜まで人で溢れている。


「えっと、まずはここだな」


 樹はリストにある店舗の前に来ていた。


「アリアはここに居てくれ。俺が探り入れてくる」

「承知しました」


 樹は夏仕様に新しくした、コートの襟を正すと店舗の中に足を踏み入れた。


「いらっしゃい。ご指名はありますか?」


 中に入ると、目つきの悪い厳つい兄さんがぶっきらぼうに言った。


「いや、俺は客じゃない。ここのオーナーと話したい」


 そこまで言うと樹は懐からプラチナに輝くギルドカードを見せた。


「何をしに来た?」


 男の声が一気に鋭いものになった。


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